政治・経済

ドイツでフランクフルトモーターショーが開幕した。今年の主役は電気自動車(EV)。各メーカーがこれから発売するEVを展示、今後の戦略を明らかにした。ベンツがガソリンエンジンを搭載した自動車を発明してから130年。覇権はガソリン車からEVに移りつつある。文=関 慎夫

電気自動車の欠点を克服した日産・新型リーフ

201711レポート4

新型リーフを発表する日産自動車・西川廣人社長

 「今後ガソリン車は一切つくらないとA社が決断したようだ」

 ある部品メーカーの社員の言葉である。この会社は、自動車にはなくてはならない部品を製造しており、A社にも納めている。そのA社向け部品の仕様が最近大きく変わったという。その理由をこの社員は知らされていないが、職場の仲間と出した結論が、冒頭のものだった。

 日産自動車は9月6日、千葉市の幕張メッセで新型「リーフ」の発表会を開いた。2010年に発売された初代リーフは、事実上世界初の市販EVであり、7年間で30万台を販売した。しかしその評価は必ずしも芳しいものではなかった。

 ひとつは航続距離の短さ。フル充電での走行可能距離は200キロ。つまり高速を2時間も走ると電池切れを起こしてしまう。しかも、発売当時の国内急速充電スポットはわずか100カ所。これでは怖くて遠出などできるはずもない。加えて、「世界初」に付きまとう風評とも戦わなければならなかった。例えば、「3年走ればバッテリー交換が必要」「寒冷地では電池消耗が激しく、立ち往生しかねない」といった噂である。

 新型リーフは初代の欠点をすべて克服したといっていい。その最たるものは航続距離で、初代の倍の400キロの走行が可能だ。急速充電スポットは全国で5千カ所に迫り、さらにはほとんどの大型ショッピングセンターに充電設備が置かれるようになった。そして、リーフはこの7年間で世界35億キロを走り、重大事故を起こしていないという実績も加わった。発売当初のような風評を聞くこともなくなった。

 それだけに日産の期待も大きい。今年4月に日産社長に就任したばかりの西川廣人社長は、「日産はEVの先駆者であることを自負している。新型リーフは日産がゼロ・エミッション(排出ガスゼロのクルマ)のリーダーシップをより強固なものにするクルマだ」と、リーフがEV市場をリードすると豪語した。

 この言葉の裏には、米テスラの存在がある。ここ数年、EVの話題を独占してきたのは、日産リーフではなく、イーロン・マスク率いるテスラだった。中でも今年販売を開始した「モデル3」は、予約だけで50万台超と、過去7年のリーフの実績を一瞬で上回った。西川社長の言葉からは、自動車メーカーのプライドを懸けて、EVの盟主の座を死守するという意気込みが伝わってくる。日産では、リーフの販売目標を発表していないが、少なくとも初代の倍の販売を見込んでいる。

 しかしリーフのライバルはテスラだけではない。

 

自動車業界を変えていく世界各国のガソリン車販売禁止

 

 9月12日ドイツでフランクフルトモーターショーが開幕した。東京モーターショー、北米国際モーターショー(デトロイトモーターショー)と並ぶ3大モーターショーの中で真っ先に行われることから、その年の自動車業界のトレンドを知るにはうってつけだ。そして今年のフランクフルトはEV一色となった。

 中でも力の入っていたのが世界最大の自動車メーカーとなったフォルクスワーゲンで、2025年までに世界で50種、300万台のEVを発売する。同社はこれまで25年100万台の目標を掲げていたが、それを一気に3倍に引き上げた。同社は2年前、排ガスの偽装工作が判明し大きな批判を受けたが、それを機に、それまで進めてきたディーゼルシフトからEVシフトに全面的に切り替えた。既存の大手自動車メーカーの中では、EVに最も熱心に取り組んでいると言っても過言ではない。

 日本勢ではホンダが「アーバンEVコンセプト」を出品した。ホンダは19年に全世界でのEV販売を予定しているが、この出品車がベースとなる予定だ。また今後ヨーロッパで販売されるすべてのクルマに、ハイブリッドを含む電動化技術を搭載することも明らかにした。

 各社がEVに力を入れるのは、世界各国が従来の内燃機関車に対して厳しい態度で臨み始めたためだ。

 発端は、昨年10月、ドイツの超党派の議員連盟が、「30年以降、ガソリン車およびディーゼル車の登録を認めない」との決議をしたことだった。この動きはヨーロッパに広がり、今年に入ってフランス、次いでイギリスが、40年までに内燃機関車の発売を禁止すると発表。

 さらにはこの9月、中国がガソリン車、ディーゼル車の発売禁止の検討に入ったと発表。時期は今後詰めるとしているが、世界最大市場の決断は、自動車メーカーに衝撃を与えた。

 しかも各国の規制において、ハイブリッド車は環境対応車として認められていない。ハイブリッド車で世界をリードをしてきた日本メーカーにとっては二重の意味でショックだった。40年というとあと20年もあると思うかもしれない。しかしこうしたシフトは動き始めたらどんどん加速する。電機業界では、ブラウン管から液晶へのシフトが起きた時、予想を上回るスピードでブラウン管を駆逐していった。自動車業界にこれを当てはめれば、買い替えが一巡する10年後には、EVが主流となる可能性が強い。

 話をフランクフルトに戻すと、フォルクスワーゲンと並ぶ2大メーカーの一角、トヨタも出展しているが、EVの展示はなかった。トヨタはこれまで省エネ・環境車としてハイブリッド車を推進、さらにゼロエミッション車としては燃料電池車に力を注いできた。ある意味、EVをそれほど重視はしてこなかった。

 ただし、世界的なEVへの流れはさすがにトヨタもあらがいきれない。そのためにトヨタの出した答えの一つが、8月4日のマツダとの提携会見だった。

 この席で豊田章男・トヨタ社長は「前例のない海図なき戦いが始まっている」と自動車業界をめぐる状況に触れ、その戦いを乗り切るためにマツダと資本提携し、共同でEV開発に乗り出すことを明らかにした。

 

電気自動車の登場で水平分業を迫られる自動車業界

 

 カール・ベンツが世界初の自動車を完成させたのは1885年のことだった。この時の動力源は4サイクルのガソリンエンジンだった。以来130年の間、内燃機関の爆発エネルギーを回転運動に変え、車軸に伝えるという自動車の基本的な構造は変わってこなかった。しかしEVは、全く違う構造だ。単にエンジンがモーターに置き換わったのではなく、パラダイムシフトが起きている。

 自動車1台の部品点数は約10万点といわれている。そのうちエンジン部品だけで2万点ほどになる。ところがEVのモーターの部品数は50に満たない。関連部品を入れてもせいぜい100点。ガソリン車とは比較にならない。当然、EVが普及すれば、自動車産業そのものも大きく変わらざるを得ない。

 現在の自動車産業は、組み立てメーカーを頂点として、2次、3次、4次下請けで構成され、裾野は広い。これも部品点数が多いためだ。ところがEVが主流になれば部品点数は大幅に減り、同時に取引相手も激減する。カルロス・ゴーン氏が日産リバイバルプランで取引業者を半減させた結果、NKKと川崎製鉄が合併してJFEが誕生するなど、業界再編が起きたが、EVによる産業再編の規模はそれを大きく上回る。

 そして電機メーカーで1990年代に垂直統合から水平分業への大転換が起きたように自動車業界にも同様のことが起きる可能性が高い。となると、現在の企業グループの在り方も変わってくる。

 既に日産は今年3月、連結子会社だったカルソニックカンセイを投資ファンドに売り渡した。さらに8月にはリーフに搭載しているリチウムイオン電池の製造会社の株式を中国のファンドに売却した。これは垂直統合から水平分業への転換に対応したものだ。こうした動きが今後加速する。

 ガソリン車からEVへのシフトは、自動車業界大転換の氷山の一角にすぎない。水面下では、はるかに大きな世界の産業地図を変える動きが始まっている。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年5月号
[特集]
進化するチーム

  • ・総論 姿を変える日本の組織 個人とチームが互いに磨き合う時代へ
  • ・小笹芳央(リンクアンドモチベーション会長)
  • ・稲垣裕介(ユーザベース社長)
  • ・山田 理(サイボウズ副社長)
  • ・鈴木 良(オズビジョン社長)

[Special Interview]

 南場智子(ディー・エヌ・エー会長)

 「社会変革の今こそ、組織を開き、挑戦を加速する」

[NEWS REPORT]

◆社長になれなかった松下家3代目がパナソニック取締役を去る日

◆DeNAとSOMPOが提案する新たなクルマの使い方

◆ここまできたがん治療 日の丸製薬かく戦えり

◆ブレグジット目前!自動車各社は英国とどう向き合うか

[特集2]九州から未来へ

 九州一丸の取り組みで生まれる新しい産業

ページ上部へ戻る