[リーダーの育て方]
金丸恭文(フューチャー会長兼社長)インタビュー「リーダー育成には若い頃から平等にチャンスを与える」
2017年8月28日

日本を代表するITコンサルティングファームであるフューチャーの金丸恭文会長兼社長は、20代からIT業界で頭角を現した。他の会社が引き受けたがらないような案件でも、チームをまとめ、実績を残してきた。そのリーダーシップを金丸氏はどうやって身につけたのか。そしてフューチャーでは、どうやってリーダーを育てているのか。金丸氏に聞いた。 文=関 慎夫 Photo=佐藤元樹
金丸恭文のリーダー育成法

かねまる・やすふみ 1954年生まれ。74年神戸大学工学部を卒業しTKC入社。82年ロジックに転じ89年フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャー)を設立、社長に就任。同社は現在、持ち株会社フューチャーの下に事業会社フューチャーアーキテクトがぶら下がっており、金丸氏は持ち株会社の会長兼社長、事業会社の会長を務めている。
「育てられるといえば育てられる、育てられないといえば育てられない。どちらも正解ですね」
フューチャー(事業会社はフューチャーアーキテクト)の金丸恭文会長兼社長に、リーダー育成法に聞いた時に真っ先に返ってきた言葉だ。続けてこう語る。
「天性のリーダーというのは確かにいます。これまでいろいろな経営者に会ってきましたが、会った瞬間にこの人はリーダーだと感じる人もいます。でもこういうリーダーは教えて育つものではありません。その一方で組織として考えた場合、リーダーを育てることは非常に重要です。天性のリーダーとは違うタイプですが、きちんと育成することで、会社を継続・発展させることができるのです」
金丸氏本人は、「トレーニングも育成もされた覚えはないけれど、いつの間にかリーダーになっていた」と自らを分析する。
金丸氏がIT業界に名乗りを上げたのは、起業前、在籍していた会社で、セブン-イレブンの情報システムを設計したからだ。この時の条件は、納期は短いのに予算は安いというもの。しかも当時既にセブン-イレブンのシステムは日本一との評価を得ていたから、それを更新するとなると技術的なハードルも相当高かった。
「厳しい条件でしたができないことはないと思いました。ただ自分だけがそう思ったのでは意味がないので、チームのメンバーの意見を聞いたところ、『やれる気がする』『やってみよう』という返事が返ってきました。そこで引き受けることに決めました」
この仕事を振り返って金丸氏は「二度とやりたくないと思うほどきつい仕事だった」というが、それでもやり遂げられたのは、チームの金丸氏に対する厚い信頼があったためだろう。
金丸氏は難問を前にした時、まず難問を難易度別に分解・整理することから始めるという。
「分解・整理することで優先順位が見えてくるし、誰に担当させればいいか分かってくる。スキルがそれほど必要でない仕事はスキルのまだ低い人に任せ、難しいところはスキルの高い人に任せる。そして私は、残った部分やほかの人ではうまくいかないところを担当する」
このように、問題を分解・整理してチームを動かすという手法を、金丸氏は高校時代から身につけていたという。
鹿児島県立甲南高校時代、金丸氏はハンドボール部で活躍していたが、どうしても勝てない強豪校がいた。3年生でキャプテンとなった金丸氏は、どうやったら勝てるか真剣に考え、相手の戦術やくせを徹底的に分析、ポイントゲッターだった金丸氏がおとりとなり、他の選手を生かすことで、見事勝利を収めたという。これも自分たちと相手のプレーを分解・整理した成果だ。
日本にリーダーが育ちにくい理由
金丸氏は政府関係の委員も数多く務めているが、規制改革会議では農業ワーキンググループ(WG)の座長を務めた。現在、政府が進めている農業改革は、このWGがまとめた提言がもととなっている。その素案は、農協の中央組織の役割を弱める画期的なものだったが、この取りまとめは金丸氏の活躍なしにはあり得なかった。
「この時もやり方は同じです。役人が得意なことは何か。私が得意なことは何か。それを全部分けて、任せていいものは任せる。その一方で交渉など、私が得意なのは私が担当する。役人に投げっぱなしにはしていません」
そのリーダーシップは、金丸氏を財界活動に引っ張りこんだ牛尾治朗・ウシオ電機会長など、財界の重鎮も高く評価する。
冒頭の金丸氏の言葉に戻ると、組織としてはリーダーを育成する責務がある。フューチャーの場合、若い時からチャンスを与え、そこから上がってきた人間に対してはさらにチャンスを与えていく。
「日本にはリーダーが育ちにくいと言いますが、それはチャンスを与えていないからです。つまり分母そのものが小さいから、リーダーが育ってこない。そこで当社では、20代の後半から、実力に応じたプロジェクトのリーダーに任命します。当然、チャンスを与えれば、一定の失敗と一定の成功が出てきます。でも失敗したとしても、最初なら小さな失敗で済ませることができます。そして成功すれば、次にもっと大きなチャンスを与える。そうやって、今の実力以上の仕事を任せることで、個人のスキルやノウハウがストレッチされていく。その繰り返しです。重要なのは、若い頃からリーダーとして登用すること。サラリーマン時代の私が16ビットパソコンの開発リーダーとなったのは28歳の時です。それを考えれば、20代が早過ぎるということはありません。もう一つは、誰にでも平等にチャンスを与えること。この2つを心掛けています」
金丸恭文の考える、次世代リーダーに不可欠な資質
フューチャーは、ITを利用して企業の課題を解決する、日本初のITコンサルティングファームである。ITが導入されたことで、企業経営は大きく姿を変えた。それと同時に企業経営者の在り方も変わらなければならないのに、日本ではなかなか変わらないと金丸氏は警鐘を鳴らす。
「社内のコミュニケーションひとつとってもそうです。昔なら社長が社員とコミュニケーションを取るのは難しかった。ですから組織が大きくなると、必然的に上意下達にならざるを得ませんでした。ところが今ではITを駆使することによって意思疎通ができるようになった。ですから今フューチャーには2千人の社員がいますが、昔の200人規模の会社と同じくらいの密度で接点を持つことが可能です。このように、ITによって世界は大きく変わりました。しかし日本の経営者の中で、そういう認識を持っている人がどれほどいるでしょうか」
ITが経営の重要なツールになったのであれば、経営者にはITに対する深い知識と造詣がなければならない。そのことを金丸氏は起業時から訴えているが、なかなか変わらないという。
「中小企業経営者で、IT武装は自分の責任と思っている人がどれだけいるか。あるいは大企業でも、ITはCIOの責任と言って、自分からは切り離してしまう。とても残念です」
IT投資の判断をシステム部門の責任者に任すと、サラリーマンのため失敗を恐れる。そのため実績がある会社に、他社にも納入実績のあるシステムを発注してしまいがちだ。これでは挑戦的なIT投資などできるはずもない。トップがITの価値を理解し、決断を下すことで、初めて戦略的投資が可能になるということだ。
それでも、少しずつだが日本社会も変わってきたと金丸氏は言う。
「少し前までは、寄らば大樹の陰と考える人が大半でした。それがここにきて、起業を志す若い人が増え始めています。彼らは世界が大きく変わっていることを認識し、そこで自分の力を発揮したいと考えている」
この世代は、幼い頃から家庭にパソコンがあり、気づいた時にはインターネットを利用していた。ITとは日常そのもので、特別なことと考えていない世代であり、それだけにIT抜きの企業経営などあり得ないことを知っている。彼らが活躍することで、日本社会は大きく変わるかもしれない。
それを踏まえて金丸氏に、これからの時代に不可欠なリーダーの資質について聞いてみた。
「デシジョンのスピード、大きさ、タイミング。世界のリーダーと日本のリーダーを比べると、ここが大きく違います。そしてこれは、起業家だけの問題ではありません。ジャック・ウェルチのように、創業者でなくてもGEを大きく変えた経営者はいます」
今ではスタートアップ企業にしても最初から世界を意識せざるを得ない。そうであるなら、デシジョンも世界標準にする必要があるということなのだろう。
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