マネジメント

 労働力の担い手が減少している。業態による差こそあれ、各労働現場において徐々に顕在化している事実だ。特に中小企業においては、少子高齢化による人材不足の煽りをもろに受けている。だからこそ、これまで以上に労働力の担い手である“人”が重視される傾向が高まっていると言える。さらに、サービス産業が主流となった現代社会において、サービスを提供する主体は社員個々人(=人)であり、社員各々がその会社の顔となる。質の高いサービスを提供し、顧客に満足を与え他社との差別化を図るためには、やはり良い人材を求めることは当然の帰結と言えよう。そこで今回は、中小企業の採用について考えてみたい。[提供:経営プロ]

「良い人材」とはどんな人物か?

 中小企業経営者の口から共通して発せられるのが「いい人材が欲しい」というフレーズだ。だから、筆者は「御社にとって“いい人材”とは、どのような人物を指されていますか?」と聞き返すようにしている。なぜなら漠然とし過ぎているからである。企業が“いい人材”が欲しいのは至極当たり前のことで、誰でもよい訳ではない。すなわち、どの企業も“いい人材”が欲しいというのは前提での話である。A社ではいい人材と判断されても、B社では環境にそぐわずいい人材と判断されないこともある。だからこそ「自社にとって…」という人物像の具体化は必須である。面倒と感じるかもしれないが、自社を支えてもらう大切な人材である。どんな人物(自社のどんな仕事を、どのような姿勢で担ってくれる人物)を望んでいるか深掘りしなければならない。応募が集まりやすいネームバリューのある大企業はともかくとして、あまり全国に知れ渡ることが少ない中小企業こそ、この過程が求められると言えないだろうか。なぜなら、人物像を具体化し「こんな人に来て欲しい」とアピールできれば、求職者側からもわかりやすく、応募してもらいやすいからである。

採用活動もやり方を間違えると…

 さて、企業には一定の範囲内で採用の自由が認められている。だから自社に合う人材の獲得に向け、採用試験・採用面接とあわせて適性検査を行っている大企業が多い。最近では導入費用面におけるハードルが下がったこともあり、中小企業にもこの裾野が広がってきている。企業が採用を吟味するにあたって、判断材料は多いに越したことはない。ただし使い方を誤ると、せっかくの採用活動も何の意味もなさないものとなってしまう。

 紙幅の面から概要しか紹介できないが、その一例として以前筆者のところに相談に来られたある中小企業の事例を紹介しよう。この企業(以下「X社」とする)は、従業員数30名程度のサービス業である。採用担当者によれば、採用に時間とコストをかけて臨んでいるにも関わらず、3か月もすると辞めてしまい定着しないという相談内容であった。もちろん適性検査も実施していた。詰まるところ、適性検査の内容が良く出ている人物に満を持して採用決定しているのに定着しないのはなぜなのか?適性検査は結局当てにならないのではないか…という悩みであった。筆者が適性検査の結果を拝見したところ、一般的にみれば確かに内容の良い結果である。そこで、先で述べた「どんな人物を望んでいるのか」を経営者と採用担当者にぶつけてみた。すると、人物像が漠然としているのである。X社で続かなかった人達に共通してみられた内容は、環境への適応力や企画力に長け、高いコミュニケーション能力を有しているといったところである。ところが、X社がそのときに求めていた(求めるべきだった)人物像は、単独で定型的業務をミスなく処理する能力が求められる人材(=これがX社にとってのいい人材)だったのである。すなわち、雇用のミスマッチを引き起こしていたということだ。面接時に仕事内容の話も出ていたであろうし、笑い話のように聞こえるかもしれないが、これは実話である。

おわりに

 これほどに「自社にとっていい人材はどんな人を指すのか」ということを明確化・具体化することは重要な過程である。採用活動にかける大半の時間をこの作業に費やすべきと言っても過言ではない。これが存在しなければ、採用の軸がブレてしまい、どんなに採用試験や面接・適性検査に時間とコストを費やしても自社が望む人物に出会えることはないからだ。最も恐ろしいのは、先のX社のように、採用過程でその軸がブレていることに気づかず混迷を極め、最終的に採用試験や適性検査の結果に引きずられて採用を決定してしまうことである。これは労使双方にとって実に不幸なことである。

 「あれ?」「もしかして??」と感じた経営者や採用担当者は、いま一度、“自社にとってのいい人材”・“望む人材”のあぶり出しをしてみてはどうだろう。具体化した先にはきっと、御社の出会いたい人物との縁があるはずだ。

SRC・総合労務センター 株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣】

keieipro_logo_R

 

 

 

【経営プロ関連記事】

【経営トレンドワード】ミスマッチ失業率

【講演録:サムトータル・システムズ株式会社代表取締役社長 平野正信氏】

【講演録:Global Career Partners Inc. Vice President 浜崎日菜子氏】

「社外システム参謀」がITの課題を根本から解決!〔Part2〕

「社外システム参謀」がITの課題を根本から解決!〔Part1〕

【経営トレンドワード】第二新卒

 

 

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る