経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

[企画特集]九州の地の利を生かせ

地方企業の生き残りを懸けた、ウィズコロナ、アフターコロナの経済成長戦略の真価が問われている。九州経済の中心拠点・福岡では、スタートアップ企業の育成による地元産業の活性化、また空の玄関口の福岡空港では旅客増大に向け第二滑走路を整備中だ。九州の豊かな資源を生かす取り組みを見ていく。

個性豊かな九州の資源を活用し今こそアフターコロナの成長戦略を

 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、国内外でパラダイムシフト(劇的な変化)をもたらした。とりわけアジアとの関わりが強い九州・福岡への影響は大きかった。人気観光地からインバウンド客の姿が次々と消え、過去には国内最多の国外クルーズ船の寄港回数を誇った博多港の岸壁も閑散となった。

 一方で、新型コロナが東京を中心とした大都市への過度な人口、企業の集中リスクを浮き彫りにし、ウィズコロナ、アフターコロナの九州・福岡の新たな成長戦略が求められている。

 その方向性は政府の方針とも重なる。2020年7月、地方創生に向けた取り組み方向性をまとめた「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」の特徴は、地方へのサテライトオフィス開設やリモートワークを後押しし、東京一極集中の是正を目指した点にある。

 九州・福岡の強みを生かし、既存の発想から脱却した次世代戦略の策定、次世代型産業の創出は急務といえる。

有力な新興企業を育てて地域の新たな活力に

 地域浮揚に向けて九州・福岡でスタートアップ企業の育成は欠かせない。

 内閣府は7月、有力な新興企業を生み出す拠点の形成に向けて、スタートアップ企業の育成を集中支援する「グローバル拠点都市」に福岡市など4地域を選んだ。選定地域では起業家養成プログラムや規制緩和などの優遇措置が受けられる。

 福岡市は12年に「スタートアップ都市」を宣言、17年には官民協働型のインキュベーション施設「Fukuoka Growth Next」(FGN)を同市中央区に設立し、起業や資金等の情報を提供。入居企業数は約140、出資や連携するベンチャーキャピタル(VC)は11、スポンサー企業は27に上る(20年8月現在)。コロナ禍で同運営委員会事務局には九州だけでなく、東京などからも入居やサービス内容について問い合わせがあったという。

 入居企業の中に、漁業者や地元料理店から注目を集める株式会社ベンナーズがある。形が不揃いなどの理由で市場ルートから外れた魚を、市価の半額から4分の1で提供する仕組みを構築。米ボストン大学で社会起業学を学んだ代表の井口剛志さんは25歳。「FGNの中で情報やヒントを得て業務内容を充実できた。いずれは輸出も視野に入れ、漁業者の年収アップにつなげたい」と話している。

福岡市では2017年に「Fukuoka Growth Next」を設立

空の玄関口は25年に第二滑走路で飛躍目指す

 コロナ禍のニュースで埋もれがちだが、西日本全体への経済波及効果が期待されるプロジェクトが着々と進んでいる。

 九州・福岡の玄関口である福岡空港の第二滑走路の増設工事だ。25年の完成・供用開始に向けて周辺整備も着実に行われている。

 19年4月から同空港の運営を民間委託された福岡国際空港株式会社(FIAC)は西日本鉄道や九州電力といった地元企業を中心に構成する。同社の30年後の将来構想は壮大だ。2500mの滑走路増設をバネに、路線数はアジアの国際線を中心に18年実績の2倍以上の100、年間旅客数は約5割増の3500万人を掲げる。

 国際線側にバスターミナルを新設し、九州各地や中国地方を結ぶ高速バス網も拡充させる。運営開始に当たり永竿哲哉社長は、比類なき東・東南アジアの航空ネットワークを有する「東アジアのトップクラスの国際空港を目指す」と掲げた。シンガポールのチャンギ国際空港から資本だけでなく人材も招き、路線誘致のトップを担わせている。

 昨年末から新型コロナウイルスの影響で国際線を中心に運休が相次ぎ、民営委託後初となるFIACの20年3月期連結決算は93億円の赤字、今年度はさらに厳しい状況が続くが、同社では現在のところ事業計画の見直しは行わない方針だ。

 永竿社長は「非常に厳しい経営環境だが、2本目の滑走路完成に向けて、お客さまを受け入れる環境を整え、旅客増大を図ることが空港としての役割だと認識しております。九州・福岡の成長・認知度向上に取り組みたい」と話す。

 国内線旅客ターミナルビルのリニューアル工事が今夏に完了、レストランやカフェなどが相次いでオープンした。展望デッキに隣接するビアホール「ソラガ ミエール」は九州の食材にこだわった料理や、熊本工場直送の生ビール(夏季)を提供する。山下喜範店長は「地元の新鮮な魚介類の人気が高い。今は我慢の時期だが、コロナ後は多くのお客さまが来てくれるはず」と前向きだ。

 九州の魅力は、それぞれの地域の産業や歴史、自然、食など個性豊かな資源だ。アフターコロナに向けてこれらの資源をどう生かし、新たなビジネスチャンスに結び付けることができるか。

 都市間、地域間競争が激しさを増す中で、その真価が問われることになる。   

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