マネジメント

GMOインターネットは1995年からインターネット事業に参入。今では社員数は5千人を超えた。日進月歩の世界なだけに、「現状維持は劣化に等しい」と熊谷正寿会長兼社長が言うほど、一瞬たりとも気が抜けないビジネスで、いかに社員のモチベーションを維持できるかが勝負のカギを握る。そのために、熊谷会長兼社長がたどりついた究極の人事手法はいかなるものなのか――。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐藤元樹

 

熊谷正寿・GMOインターネット会長兼社長プロフィール

熊谷正寿氏

(くまがい・まさとし)1963年、長野県生まれ。國學院高等学校を中退し、父の事業を手伝った後、91年ボイスメディア設立。95年インターキューに社名変更しインターネット事業を開始。99年独立系ネットベンチャーとして初上場。2001年グローバルメディアオンライン(GMO)に、05年にGMOインターネットに社名変更した。

 

ネット業界で勝ち続ける秘訣と社員のモチベーション維持の方策

 

勝ち続けるには商品力あるのみ

―― GMOインターネットグループは、インターネットインフラ領域で、国内トップシェアの事業領域を数多く有しています。しかも事業戦略として強いところをより強くするとの方針です。インターネットのような日進月歩の世界では、あっという間にシェアが激変することもあります。ナンバーワンを維持し、さらに伸ばしていくには何が必要ですか。

熊谷 インターネットが普及したことによって、パソコンやスマホから誰もが瞬時に無料で情報を手に入れることができるようになりました。その中で結果を出すには、「いいプロダクトをつくる」ことに尽きます。

 インターネットが普及する前は、情報を手に入れるために、時間もお金も必要でした。そのため、営業力が強い会社や、宣伝に力を入れた会社がシェアを伸ばすこともありました。

 しかし今は、いいものを真摯につくり続ければ、インターネットによってその評価が広まり、お客さまが気づいてくれる時代になった。

 逆に言えば、いくら営業が強くても、プロダクトが弱ければ、お客さまはそれに気づく。そうなればお客さまは離れていってしまいます。ですから、技術力やデザイン力を高め、いいものをつくり続ける。これなくしては勝ち続けることはできません。

 また、インターネットの場合は特に、スピードが重要です。いまや競争相手は世界中にいて、油断をすればすぐに抜かれてしまう。そしてそれにお客さまが気づいてしまう。

 ですから現状維持はプロダクトの劣化を意味します。常にプロダクトをブラッシュアップして、抜かれたらすぐに抜き返す。これを徹底しています。

全役員の報酬と実績をガラス張りに

―― 一瞬たりとも気の休まる時がないと、社員が疲弊しませんか。どうやってモチベーションを高めているのでしょうか。

熊谷 GMOインターネットグループには「スピリットベンチャー宣言」というものがあります。これは、創立以来培ってきたマインドを宣言したもので、「夢」「ビジョン」「フィロソフィー」「経営マインド」の4つのスピリットをスタッフ全員が共有しています。

 そして、全スタッフの集まるグループ全体会議や部内ミーティングなど、ことあるごとに唱和することで志をひとつにし、モチベーションを高めています。

 もうひとつ大事なことは、すべてをガラス張りにすることです。例えば、給料もガラス張り。僕を含むグループの全役員の報酬や実績、今年の目標は、グループの全スタッフが社内ポータルから見ることができます。

 また、GMOインターネットのスタッフの場合は、等級と給与テーブルが開示されていて、互いに見られるようになっています。さらに、年に1回、業務でかかわる数十人のスタッフによる360度評価を行っており、それを本人にフィードバックしています。

 その上で、すべてを立候補にすることも大事です。上司が部下に「これをやれ」と命じるのではなく、「やる」と言った人にやらせることを徹底しています。僕自身、ここ10年以上にわたって、役員を「やれ」と指名したことはありません。

 ダメな会社の典型が、ダメな上司がダメな部下を指名することです。ダメな上司は自分より劣る人、自分の鞄を持ってくれる人を選んでしまう。でも、すべてをガラス張りにして、「自分がやります」と言った人の中から一番優秀な人間を選抜することで、能力のある人に仕事をしてもらうことができるのです。

 

熊谷正寿会長が人事権を放棄した理由

 

求心力の源泉をあえて捨てる

―― 本人は希望していない新しい業務を担当させることで、新たな才能が開花するということもあるようですが。

熊谷 あくまで手を挙げた人間に任せる。確かに上から違う仕事を命じることで、秘めた能力が見つかることを否定はしないけれど、神様でないので、才能があるかないかは分かりません。それよりも立候補させて、責任をもってやってもらう。

 実はこのやり方は、マネジメントの大きな武器である人事権の放棄です。「お前を役員にしてやる」と言う代わりに、役員をやりたい人をガラス張りにして競争させ、誰の目にも分かる形で役員に任命するわけですから。僕の恣意的な判断はどこにも入らないようになっています。

―― 人事権は権力そのもの。求心力の源泉です。それを放棄して、社長の求心力を維持できるのですか。

熊谷 だからこそ捨てるんです。人事権が求心力になってしまうと、僕がいなくなったらこの会社は崩壊すると思います。人事権ではなく、経営者としての僕のビジョン、行動力で求心力を保つ。スタッフはビジョンを共有し、自律的に動いていく。僕はチェック、質問、アドバイスはするけれど、基本的には「やる」と言った役員、スタッフに仕事を任せる。あとは祈るだけです。

―― 祈りの経営ですか。普通そんなことはできません。

熊谷 弱いからです。自信がない。僕はインターネットの可能性とそれに対する経営ビジョンに自信がある。だからその方向性を指し示して、みんなを引っ張っていくだけです。

危機の経験から身に付けた熊谷氏の特技とは

―― 熊谷社長は考え方がユニークです。人と違うことをやろうと意識していますか。

熊谷 意識しているかと言われれば、そのとおりです。脳細胞の数も24時間という時間のリソースも、人間はみな同じ。それなのに同じことをして違うアウトプットを出すのは論理的に無理です。

 ですから時間の使い方も考え方も行動も、人と同じことはしない。時間であれば、徹底的に効率的に使う。例えば勉強をする場合には、暗記術や速読術など勉強術をまず身につける。それから勉強したほうが効率がいい。

 お金の使い方も、人の笑顔と時間を増やすためには惜しみません。周囲が騒がしいことで仕事の効率が下がる場合には、お金を使ってでも一人になってノイズをシャットアウトする。そういう考え方です。

―― 財務管理にしても、GMOは独自のフローで行っているそうですね。

熊谷 僕らの数字の管理は、ほかの会社より半年ほど早いと思います。普通は決算の数字がよくなければ対策を打つ。その対策の効果が出てくるのは数カ月も先のことです。当社の場合、3カ月先まで見通しの連結損益計算書(PL)を毎週作っています。見通しの段階でおかしいと思ったらすぐに手を打つ。これが当社のスピード経営の秘密です。

―― GMOは過去にオリエント信販を買収したところ、グレーゾーン金利に対する過払い金請求が相次ぎ、400億円の損失を出して債務超過寸前にまで追い込まれたことがあります。その反省が、こうした財務フローにつながったんですか。

熊谷 数字の見通し管理自体は、それ以前から行っていました。ただ、あの危機を経験してから、数字にはより一層、敏感になりました。それまでは頭の中にあったのはPLとキャッシュフローだけで、貸借対照表(BS)は連動していなかった。

 でもあの瞬間から、BSが連動するようになった。言うなれば頭の中に複式簿記があるようなものです。今は会社のすべてのアクションに対して、BS、PL、キャッシュフローが連動しています。この業務を始めたら、BSがどうなるか、キャッシュフローがどうなるか、計算できる。これは特技かもしれないですね。

 

熊谷氏が掲げるトップとしてのミッションとは

20161115KUMAGAI_P01―― 今、トップとして最大のミッションは何ですか。

熊谷 この会社を、百年単位で存続し、世の中を笑顔にしていく素晴らしい会社に成長させることが、僕の人生の目的です。そのためにも僕がいなくなってからもずっと成長してくれないと困ります。この永続的に成長する仕組みをつくることが最大のミッションですね。

 同時に、インターネットは今後も発展していくでしょうが、国内だけだといつかマーケットがシュリンクする可能性があります。そこで世界で成長できるグループにしたいと考えています。僕は今、53歳ですが、60歳になるまでには現在は約4%にすぎない海外の売り上げ比率を50%にまで持っていきます。海外事業は、①世界に通じるプロダクトの卸②現地での仲間づくり③オーガニック戦略――の3つの手法で伸ばしていきます。

 ①の卸では、既に新ドメインの「.shop(ドットショップ)」は、世界で毎日1千件単位で販売されています。

 また、SSLサーバ証明書も数百件、つまり毎日、千数百人が当社グループのプロダクトを買ってくれています。

 また③では、GMOインターネットグループのグローバルブランド「Z.com」のもと、日本と同じようにクラウド・ホスティングをはじめとしたインターネットインフラサービスやFX・CFD取引サービスを世界各地に売り出します。地域的には非英語圏でインターネット企業がまだあまり進出していない、アジアやアフリカへ集中的に展開していきます。

 今はまだ、あらゆる苦労をしている段階です。僕自身、海外に行く頻度を増やしてき、月のうち1週間は、海外にいるようにしようと考えています。

 

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