マネジメント

ミネベアミツミがユーシンとの経営統合を発表した。ユーシンがミネベアミツミに救いの手を求めた格好だが、今回の統合でミネベアミツミは当面の目標を達成し、なおかつ自動車事業を拡大できる。しかしユーシンには課題も多く、統合はミネベアミツミにとっても大きなチャレンジとなる。文=村田晋一郎

ミネベアミツミとの統合を選択したユーシンの現状

貝沼由久・ミネベアミツミ会長兼社長(右)と岡部哉慧・ユーシン社長

 

 ミネベアミツミは、株式公開買い付け(TOB)を通じてユーシンとの経営統合を行う。TOBは19年1月末から開始の予定で、ユーシン株を1株当たり985円で買い付ける。

 この985円という価格はユーシンの株価の1カ月平均、3カ月平均、6カ月平均すべての数値の平均を30%上回った価格となる。ミネベアミツミとしてはユーシン株式66.67%の取得を目指し、買い付け代金は326億円となる。11月7日、ユーシン側もミネベアミツミの発表を受けて、取締役会において全会一致でTOBを通じた経営統合に賛同。株主に対してTOBの応募を推奨する意向を明らかにした。

 ユーシンは、自動車部品を中心に産業機械、住宅分野まで手掛ける。しかし過去に社長交代の混乱や高額の役員報酬などガバナンスが問題視されていた。

 また、仏ヴァリオからキーセットやドアハンドルを扱うアクセスメカニズム事業を13年に買収したが、そのオペレーションに失敗し、16年11月期に96億円の最終赤字を計上する要因となった。

 しかも同事業はヴァリオ自体が複数の事業を買収して形成したことから、現在もなおオペレーションが統一されておらず、拠点ごとに製造の取り組みが異なり生産性が低く、生産能力に見合う受注が獲得できていない。

 このように経営面でさまざまな問題を抱えているのが、ユーシンの現状だ。一方で事業環境については、主戦場である自動車業界が100年に1度の大変革を迎えており、対応するための態勢づくりが急務であるとともに、それを実現するだけの財務基盤の強化が必須となっている。

 岡部哉慧・ユーシン社長としては、「これらの課題を解決できるパートナーを探してきた結果、今回、ミネベアミツミとの経営統合が最善であるとの判断に至った」という。

 ユーシンとしては、ミネベアミツミと統合することで、ミネベアミツミの海外グループの管理手法や人材を活用し、海外事業の経営基盤が強化できることを期待している。また、ミネベアミツミのものづくりノウハウや高度な加工技術、電子技術を駆使した部品を活用して、事業領域も拡大を図る。さらに製品の開発、製造、販売の各段階において一貫した連携関係を築き垂直統合型のビジネスモデルの構築していく。

 また、岡部社長自身、貝沼由久・ミネベアミツミ会長兼社長の経営論、M&Aの方針に共感を受けたことが決め手になったという。

 

ミネベアミツミのユーシン統合の狙いと今後の戦略

 

グローバル展開の拡大を目指すミネベアミツミ

 ミネベアミツミにとっては、旧ミツミ電機との統合以来のM&Aになるが、今回のTOBの意義は、事業規模を拡大できることと、自動車事業の強化が図れることにある。

 ミネベアミツミは超精密加工技術をベースに、ボールベアリングをはじめとする機械加工品やモーターなどの電子機器まで、幅広い事業ポートフォリオを強みに展開している。

 一貫しているのは、できるだけボラティリティが低く、成長性が高い市場で、なおかつ同社の競争力が発揮できるニッチな市場をターゲットとしていること。

 そして、「マーケットのサイズの割にわれわれが取り組める領域がある自動車、そして住宅設備やビル機器だと考えている」と貝沼会長は語る。

 自動車や住宅設備はユーシンも展開している領域であり、経営統合により成長が期待できる。特に自動車事業は、ミネベアミツミはゼロベースで始めて、現在までに売り上げ1300億円まで成長させており、今回ユーシンと統合することで、約1600億円の売り上げが加わり、自動車分野だけで3千億円規模の事業体を構成できる。

 ユーシンは自動車業界でのビジネスが長く、国内外の自動車メーカーと直接取引するTier1ビジネスを展開してきており、自動車メーカーとの豊富なビジネスノウハウを有している。ミネベアミツミとしては、このユーシンのビジネスネットワークを活用することが、自動車事業拡大の橋頭堡となる。

 また、自動車向けの重要保安部品で培ったクオリティーは、ミネベアミツミの自動車事業を品質面で引き上げることが期待できるという。さらに住宅設備分野でも、スマートハウスを推進していく上で、ユーシンのリソースが生きると見ている。

 生産拠点については、ユーシンは世界15カ国に8カ所の開発拠点と24カ所の生産拠点を有する。ミネベアミツミの海外拠点はアジアが中心であるのに対し、ユーシンは欧州に多くの生産拠点を展開している。ミネベアミツミが展開していない国としては、スペイン、イタリア、ハンガリー、ブラジルにユーシンの工場がある。今回の統合で、ミネベアミツミのグローバル展開が一気に拡大することになる。

ユーシンの統合でミネベアミツミの売上高は1兆円に

 ミネベアミツミは「グループのあるべき姿」として「売上高1兆円もしくは営業利益1千億円」の目標を掲げている。

 また、10%以上の営業利益率を目指しており、売上高1兆円を達成できれば、営業利益1千億円もついてくるという考え。既に19年3月期は売上高が9500億円に到達する見込みで、「来期(20年3月期)はどんなことがあっても売上高1兆円を達成するという決意でここまできている」(貝沼会長)状況だ。そこに今回、ユーシンの全社売り上げ1800億円が加わるため、売上高1兆円の達成はほぼ確実な状況になる。

 「われわれの目標はただ単に売上高1兆円ということではなくて、本当に世界のいろんな皆さまのお役にたてる会社にしたいということであり、また、どこにもない会社をつくりあげるのが、私の目標である。来期はこれでお約束通り、1兆円を何があっても達成できると確信している」と貝沼会長は抱負を語る。

 

ユーシン統合後のミネベアミツミの課題

 

ユーシンが収益の足を引っ張る可能性も?

 一方で課題としてまず挙げられるのは、ユーシンの収益状況だ。売上高1兆円は達成するものの、ユーシンの事業がミネベアミツミの、利益体質を圧迫し、もう一方の目標である営業利益1千億円の達成は遠のくのではないかとの懸念がある。

 ユーシンの一番の問題点は、先に挙げた欧州事業のオペレーションにあるが、貝沼会長は、ここで旧ミツミ電機を引き合いに出す。

 旧ミツミ電機の統合の際にも100億円の赤字を1年後には230億円の黒字に転換した。ミツミ電機の統合の際に、貝沼会長は生産拠点を回って、100項目以上の問題点を指摘したという。それらを逐一改善していくことで、一気にターンアラウンドを実現した。同じことをユーシンの拠点においても改善していくことになる。そして営業利益1千億円も売上高1兆円と同時に20年3月期に達成することを目指している。

 「われわれにとっても大きなチャレンジだが、このチャレンジが成功すれば、1年以内に確実に効果は出てくるだろう。これは歴史が証明することなので、1年後あるいは20年の初頭には、私が間違っていたかどうかは数字が明らかにしてくれると思っている」と貝沼会長は自信を見せた。

 また、ミネベアミツミにとっては、欧州のオペレーションは初めてになる。貝沼会長自身、過去のM&Aの時のように「日本人が東南アジアで行うやり方や日本人が日本人に対して行うやり方は通用しない」と見ている。

 そこは旧ミツミ電機での経験が当てにならず、現地マネジメントと目標をいかに共有できるかがカギになるという。ただ、貝沼会長自身、弁護士として米国で活躍していた経験から、欧米社会での立ち居振る舞いを多少は心得ているとし、このマネジメントには注意して取り組んでいく方針だ。

ミネベアミツミによるユーシンの改革はどうなるか

 あとは時間軸の問題だが、これはミネベアミツミ側がコントロールできない領域でもある。

 TOBを実施する前に各国での独禁法の審査を経る必要がある。現状でミネベアミツミとユーシンは重複する事業はない。同様に重複する事業がなかった旧ミツミ電機との統合も2カ月で審査を終えたことから、今回も短期間で済むとみている。

 独禁法の審査期間は、ユーシンに対して生産性改善などの行動を起こすことが全くできないため、貝沼会長としては、早期に独禁法の審査を済ませて、ユーシンの改革に着手したい考えだ。

 自動車分野は製品採用まで4~5年を要するビジネスであるため、ユーシン統合後の新製品の共同開発ではシナジーはすぐに出てこない。

 しかし生産性改善などは効果が早期に上がるため、19年5月に予定される通期決算発表時にはある程度の状況が判明するとみられる。その時に貝沼会長が手応えをどのように語るかが注目される。

 

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