政治・経済

澤田秀雄氏のベンチャースピリット

 2015年10月期に売上高5374億5600万円、営業利益199億7千万円、経常利益226億8500万円と、いずれも5期連続で過去最高を達成したエイチ・アイ・エス。澤田秀雄会長は、35年前に小さな旅行代理店を立ち上げた当時から変わらぬバイタリティーで、グループを牽引し続けている。絶好調の背景には、もちろん世界的な旅行需要の拡大やインバウンドの増加がある。だが、それだけではなく、常に将来を予測して先手を打ってきたことが現在の業績につながっている。

 事業家としての澤田氏の歩みは、挑戦の連続だ。格安航空券販売に始まり、スカイマーク立ち上げによる航空業界への進出、ハウステンボス(HTB)の再建、ロボットホテルの開業、そして今後はエネルギー分野や農業分野にも本格的な参入を目論んでいる。

 必ずしも、当初のもくろみどおりに行かなかった事例も中にはある。HTBの再建も当初は難しいと見られていた。しかし、同施設をグループ全体の約半分の利益を稼ぎ出すまでに成長させ、さらに新規事業の巨大な実験場として活用するなど、ここに来て思わぬ効果を生み出している。最近では、ロボットにフロント業務やその他一部の業務を担当させる世界初の宿泊施設「変なホテル」を開業。16年からは一般家庭向けの電力小売りに本格参入するなど、勢いはとどまるところをしらない。

 巨大企業グループを作り上げた今でも、ベンチャーさながらのチャレンジング・スピリットを保ち、走り続ける澤田氏を直撃した。 

澤田秀雄氏が目指す「世界一生産性が高いホテル」

―― 2015年10月期は5期連続の最高益を達成しました。要因をどう分析しますか。

20160126_HIS_P01

(さわだ・ひでお)1951年生まれ、大阪府出身。大阪市立生野工業高校卒業後、旧西ドイツ・マインツ大学に留学。80年格安航空券を販売する新しい形態の旅行会社インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を創業。96年にLCCの先駆けとなるスカイマークを立ち上げ、2003年にモンゴルAG銀行(現ハーンバンク)会長に就任、10年には経営不振に陥っていたハウステンボスの再建に名乗りを上げ社長に就任。92年の開業以来赤字続きだった同社を、グループの稼ぎ頭に変身させた。

澤田 国内では少子化が始まっていますから、国内から海外への旅行者数は若干の伸び悩みがあります。ただ、われわれは以前からアジアの発展を見込み、タイ、ベトナム、インドネシアなどに店舗展開してきましたから、それらの成長が大きい。そして国内ではインバウンドの時代が来ると予想して、そこに力を入れてきました。以前から打ってきた手が効いていることが、現在HISグループが伸びている要因だと思います。一方でHTBも5期連続2桁成長しています。これらが重なって、最高益を更新できたと考えます。

―― テーマパーク事業の利益率は相当高いですが、この状況はHTBを始めた時に想像できましたか。

澤田 HTBについては、18年間誰が手掛けても赤字の状況でしたから、引き受けた当初は取りあえず黒字にすることが先決と考えていました。それも、一回だけ黒字を出しても意味がないので、右肩上がりにしないと本来の経営とは言えません。それほど簡単ではなかったです。

―― HTBに隣接する「変なホテル」など、新たな試みが注目を浴びています。もともと澤田会長の発案なのですか。

澤田 HTB公式ホテルのホテルヨーロッパに住んでみて考えたのは、いかに生産性を高めて、世界一効率の良いホテルにできるかということでした。そこで、東京大学やロボット技術を開発している国内外の企業と毎月検討会を開いて、世界一の生産性を実現するには、自動化とロボット化を進めることが必要だという結論に達しました。フロント業務をロボットに任せることにしたら、思っていた以上に世界中から注目されました。

―― 日本のホテルの良さはおもてなしだったりするわけですが、ロボットに任せるというのは、ある意味真逆な発想です。

澤田 世界で誰もやったことがないので注目されましたが、私の考えだと10〜15年後は世界の3つ星、4つ星ホテルは全部ロボットホテルに変わる可能性があると思っています。最初はそれほどインパクトがあるとは思っていませんでしたが、オープンしたら、米ABCや英BBCなど、世界中のマスコミが取材にやってきて、今でもそれが続いています。注目度が高いということは、恐らく何かを暗示しているのでしょう。変なホテルは、世界で最初にロボットがフロント業務を行ったホテルとして、歴史に残るんじゃないでしょうか。

―― まだ不完全な部分もあるようですね。

澤田 だから名称を「変なホテル」にしたんです。将来、ロボット技術が発展したら「変化し、進化する」という意味です。15年7月に開業して以来、既にジワジワと進化しています。例えば、今はチェックインの際にロボットが喋るだけでなくゲストがボタンを押す作業が一部あるのですが、半年後くらいにはボタンがなくなる予定です。また、客室には照明をつけたりモーニングコールをしてくれたり、天気を教えてくれたりする「ちゅーりーちゃん」というロボットがいて、最初は子どもが喋りかけても認知しなかったんですが、今はできるようになっています。

―― リピーターは、進化の過程を楽しめそうですね。ただ、うまくチェックインできなくて怒り出す方などはいないんですか。

澤田 少し不便という意見はありますが、そうした点は、すべてアンケートを取って改良していきます。最初はバックヤードに従業員が20人ぐらいいましたが、今は10人ちょっと。将来はさまざまな技術を投入して、2〜3人でもやっていけるようにしようと思っています。

―― 半年足らずで既に人員が半減とは、進化のスピードが速いですね。

澤田 速いですよ。今は改良の段階ですが、人工知能(AI)の技術がもっと進化したら学習効果が出てきますから、フロントロボットはもっと良くなるでしょう。今でも、ロボットがゲストに冗談を言ったりできますが、現段階でそれをやってしまうとチェックインがスムーズにいかないのでやっていません。でも、今後はもっと楽しくできるかもしれません。

―― 思わぬ面白さが出ているわけですね。

澤田 世界一生産性の高いホテルをつくるという目標は今も変わりません。しかし、同時に顧客満足度の向上も追求していきたいと思います。

澤田秀雄氏が考えるハウステンボスのこれから

―― 16年以降の新たな仕掛けは。

澤田 3月にオープンする変なホテルの2期棟では、住友林業が開発した廃材圧縮技術を導入するほか、太陽光パネルから生産するエネルギーを水素エネルギーシステムによって蓄電し、夜や雨の日にも発電できる技術を使っていきます。

―― エネルギーと言えば、電力小売りにも注力していく方針のようですが。

澤田 HTBエナジーという会社を15年に設立し、既に高圧電力を近くの工場やホテル向けに販売しています。小売り自由化が始まる16年4月からは、一般家庭にも電気を供給していきます。電力の販売は、HISの店舗などで行います。

―― 電力の調達はどうするのですか。

澤田 最終的にはすべて自分たちで発電したいのですが、HTB内に作る予定の小さなコージェネタイプの発電所だけでは賄えません。当面は、電力の卸売市場やガス会社、電力会社などと組んでいくことになります。発電所の建設には費用が何百億円と掛かりますから、それまでに小売りや卸を手掛けて、規模を獲得した上で取り組みたいと思います。

―― 澤田会長は、旅行業、航空事業、テーマパーク事業、ホテル、ロボット、エネルギーと手を広げてきましたが、新規事業参入の基準はどこに設けているのでしょうか。

澤田 「世の中のため、人のためになる、そして時代に合っている」ということですね。エネルギーに関して言えば、もう少し安定的に安く供給できるほうが、産業界にとっても国民にとっても良いので、何とか改革したいという気持ちがあります。HTBを手掛けてきて、年間何億円もエネルギーにコストが掛かって、非常に無駄が多いことが分かりました。だったら研究しようと、エネルギー分野に進出したわけです。ロボット分野には16年から本格的に出ていきますが、たまたまウチにはHTBという広大な敷地があるので、いろいろな実験ができます。

―― HTBの経営を引き受けた時は「仕方なく」という印象が強かったのですが、今では貴重な財産となっていますね。

澤田 朝長則男・佐世保市長に頼まれた時、最初は難しそうだからお断りしていましたが、観光と地域活性化のお手伝いができればいいかなという気持ちでした。あとは難しい案件だからこそチャレンジしてみようかなと。

―― 当時は20年のオリンピックも決まっていないし、今ほど国を挙げてインバウンド促進もやっていなかったので、どう転ぶか分からないものですね。

澤田 運ですかね(笑)。ただ、時代に合った産業、世の中のためになる産業を手掛けるということを続けてきたので、幸運に恵まれたのかもしれません。今はエネルギーとロボットに力を入れていきますが、食糧不足の時代を見越して農業も手掛けていきます。世界最先端の植物工場を、3年後ぐらいをめどに造る考えです。これもHTBに広い敷地があるのでそこで実験して、うまくいけば大規模なものを外に造れば良いわけです。ロボットホテルもそうですが、大体1年間は研究に費やし、建設に2年かかるという計算です。

20160126_HIS_P02―― HTBが1つの町のようになっていきますね。

澤田 HTBはモナコと同じ広さのある1つの都市で、私有地なので実用実験ができることが非常に良いところです。新たなことをやるときに許認可を取っていると、世界の競争で後れを取ってしまいますが、都市の機能があるのでどんな実験でもできます。HTBには、店舗もレストランも宿泊施設も小さな発電所も全部そろっている。駄目なら改良を重ねて失敗したらやめればいい。経営を始めたころは、石ころか良くて石炭くらいにしかならないと思っていたら、ダイヤモンドになる可能性が出てきました(笑)。

―― 一方、14年8月に開業したラグーナ蒲郡(愛知県)はどういう位置付けでしょうか。

澤田 あれも愛知県とトヨタ自動車さんに頼まれたから引き受けました(笑)。もう開業から1年たちましたが、6億8千万円くらいの利益が出ました。HTBと比べると規模が小さく、近くにあるナガシマスパーランド(三重県)やなばなの里(同)などと競合するので、HTBと同じような展開は難しいでしょう。

―― とはいえ、HTBも最初は黒字化が目標だったわけですから、どう化けるか分からないと思います。

澤田 そうですね。テーマパーク事業全体の営業利益は100億円近くに達したので、将来は技術開発によって数百万円どころか1千億円、2千億円の時代が来るかもしれない。まあ、これは話半分で聞いていただいたほうがよいかもしれませんが。

澤田秀雄氏が目指す世界的な旅行会社への道

―― 本業の旅行事業は円安やテロなどの影響で厳しい環境だと思いますが。

澤田 いえ、旅行産業の可能性はまだまだ大きいと思います。この10年間で世界の旅行産業の規模は何倍にも拡大しています。日本からのアウトバウンドだけが少子化の影響でそれほど伸びないとは思いますが、世界的に見ると成長産業です。日本には1億人しかいなくても、アジアには10億人、世界には何十億人という市場があります。HISが世界的な旅行会社になれば、これらがすべてわれわれのマーケットになるのです。ただし、今はスマホで検索して航空券や宿を予約できる時代ですから、油断していると負けます。

―― 澤田会長から見て、そのあたりの対応はまだまだという認識ですか。

澤田 今はCtoCの時代になって、個人間のやり取りで宿泊場所を決められるような状況が増えています。そうなるとHISにとっても危機的状況です。配車アプリのUberもそうですが、日本は対応が遅れていて、アメリカはもちろん、タイやインドなどでは多くの人が使っている。そういう時代なので旅行代理店の意義自体が薄まりつつある。その波をうまくくぐれるかが課題ではないでしょうか。

―― かつてHISは格安航空券販売の先駆者でしたが、今は必ずしも価格の低さだけで勝負しているわけではありません。それでも現在の地位を築いているのは、環境に応じて変化してきたからでしょうか。

澤田 そうですね。今後伸びていくのは海外支店であったりインバウンドであったり、時代に合わせて伸びるところにわれわれ自身がシフトしているからです。例えばウチの場合はハワイ専門店が伸びていますが、顧客がそこで良い情報や商品を求めるからです。以前は客単価が6万円や8万円といったレベルでしたが、現在は20万円程度になっています。スマホ対応もしっかりやらなければなりませんが、良いサービスを提供すれば店舗も生き残っていける可能性がまだまだあるということです。

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