政治・経済

日本郵政は3月16日、西室泰三社長の退任と新たな経営体制を発表した。西室氏の健康上の理由もさることながら、金融政策をめぐる政府との考え方の不一致や、古巣である東芝の粉飾決算問題などが背景にあるとみられる。日本郵政の先行きに不透明感が漂ってきた。文=ジャーナリスト/山口建一

日本郵政 「黒田バズーカ」で崩れたシナリオ

 西室泰三・日本郵政社長(80歳)が突如退任、4月1日付で長門正貢・ゆうちょ銀行社長(67歳)が親会社の日本郵政社長に就任した。西室氏の表向きの退任の理由は検査入院中で復帰のめどが立たないためだが、政府と黒田日銀のマイナス金利政策に反発。政策の不一致と西室氏が社長・会長を務めた東芝の粉飾決算問題が西室氏に及ぶことを恐れた官邸サイドが、西室氏を見限ったというのが真相のようだ。西室氏は2月8日から検査入院を理由に表舞台から姿を消したが、3月3日になってようやく辞表を提出した。取締役は6月の取締役会まで続けるが、やつれぶりはひどく完全に日本郵政から手を引く見込みだ。

 西室氏は東芝社長・会長を歴任。東京証券取引所会長、郵政民営化委員会委員長を経て2013年6月に日本郵政社長に就任した。昨年11月に日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の上場を果たし、「17年6月の株主総会まで社長を続ける」と続投に意欲を示していた。

 突然の社長辞任の背景には体調不安のほか、東芝問題で経済界や永田町で西室氏の責任も問う声があったからだ。西室氏にとっては、「黒田バズーカ」で描いていた将来像へのシナリオが完全に狂ったことが、辞任の最大の理由と思われる。「中期経営計画はゼロから見直さなければならないだろう」(業界関係者)との声もある。2月23日に予定されていた国会でのマイナス金利政策による日本郵政への影響についての参考人招致での答弁に注目が集まっていたが、入院を理由に急きょ中止になった。

 日本郵政の社長は「鬼門」だ。初代日本郵政社長の西川善文氏、2代目の元大蔵事務次官の斎藤次郎氏、斎藤氏の後輩の坂篤郎氏も政権交代で退任を余儀なくされ、今回も志半ばでの退任劇となった。突如の退任劇で慌てたのが日本郵政の指名委員会。当初は外部からの招聘に動いたが、指名委員会委員長の三村明夫・日本商工会議所会頭(新日鉄住金相談役名誉会長)は「上場を担った現経営陣から選ぶことと、金融に明るく海外ビジネスに精通する」ことなどから、ゆうちょ銀行社長就任から1年にも満たない長門氏に白羽の矢を立てた。

 「上場企業にふさわしい業績を上げていくのがミッションだ」。日本興業銀行出身で元シティバンク銀行会長の長門氏は3月16日の次期社長就任会見でこう述べ、日銀のマイナス金利によるゆうちょ銀の収益悪化懸念に対しては「サテライト運用や手数料収入などで十分対応できる」と市場不安の打ち消しに躍起になった。

問われる日本郵政新トップの手腕 国債依存脱却が急務

 西室氏の招聘で昨年5月にゆうちょ銀社長に就任した長門氏は、株式や外国証券などサテライト・ポートフォリオ(SP)を現在の46兆円から17年度末に60兆円に拡大させるべく株式や米国債などの購入を拡大。15年12月時点で国債での資産運用を全体の41%まで減らしたが、それでも国債保有は三菱東京UFJ銀行の3倍以上の約84兆円に達する。

 国債の利回りはマイナス金利の導入後、一段と低下している。これまでは0.1%の利息が付いたが、これからは逆に0.1%の利息を払わなければならない。当面の対策としてゆうちょ銀行は2月23日に貯金利率を0.001%引き下げ、さらに定期貯金と定額貯金は現行でそれぞれ0.010%に引き下げられた。個人投資家の大部分は個人国債と同様、郵政株の長期保有を考えているケースが多い。しかし、最高値の1823円をつけたのは上場翌日の昨年11月5日で、マイナス金利が導入された年明けからは下落トレンドに入り、足下では売り出し価格の1450円を割り込んでいる。

 西室氏は、長門ゆうちょ銀社長とゴールドマンサックス証券元副会長の佐護勝紀副社長に国債依存体質からの脱却を指示。その第1弾として昨年秋、投資信託拡大を狙って住友信託銀行、野村グループなどと資産運用会社「JP投信」を設立。2月22日に「JP日米国債ファンド」の発売を予定していたが、マイナス金利の影響で運用が困難と判断し、販売直前に中止した。

 長門氏の日本郵政社長就任で社長不在という異例の事態になりそうだったゆうちょ銀は、3月25日になって横浜銀行出身で元足利銀行の頭取として経営再建に取り組んだ経験もある池田憲人・東日本大震災事業者再生支援機構社長(68歳)が社長に就く人事を発表した。地銀業界で幅広い経験と人脈を持つ池田氏は、地銀との提携を模索するゆうちょ銀にとって「まさに適任」(業界関係者)だ。企業への貸し付けが禁止されているゆうちょ銀は「地銀や信金などと提携して協調融資に乗り出すことが急務」(同)なのだ。

 この4月にはゆうちょ預入限度額が1千万円から1300万円に引き上げられ、資金量が増えれば運用はさらに難しくなる。そこで、元モルガン・スタンレーMUFG証券債券統括本部トレーディング本部長の市川達夫氏を4月1日付で市場部門担当執行役員に起用するなど、対応を急いでいる。

 マイナス金利下でいかに利ざやを稼ぐか。長門氏と池田氏の手腕が問われる。

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