政治・経済

 現在のクルマで、もっとも開発費や製造費が掛かっているのはエンジンだ。エンジンの性能がクルマの性能を左右し、売れ行きにつながる。しかしEVにはエンジンがない。かわりに競争力の源泉となるのが動力源である車載電池。既にメーカー間、国家間の熾烈な競争が始まっている。文=関 慎夫 Photo=佐藤元樹

2020年代前半に全固体電池が実用化

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トヨタの戦略を説明するルロワ副社長

 「トヨタは次世代電池の研究にも長年取り組んできました。その中で、『全固体電池』は、航続距離を飛躍的に改善するポテンシャルから『ゲームチェンジャー』となり得る技術だと考えています。トヨタは全固体電池に関する特許出願件数において世界トップです。現在、200人を超える技術者とともに、2020年代前半の実用化を目指して、開発を加速しています」

 ディディエ・ルロワ・トヨタ自動車副社長の東京モーターショーのプレスブリーフィングでの発言だ。トヨタが全固体電池の実用時期を明言したのはこれが初めてのことで、ルロワ副社長の発言は、大きな話題になった。

 トヨタが開発を進めている全固体電池がどういうものなのかは後述するとして、これが話題になるのは、これから普及期を迎えるEVにとって最大の課題が動力源となる電池であるからだ。

 9月に発売された日産自動車の新型「リーフ」は、発売前に予約が4千台に達した。初代リーフは7年間で30万台が売れたが、新型リーフの人気ははるかに高い。なぜなら、初代リーフの航続距離は200キロ。これでは日帰り旅行でも途中で「ガス欠」になってしまう。しかし新型リーフの航続距離は400キロと倍に伸び、1日中走っても電池残量ゼロにはならない、夜充電すれば、次の日も同じようにドライブすることができる。初代の最大の欠点を克服したからこそ、新型リーフは人気を集めている。

 航続距離が伸びたのは、ひとえに電池の性能が向上したためだ。つまり、高性能の電池を搭載できるかどうかが、EVの売り上げを左右する。そのため、電機メーカーや自動車メーカーなど、EVに関与するメーカーの多くが、電池開発にしのぎを削っている。

 現在、先頭を走っているのが、パナソニック・テスラ連合だ。米国のEVベンチャー、テスラは10年からEVを市場に送り出しているが、そのすべてにパナソニック製リチウムイオン電池が搭載されている。

 17年に発売された「モデルS」は、予約が50万台に達するほど人気を集めたが、このクルマを開発するにあたりテスラはパナソニックと合弁で電池を製造する「メガファクトリー」を立ち上げ、製造を開始した。

 モデルSは月産5千台の生産目標を立てているが、10月末までの製造台数は数百台にとどまっている。一部には、メガファクトリーの電池生産がボトルネックになっているとの観測もあったが、パナソニックの津賀一宏社長は「ボトルネックはテスラ側にある。現在、メガファクトリー製電池は、テスラ向け以外に回しているが、テスラの生産が軌道に乗ればそちらに回す。電池が原因でテスラの生産が滞るようなことにはならない」と説明する。

 テスラ向け電池の生産は、パナソニックの命運さえ握っている。12年に津賀氏が社長に就任して以来、同社はB2Bビジネスに大きく舵を切ったが、その柱の一つが、自動車向けだった。現在、自動車向け売上高は1兆円強だが、これを2兆円までに持っていく方針で、そのカギを握っているのがメガファクトリーで、投資額は総額50億ドルに達する。15年時点でのパナソニックの車載用リチウムイオン電池の世界シェアは4割を占めた。今後とも「EV用電池はパナソニック」の地位を維持するために、積極的に投資する方針だ。

リチウムイオン電池は中国メーカーの独壇場

 しかし、成長領域だけにライバルも多い。中でも最大の脅威が中国メーカーで、国別シェアで見た場合、中国製リチウムイオン電池のシェアは既に50%を超えている。

 中国メーカーの成長を支えているのが、中国政府の積極的関与だ。

 大気汚染に苦しむ中国は、EV普及に積極的だ。既に北京や上海の路線バスの多くがEVバスに置き換えられている。乗用車についても、EVならすぐに登録できるが、ガソリン車の登録は通りにくくなっている。当然、ここには中国政府の意向が働いている。今後、中国は30年をめどに、ガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針だ。自動車販売台数世界一の中国のEVシフトは、電池メーカーの懐を潤わせる。「パナソニックのシェアが4割」と前述したが、あくまで15年の数字で、現在では中国メーカーに追い抜かれ、トップ5から転げ落ちたともいわれている。

 パナソニックも中国に工場を建設するなど奮闘するも、中国勢の圧倒的ボリュームの前にはかすんで見える。何しろ、メガファクトリー並の建設計画が中国では目白押し。そして政府は補助金を出してこれを後押しする。

 既にリチウムイオン電池は、半導体やソーラーパネルのように、巨額設備投資によって世界シェアがとれる産業となりつつある。こうなると、思い切った意思決定のできる中国勢に日本はかなわない。DRAMで日本勢が駆逐された時と同じ状況になりつつある。

 そこで期待されるのは次世代電池の開発だ。その有力候補が冒頭に紹介した全固体電池だ。

 リチイムイオンの最大の欠点は、発火しやすいことだ。かつてボーイング787の電池が発火して就航が延期されたり、サムスン製スマホが発火して機内搭載が禁止されたりするなど、何度も事故を起こしてきた。

 リチウムイオン電池の内部は電解液が詰まっている。しかしここに異物が入ると異常発熱を起こす。その点、全固体電池は、固体電解質を使用するので、発熱を起こす可能性は少ない。さらに、積層化ができるため、高電圧化、コンパクト化が可能となる。つまり、リチウムイオンと同じ大きさなら、クルマの航続距離は大幅に伸びる。

 トヨタが開発中であることは周知のことだが、その一方で「実用化はまだ先ではないか」とも見られていた。その観測をルロワ副社長は吹き飛ばした。冒頭の言葉どおりに20年代前半に実用化できれば、車載用電池市場は今とは様変わりするかもしれない。

 EV、そして自動運転が普及すれば、クルマ単体での差別化はむずかしいだけにキーデバイスである車載電池の重要性が増してくる。トヨタが世界に君臨し続けることができるかは、全固体電池次第だ。

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