マネジメント

企業の成長に欠かせないもの、それは、企業のビジョンを社員一人ひとりと共有し、アクションへと落とし込んでいくための仕組み、人事評価制度である。中小企業においては、継続的に社員を育成させる仕組みとして、人事評価制度の担う役割は極めて重要だ。本連載では、人事評価制度改革によって業績を伸ばした中小企業の事例を紹介しながら、社員が育つ人事評価制度の仕組み化、設計について分析していく。

人事評価制度改革によって、組織を強化する

ks

小林 博文社長

 今回紹介するケイズグループは、関東を中心に40店舗の整骨院、人材紹介会社、整骨院の運営・療養費請求代行会社を運営している企業だ。

 2014年には、新規事業としてデイサービスをスタート。2016年には売上高24億円を突破し、グループ全体で362名の社員を抱えている。「地域医療の充実と医療業界への挑戦」というビジョンを掲げる成長企業だ。

 2000年の創業以来、順調に店舗数、売上げを伸ばしてきたケイズグループは2012年、さらなる長期的、継続的な成長を実現するため、人事制度の大幅な見直しを行った。

 企業には、「理念」や「ビジョン」に基づき、人事評価制度を設計することが求められる。人事評価制度は、組織の基本的な構造を作るものとして、一本筋が通っているものでなければならないのだ。

 「理念」「経営計画」「経営戦略」「人事評価制度」に一貫性があることで、強い組織が成り立つ。この考えに基づき、ケイズグループは人事評価制度改革によって人事評価制度の「基準」を整え、組織の強化を図った。

人事評価制度改革を阻む大きなハードル

 改革前のケイズグループの賃金体系は、社内で統一されていない状態だった。その原因は、中途入社の社員の賃金を、前職の収入や本人の希望によって決定していたこと。特に、院長クラスの社員の中には、賃金が他の社員の基準を大きく超えていた者が多かった。

 加えて、評価基準の統一化を行うにあたり、評価者が39名、被評価者が147名と非常に多く、評価の手順を評価者に理解してもらうのに時間がかかり、かなりの労力を要した。評価に必要な資料や文書の作成に慣れていない評価者も多かったことも大きな問題点であった。

 人事評価制度をうまく運用していくには、評価する全員が評価の重要性を十分に理解して取り組んでもらう必要がある。それができなければ、「忙しくて評価なんてできない」と運用がストップしてしまう事態を招くことになる。

 社内で統一された評価制度の実施、新たな賃金制度の導入には不理解や反発も大きく、新たな賃金体系の導入によって、賃金が下がる可能性の高い社員の中には、会社を去った者もいた。

 人事制度改革によって、企業の理念やビジョンとベクトルが合わない社員が離れていくことは少なくない。人事評価制度は、継続的に社員を育成させる仕組みであり、人材育成を通して経営目的を達成することが本来の目的。個人の成長が企業の成長につながる状態を作ることを目指すべきなのだ。

人事評価制度改革に成功するふたつの共通点

図2 人事制度改革を行うにあたり、大きなハードルがあったケイズグループだが、着実に問題を解決し、その努力は結果となって表れた。

 2012年の導入後、生産性は1.71倍にまで向上。人事評価制度改革によって、組織としての基礎を固め、飛躍的な成長を実現した。

 ケイズグループが人事制度改革に成功したポイントは、改善のスピードとその量だった。評価制度を実施しながら、実態に合っていない評価項目については、スピーディーに改善を重ね続け、最適化を図った。制度の導入には不具合が付きものだが、重要なのは、状況に応じて柔軟に改善し続けることだ。

 人事評価制度改革に成功する企業にはふたつの共通点がある。ひとつは、それまでのやり方や考え方を変えて、素直かつ、柔軟に組織を変革していく覚悟があること。もうひとつは、慎重になりすぎることなく、まずは導入してみる体質の企業であることだ。ケイズグループのケースは、これらの条件を満たしていたといえる。

(やまもと・こうじ)日本人事経営研究室代表。1966年、福岡県飯塚市生まれ。日本で随一の人事評価制度運用支援コンサルタント。日本社会を疲弊させた成果主義、結果主義的な人事制度に異論を唱え、10年間を費やし、1000社以上の人事制度を研究。会社のビジョンを実現する人材育成を可能にした「ビジョン実現型人事評価制度®」を日本で初めて開発、独自の運用理論を確立した。 導入先では経営者と社員双方の満足度が極めて高いコンサルティングを実現。その圧倒的な運用実績を頼りに、人材育成 や組織づくりに失敗した企業からオファーが殺到するようになる。福岡で2001年に創業、2013年には東京に本社を移転し、全国的にもめずらしい人事評価制度専門コンサルタントとしてオンリーワンの地位を築く。 業界平均3倍超の生産性を誇る自社組織は、創業以来、増収を果たす。 著書に「図解3ステップできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」(あさ出版)など人事評価制度に関する本が4作あり、同分野では異例の発行累計8万部を突破。多くの経営者から注目を集めている。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る