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「再生可能エネルギー発電は地球と地域を頭の上に置く仕事」―木南陽介(レノバ社長)

木南陽介・レノバ社長

太陽光発電やバイオマス発電など再生可能エネルギー専業のレノバにとって、菅発言は強い追い風になった。同社の木南陽介社長によれは、菅発言は日本経済にとって大きなインパクトを与えたという。今後日本が脱炭素を進めていくには何が必要か。世界の再エネ事業はどうなっているのか。木南社長に聞いた。聞き手=関 慎夫(『経済界』2021年4月号より加筆・転載)

木南陽介・レノバ社長プロフィール

木南陽介・レノバ社長
(きみなみ・ようすけ)1974年兵庫県生まれ。京都大学総合人間学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2000年にリサイクルワン(現レノバ)を設立。17年東証マザーズに、18年東証一部に上場した。

脱炭素への包括的な取り組みは菅首相の覚悟の現れ

―― 菅首相の所信表明演説で脱炭素を巡る環境が一変しました。あの発言をどう受け止めましたか。

木南 日本経済全体にとって非常に大きなことだったと思っています。過去の取り組みとは4つほど違いがあると思います。

 1つはパラダイムの転換について言及されたことです。私は20年ほど前から環境問題に取り組んできましたが、環境と経済の両立に苦労する場面もありました。日本社会で温暖化対策というと、コストがかかるけれど義務的に対応するという感覚が強かったと思います。ところが菅首相は今回、付加価値を生む成長産業だと言い切り、パラダイム転換を明言されました。

 2つ目は非常に包括的だということです。われわれ電力業界やガス・石油などエネルギー分野だけでなく、住宅や自動車など、あらゆる分野のことに言及し、生活や産業全体について聖域なしで対応しようというその覚悟が伝わってきました。

 3つ目は非常に具体的なことです。例えば電力業界でいうと、これまでは総論は賛成だけど各論が難しいというところがあって、再生可能エネルギーの導入は頑張ろうという一方で、送電線の容量の強化には少し時間がかかるようなことがありました。しかし今では容量強化へと舵を切ったほか、荒廃農地の再生可能エネルギー事業への利用など規制緩和も進展しつつあります。このように具体的でアクションベースに話が進んでいます。

 4つ目は、少し曖昧な表現になりますが、菅首相の宣言にはビジョンや夢があります。この分野に携わってきた人たちはみな、とうとうこういう日が来たかと盛り上がっています。

 われわれが関与しているところで言うと洋上風力発電では、2040年までに最大45ギガワットという数字が出ています。イギリスが30年までに40ギガワット、ドイツが40年までに40ギガワットが目標ですから、それよりも大きい。これは、頑張れるならどんどんやれというメッセージです。サプライヤーは、その巨大市場ができるとざわめいています。その意味で菅発言は世の中を動かす宣言だったと感じています。

―― 具体的にどのようなことが起きているのですか。

木南 洋上風力発電を例にとると日本全国の海域でわれわれのような専業者が開発を進めてきたというのがここ5年ぐらいです。しかし、全体の規模感がクリアになってなかったので、例えば風車の部品の工場を日本に作るか作らないか判断する際、日本には市場がないため、既にマーケットがある中国や台湾で、というふうになりがちでした。でもここに来て、急速に日本に関心を持つサプライヤーが増えています。

―― 菅首相が脱炭素を宣言すると予想していましたか。

木南 私の想像を超えていました。私だけでなく業界のすべての人の想像を超えていたと思います。

 ただ、時代は着実にエネルギーを溜めていました。中国でも60年のカーボンゼロを目指していますし、米国もバイデン大統領の可能性が高まっていたため、環境問題には力を入れるだろうと。そうなれば欧州はさらに加速する。そこで日本も前に進まないわけにはいかないということがあったとは思います。

再生可能エネルギーの推進は長期的視点で

―― ところで、世界の再エネ市場はどうなっているのですか。

木南 欧州各国では、発電量において再生可能エネルギーの比率が40%前後の国も少なく、昨年にはEU域内で再生可能エネルギーによる発電量が初めて化石燃料を上回りました。

 日本で再生可能エネルギーに注目が集まったのは東日本大震災のあった11年ですが、この時は、全発電量のうち10%強でした。もっともイギリスにしてもこの段階では10%に満たない程度でした。ところが、この9年の間に、日本はようやく20%に近付いたのに対し、イギリスはいきなり35%にまでもっていきました。ドイツはもともと20%以上と高かったこともあり、今では約40%となっています。

 日本は震災以降、FITに高い価格をつけるなど、再エネ推進策を取ってきました。それでも欧州各国の伸び方のほうがはるかに大きい。これは真剣に受け止めなければならないと思います。

―― 日本は最初のFIT価格が高かったこともあり、再エネは国民負担が大きいと言われたりもしました。それが足かせになっているようにも思います。

木南 長期視点が必要です。50年頃になれば、再エネの国民負担は軽減していきます。現段階の負担だけに話が終始するのは、視点が短期的になりすぎています。欧州では50年をターゲットに、脱炭素をどう実現するか、自国だけでは解決できない地球環境にどう取り組むか、長期視点で取り組んでいます。その違いが出ているように思います。

日本が再生可能エネルギーで世界をリードするためのポイント

―― 今後、日本も脱炭素に向けて動いていきますが、その一方で、昨年末の豊田章男・自工会会長の発言のように、懸念を表明する人も出ています。

木南 豊田会長の発言には共感するところも多くあります。日本でEVを増やしても、その電気が火力発電所由来のものであればCO2削減につながらないというのは、おっしゃるとおりです。ですからあの発言は、エネルギー業界に対して、しっかりやってくれよ、というメッセージだと受け取りました。われわれも今までの5倍、10倍頑張らなければいけないと感じています。

―― 菅首相が脱炭素を成長戦略と位置付けましたが、各国とも力を入れています。日本がこの分野で存在感を示すには何が必要ですか。

木南 私は日本の産業界にできないはずがないと思っています。日本には素晴らしい素材やハイブリッド車などの環境製品を生み出してきた実績もあります。オールジャパンの力を結集すれば、世界をリードするポテンシャルはあると思います。

 そのためには第1に、大きなビジョンが必要です。全産業的に動かないと効果はありません。第2に、技術革新やイノベーションのためにはマザー市場が必要です。欧州企業や中国企業が強いのは自国にマーケットがあるからです。日本も今後はマーケットが育ってきます。世界第3の経済大国であり、世界に冠たる製造業もあるわけですから、市場さえできれば、必ず世界をリードできると思います。

 第3のカギはお金です。洋上風車で45ギガワットを発電するには、例えば事業費が50万~60万円/ kw程度を仮定すれば20兆~30兆円かかる試算です。20年でやるとして、毎年1兆~1・5兆円という巨額なお金が必要です。ただあまり心配することはないかもしれません。われわれのような小資本の会社でも金融機関の方々が支援してくださっていますし、流れはESG投資に向かっています。

 最後は人材です。まだまだ専門家は少ないと思います。バイオマスでも洋上風力でも地熱でもそう。この人材育成がとても大事だと思います。そのためには一定の時間がかかります。

 以上の4つの課題がクリアできれば、日本が世界の再エネ市場をリードすることも可能です。

再生可能エネルギー事業は地元との共存共栄

―― レノバは現在、秋田県由利本荘の海上風力発電プロジェクトに名乗りを上げています。間もなく事業者が選定されるそうですが、勝算はいかがですか。

木南 5月末に公募が締め切られ、年内には事業者が決まると言われています。
当社はこの海域において、5年前から地元の方、漁業者さんたちと一緒に海底地盤の調査をやるなど、協力体制を築いてきました。それが評価されるとうれしいですね。

 われわれは頭の上に地球と地域をいただいて仕事をしていると思ってます。風や太陽光は、地元のものです。それをお借りして電気に変える。ですから地元にメリットを出すことが非常に大事です。この共存共栄モデルが成り立つように、今までも、これからも事業を進めていきます。

由利本荘市沖洋上風力発電
由利本荘市沖洋上風力発電イメージ(秋田由利本荘洋上風力発電合同会社提供)

―― 50年に日本が脱炭素を実現した時、レノバはどのような存在になっていたいですか。

木南 われわれがどこまでできるか分かりませんが、これまでも、そしてこれからも心掛けていくのは、愚直に実行していく会社でありたいということです。

 風力でもバイオマスでも、各地域地域で愚直に実績を積み重ねていく。その実績を見てくれた方が、わが町で使いたいと言っていただけるようになりたい。そうやって実績を積み上げながら、日本とアジアのエネルギー変革をする、そのリーディングカンパニーになりたいと考えています。