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「多様化時代のコミュニケーションはITツールの活用がカギ」―古市克典(BoxJapan社長)

クラウド上にファイルを保管するサービスを提供するBoxJapan。時間と場所をえらばずアクセスできるITツールで、テレワークが進む中、売り上げを大きく伸ばしている。しかしテレワークでは社員同士がコミュニケーションを取ることはむずかしい。いかにしてその問題を克服するか。同社の古市克典社長が語る、新しい時代のコミュニケーションの取り方とはいかなるものなのか。聞き手=関 慎夫(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

古市克典・BoxJapan社長プロフィール

古市克典
ふるいち・かつのり 京都大学経済学部卒業、ロンドンビジネススクール修了(MBA)。NTTに入社。海外留学などを経て退社。米系大企業、ベンチャー企業、経営コンサルティング会社を経て、日本ベリサインの社長に就任。2013年からBoxJapan社長。

クラウド型コンテンツ管理プラットフォーム「Box」の特長とは

四半期ごとに12%の売り上げ増

―― Boxはクラウド上でファイルを保管するクラウドストレージを提供しています。こうしたサービスは今では多くの会社が提供していますが、特徴はどこにあるのですか。

古市 Boxは単なるクラウドストレージではなく、クラウド型コンテンツ管理プラットフォームです。ファイルやコンテンツを一元管理することで、時間や物理的な場所にとらわれない働き方が可能となります。

 他のサービスとの違いで大きいのはセキュリティの強さです。Boxはすべての作業をクラウド上で行うので、高度なセキュリティを確保できます。

―― コロナ禍によりテレワークが推奨されたことで、追い風が吹いています。

古市 確かに引き合いは増えています。現在、国内で8千社に利用いただいていますが、四半期ごとに12%ほど伸びています。Boxを利用することで、働き方に時間と場所の成約がなくなり、どこからでもファイルやコンテンツに接触できますから。

Boxが誕生した経緯

―― そもそもどういう経緯で生まれたサービスなのですか。

古市 生まれたのは2005年、当時20歳のアメリカ人学生、アーロン・レヴィが創業しました。最初は個人で使っていたものですが、企業向けに提供したほうがその価値を発揮することに気づき、法人向けサービスに特化しました。日本に進出したのは13年です。創業から時間がかかったのは、日本市場に出るには品質が100%担保されるべきだと考えたからです。

―― 約7年で8千社ですから、順調に伸びてきましたね。日本に進出するにあたりどのような営業戦略を立てたのですか。

古市 日本で営業するにあたり重視したのは、業種や企業規模よりも発信力のあるITのリーダーがいるかどうかでした。こうした人たちはITツールの重要性を知っています。そこに「Boxで会社を変えませんか」と訴えました。導入して効果があれば、彼らはそれを対外的に発信してくれる。こうやって広がっていきました。

 もうひとつ、進出間もなく、年金基金やいくつかの企業で個人情報漏洩問題がおきました。これによって企業の中にもセキュリティを重視しなければならないとの機運が生まれたことも、Boxには追い風になりました。

チームワークをツールでカバーする

―― そして今回、さらなるニーズが生まれたわけですね。テレワークが普及したことで、今後日本人の働き方は大きく変わっていきそうです。その一方でコミュニケーションが取りにくくなっているとの指摘もあります。

古市 私は日本企業で働いたあと、外国企業に勤めましたが、外国企業のほうが社員間のコラボレーションがうまくいっていると感じています。以前はよく、日本企業の強さはチームワークにある、と言われていました。でもそれは金太郎飴のような組織だったからです。社員のバックグラウンドも似ているので、意識しなくても連携できた。

 しかし今は世代、性別、国籍などバックグラウンドの違う社員が増えています。ところが管理職の人たちの意識が昔のままなので、チームワークが取りづらくなっています。その点、欧米企業は最初からダイバーシティを前提として、それをツールによってカバーしようと考えます。だからこそ、Boxのようなサービスも誕生したのです。日本もそういう時代を迎えています。

―― ツールでコミュニケーションが取れるとしたら、テレワークでも問題ないですね。ということは今後はオフィスもいりませんね。

古市 そうではありません。当社では、新型コロナ感染拡大後テレワークに移行し、今でも続いています。全社員のうち、出社しているのは10人前後です。彼らにしてもツールはそろっているため在宅で仕事はできますが、部署によっては2週間に1度、日にちを決めて出社しているところもあります。

 社内で在宅勤務についてのアンケートを取ったところ、評価は半々でした。特に年次が浅い人は、社員同士のフェース・ツー・フェースのコミュニケーションのほうが人間関係を構築しやすいと答えています。さらには現在のプロセスを変えたい場合、相手に納得してもらうにはやはり対面のほうがベターという人が多かった。ですからオフィスがなくなることはありません。在宅勤務は定着するけれど、一辺倒になることはないはずです。

日本がデジタル後進国を脱する4つの条件

―― コロナ禍によって、日本のデジタル化の遅れがはっきりしました。この遅れを取り戻すにはどうしたらいいのでしょう。

古市 4つあります。第1に経営者や事業本部長がITを使うことで生産性がどれほど上がるかもっと把握してほしい。新しいシステムを導入するにはコストもリスクもかかります。それで二の足を踏むけれど、それ以上のリターンがあることを理解すれば、導入を決断できます。第2に、最近でこそCIOを置く会社も増えてきましたが、IT部門が力を持っていない会社が多い。そこを改善する必要があります。

 3番目にこれはすべてのビジネスマンに対してですが、これからITスキルは英語や会計と並ぶ素養だと思ってほしいですね。今は昔と違って、高度な勉強をしなくてもITスキルを身に付けることは可能です。そして最後は、社内で人材を育てることにこだわらないことです。ITの進化は速さを増しているため、とても追いつけない。ですから、優秀な人を外部から招くなどの対応が必要ですし、実際そのような企業も増えています。

―― これからでも挽回することは可能ですか。

古市 大丈夫です。私はむしろ、日本企業が元気になるチャンスがやってきたと思っています。これまでインターネットではGAFAなどのB2C企業が席巻してきました。さまざまなサービスで失敗→改善を高速で回し、市場を開拓しています。でもこれから自動運転や遠隔医療などB2Bのサービスが本格化します。これまでがカジュアルITなら、これからはシリアスITで、失敗が許されない。そのためにはハードとソフトの連携が今まで以上に必要になってきます。

 日本のハードは今でも世界の最先端です。これがソフトと結びつけば世界をリードできる。インターネット1回戦では日本はGAFAに負けたけれど、2回戦では成果を出してほしいですね。