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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

50代ビジネスパーソンに求められる「働き方」と「生き方」の戦略転換

前川孝雄・FeelWorks社長

バブルを謳歌したのも今や昔、給料は思うように増えず、早期リストラの対象となり、定年退職というゴールが視界の先に見え始めた50代の企業戦士たち。人生100年時代の後半戦をいかに働き、生きるのか。著書『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)で、ミドル層のこれからの人生戦略を説くFeelWorks代表取締役の前川孝雄氏に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)

前川孝雄・FeelWorks社長プロフィール

前川孝雄氏

1966年生まれ。兵庫県出身。大阪府立大学経済学部卒、早稲田大学ビジネススクール・マーケティング専攻卒業。89年リクルート入社、『リクナビ』『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち独立し、2008年FeelWorksを設立。上司力やミドル層の働き方をテーマにした研修などで多数の企業を支援する。著書に『「働きがいあふれる』チームのつくり方』(ベスト新書)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHPビジネス新書)などがある。

50代ミドルの置かれた状況と第2のキャリア構築

 

「すぐに辞めて起業」は正解か      

 現代日本を生きる50代ミドルの置かれた状況は深刻だ。右肩上がりの給与と地位が約束された年功序列と終身雇用制度は崩壊寸前、早期リストラのターゲットにされ、役職定年も目前に迫る。「人生100年時代」が叫ばれる一方で、年金受給の開始時期は後ろ倒しになる気配が濃厚となってきた。

 そうした中、「今すぐ会社を辞めて独立せよ」「会社に縛られない第2の人生を」といった声に促され、早期退職に応じるビジネスパーソンもいる。だが、そんな人々に前川氏は「待った」をかける。辞める辞めないより先に、自らのやりたいことを明確にし、学び直しによって「キャリア自律」を図るべしというのが同氏の主張だ。

 「独立・起業を否定するわけではなく、いきなり辞めると大ケガをするので徐々に会社から自立するステップを踏んで十分な助走期間を経てジャンプしようということです。大多数の人は、すぐに熱中できるものを見つけて起業というのは難しいので、今いる会社の中で経験値を上げて、第2、第3の人生に向けて準備することをお勧めします」

 転職して新たな職場に移ったり、独立した後では人生後半戦の準備をする時間が足りない。そのため、企業に在籍しながら他部署の仕事を積極的に学んだり、副業を含めた社外活動に参加したりすることで、自らキャリアを切り拓く力を身に付けることを前川氏は提唱する。

 また、「無理矢理な独立・起業」と同じく「嫌な思いをして会社にしがみつく」という行為も、幸福感・充実感という観点でいえば健全とは言えない。『50歳からの逆転キャリア戦略』は、そんな迷える世代に向けた指南の書だ。

会社を辞めてはいけない人とは

 ちなみに、前川氏が著書に挙げている「まだ辞めてはいけない人」のタイプは以下の通りだ。会社を辞めて転職・独立を考えている方は今一度、自問してみると良いかもしれない。

  • やりたいことがない人
  • 変化に対応できない人
  • 根拠なく楽観する人
  • 自分を客観視できない人
  • 経営の知識や視点に欠ける人
  • 自分のことしか考えていない人
  • 社名や肩書にこだわる人
50歳からの逆転キャリア戦略

大企業勤務のミドル層向けに人生後半戦のキャリア構築を説いた著書

前川孝雄氏に聞く「50代のこれからのキャリア戦略」とは

 

キャリアと人生に希望が持てなくなった大企業ミドル層

―― 前川さんはもともと若い人のキャリア構築を支援したいという動機で起業したそうですが、同世代の50代に今回フォーカスした理由はなんですか。

前川 もともとは、次の世代が希望の持てる社会づくりに貢献したいという気持ちがありました。そのためには若い人たちを指導する上司を育てないといけないのですが、その上司自身が疲弊していることに気付いたからです。この世代の人たちがもう一度元気にならないと、若者の育成もできないと思いました。

―― 上司世代が希望を持てるように、彼ら自身のキャリア自律が必要というわけですね。

前川 50代以上の多くは、はしごを外されたという感覚を強く持っています。自分が40代になったら課長ぐらいにはなっているだろうと思っていたら、地位も給料も上がってない上に、社会保障費も上がっているから手取り収入は減る。さらに人生100年時代でゴールがますます遠のいていくという状況です。確かに可哀そうですが、ルールが変わったので仕方がありません。もう一度マインドセットして、チャレンジしたいと思う人が一人でも増えればいいなと思っています。

兼業、副業がダメならボランティアでもOK

―― 社内で他部署の仕事をこなしたり、社外活動を積極的に行うことを推奨されていますが、好きなことが見つからなかったり、副業が禁止されていたりする場合はどうすれば良いでしょうか。

前川 その場合でも、他社の社長のかばん持ちやボランティアなど、無償でも良いから何か始めたほうが良いですね。例えば、ドワンゴの川上量生会長は以前、スタジオジブリで丁稚奉公をしていたことで有名ですが、トレーニングのためにサラリーマンもそれと同じことをやればいいと思います。

―― キャリア自律の重要性を理解していても、なかなか重い腰が上がらない人も多そうですが。

前川 私たちは組織改革の仕事もやっていますが、まず変われる人から変えるのが重要です。全体の2割の人が変わると、その人たちに啓発されて影響力が一気に広がります。組織作りにおける2:6:2の法則ですね。日本企業の場合、やる気のある上位層が2割もいなくて、下のほうで大勢が思考停止している状態がほとんどです。

前川孝雄氏

若者を支援するためにも上司世代にあたる50代ミドルの活力を取り戻すことが重要と語る前川氏

社員のキャリア自律に企業はどう向き合うべきか

 『50歳からの逆転キャリア戦略』の購入者は、40代以上で大企業勤務のビジネスマンがほとんどだという。発売1カ月余りで既に3刷目の重版が決まるなど、反響は大きい。

 中小企業にずっと勤務している人々には理解しにくいかもしれないが、転職経験のない大企業社員の中には、たとえ僅かな昇給や昇進でも、人生を左右するが如き大問題としてとらえる人も多い。そうした社内向きのカルチャーに長年染まると、「キャリア自律」がますます難しくなるのは想像に難くない。

 そこで、大企業を中心に社員のキャリア自律を促す取り組みを行うケースも増えてきたが、果たして有効なのだろうか。

―― 50代からのキャリア自律は、組織が硬直化した大企業勤務の人たちより、むしろガバナンスが緩い中小企業の人たちのほうが有利なのでは、とも思いました。

前川 実は中小企業のほうが大企業と比べてジョブ型雇用(※)が多い。大企業では課長層が年収800万円ぐらいもらっている一方で、中小企業などでは300万円未満が4割を占めます。でも、中小企業の社員は部下も潤沢にいないので仕事体力があるし、いろんなことを一人でやるので、生きていく力はそちらのほうが付くかもしれませんね。

―― 企業が社員のキャリアプラン支援に力を入れすぎると、逆に自律を阻害してしまいませんか。

前川 本来ならば、会社がおぜん立てするのはダメです。例えば副業を解禁したある会社の場合、人事部が社員の副業を紹介することまでやっていて、正直違和感があります。ただ、移行への過渡期にはいったん補助輪をつけてあげたほうがいいという考え方もあります。これまでずっと、終身雇用と年功序列でキャリアについて考えずにきた人が、いきなり自律と言われてもうまく行きません。

 移行期には人事が支援して、徐々になくしていくのが良いと思います。どういう時間軸で補助輪を外すかのグランドデザインを考えるのも、経営者や人事の手腕ではないでしょうか。

(※)仕事に人を当てはめていく雇用スタイル。専門性を高めたり新たな経験や考え方を取り入れやすいメリットがある一方、職場内でのキャリア構築が難しくスキルアップが自分次第という面もある。逆に人を仕事に当てはめていくスタイルはメンバーシップ型雇用と呼ばれる。

50代に求められる新たな働き方と人生観の形成

―― 著書の内容は若い世代も参考になると思いますが、すぐ下のロストジェネレーションと呼ばれる世代は、今の50代より深刻な状況になるかもしれません。

前川 仕事経験が不足しているロストジェネレーションにとっては、さらに厳しい時代になるでしょうね。ただ、仕事のパフォーマンスが「意欲×能力」だとすれば、バブル世代と違って経験が不足しているぶん、意欲は高いのではないでしょうか。キャリア構築で誰にも頼れないことを知っているので、スキル教育を効率的にやればなんとかなつかもしれません。

―― SNSの発達などによって個人の活動の幅は広がっているので、そうしたものを効率的に使うことも考えたほうが良いですよね。

前川 兼業、副業を認めていない会社は多いのですが、働き方改革の旗が振られているので空き時間は増えているはずです。この時間を、第2の人生のために有効に使うべきだと思います。

 ただ、私自身は働き方改革に反対なんです。働きやすさを追求しすぎると、会社も個人もダメになると考えています。政府がやろうとしているのは労働時間の削減で、同一労働同一賃金の一方で給与を上げるという方向性ですが、それでは労働者の不満は減っても仕事の満足度は上がらず、権利意識だけが肥大化していくと思います。

 人材育成上、ストレッチした仕事をやらないと能力は上がらないものですが。今の働き方改革では若い社員に対して「時間がかかってもやるように」と言えなくなります。かつ、残業もできないから上司が若者の仕事を代わりにやることになります。(米国の臨床心理学者である)フレデリック・ハーズバーグが言うように、仕事の動機づけは仕事そのものに対して、責任感や達成感を持たなければできません。こちらをしっかりやらないといけないのですが、残念ながらできていません。

―― ますますミドル層が自分のキャリア構築を考える時間が減ってしまいますね。

前川 ダイバーシティマネジメントやマインドフルネスなどもそうですが、日本では欧米で流行ったものをすぐに取り入れたがる傾向があります、アメリカ人は方程式を創るのが上手いので物事がどんどん進みますが、日本ではうまく行かないケースが多い。

 そもそもバックボーンがキリスト教の社会では、労働はどちらかと言えば苦役で、罰だという文化的側面があります。でも、日本では労働がもっと高尚に捉えられている。日本にはもともといろんなものを受け入れる素地がありますが、一神教による絶対的な存在がベースにあって、正解以外は不正解という考えを押し付けられてもうまくいかないと思うんです。われわれはもっと、自分たちのルーツを大事にしたほうがいいのではないでしょうか。

著書自体は大企業勤務の50代にフォーカスした内容となっているが、結局のところ前川氏の主張は、仕事観と人生観を見直すきっかけとして全ての世代に通じるものだ。現代は強い言葉や態度で組織を引っ張るリーダーより、メンバーと共感し合い、背中で語るタイプのリーダーのほうが好まれる傾向にある。その意味でも、50代ビジネスパーソンが様々な選択肢の中から自分の意志で人生を切り拓くことは、自身の希望となるだけでなく、その姿を見た後に続く世代の希望となる。人生100年時代の折り返し地点にいる50代の生き方は、今後の日本社会の在り方に大きく影響するファクターになりそうだ。