マネジメント

電機メーカーの前3月期決算が出そろったが、際立つのがソニーの好調さだ。数年前まで赤字を垂れ流していたのが嘘のように、営業利益率は10%を突破した。市場成熟化で家電分野ではヒット商品が出にくくなっている今、なぜソニーだけが儲けることができるのか。文=関 慎夫

 

高収益企業に生まれ変わったソニー

 

電機業界で群を抜く利益率をたたき出したソニー

 今年も3月期決算の数字がほぼ出そろった。昨年末からの中国経済の変調は、電気業界にも影響を与え、下方修正が相次いだ。

 その中にあって絶好調というべき業績を上げたのがソニーである。

 ソニーは2018年3月期にも最終利益4907億円と10年ぶりに最高益を更新したが、前3月期は、売上高こそ8兆6656億円と微増だったものの、営業利益は21.7%増の8942億円、税引き前利益44.7%増の1兆116億円、最終利益は86.7%増の9162億円と大幅に伸ばした。

 電機業界を見渡しても、大手8社(他は日立製作所、東芝、三菱電機、パナソニック、シャープ、富士通、NEC)の中で前3月期で最高益を更新したのはソニーだけ。しかも電機業界で初の税引き前利益1兆円を達成、営業利益率は10.3%と、ついに2ケタの大台に乗せた。

 この営業利益率10%がどれだけすごいことかというと、かつてライバルと言われたパナソニックはわずか5.1%にすぎないことからも推察できる。

 12年にパナソニック社長に就任した津賀一宏社長は、「営業利益率目標5%」を掲げ続けてきたが、7年たってようやく達成できた。それでもまだソニーの半分の水準だ。

 また、電機の勝ち組と言われた日立でさえ7.9%、三菱電機も6.4%にとどまる。

ヒット商品なき高収益

 ほんの数年前まで、ソニーが瀕死の重態にあったのは記憶に新しい。それがわずか数年で超高収益企業に生まれ変わった。

 なぜ、これほどまでに稼ぐ力を身につけたのか、多くの人が疑問を持つに違いない。

 なぜならかつてのソニーには、若者の文化を変えたウォークマンを筆頭にテレビにしてもムービーにしても数多くのヒット商品があった。

 しかし最近のソニーにめぼしいヒット商品はないからだ。「プレイステーション4」(PS4)が世界で売れているという人もいるかもしれない。それでもPS4の累計販売台数は現段階で1億台に届いておらず、PS2の販売台数の3分の2にとどまる。テレビなどのAV機器でも数を追わなくなったこともあり、「ソニーといえば〇〇」といった商品は、ここしばらく出ていないのが現実だ。

 つまり今のソニーはヒット商品なき繁栄を迎えている。

 実はこの姿は、昨年、6年間の任期を終え社長を退いた平井一夫氏と、それを支え、昨年、社長に就任した吉田憲一郎氏が目指してきたものだ。

 それがどういうものか。いったん時計の針を7年前に戻してみる。

 

平井―吉田コンビが目指した新しいソニー像

 

就任2年で交代の噂が流れた平井前社長

 平井氏が社長に就任したのは12年4月。その前任のハワード・ストリンガー氏は、7年間にわたってソニーCEOを務めたが、最後は指名委員会により解任されている。

 その理由は業績の低迷。ストリンガー体制最後の年、12年3月期決算は、営業段階、最終段階とも赤字であり、最終赤字は4期連続を記録した。最後の黒字となった08年3月期は、営業段階では過去最高益を上げている。

 ところがこの年、リーマンショックが起こるとソニーの業績は坂道を転がるように落ちていった。平井氏にはその再建が課せられた。

 就任1年目、ソニーは5期ぶりの最終黒字を果たす。しかし当時のソニーの最大のネックだったエレクトロニクス部門は赤字のまま。平井氏は就任にあたり「エレクトロニクスを復権させる」と言い続けてきたがそれは叶わず、その責任をとって全役員の役員賞与を返上した。

 しかし2年目の14年3月期決算でソニーは再び赤字に転落する。最終赤字額は2300億円で、1958年の上場以来初の無配となった。

 当時、よく言われていたのは、「エレキ出身でない平井社長にエレキの再建は不可能」ということだった。前任のストリンガー氏は放送業界出身。平井氏はソニー・ミュージックエンタテインメント入社組だ。

 そうした人材がトップに上り詰めるのは、ハードとソフトの両輪経営を進めてきたソニーならではと言えるのだが、そのぶんエレキに弱く、再建することができないのではないか、と見られており、社長就任2年にして社長交代の噂が流れた。

平井一夫氏

就任当初は実力を懐疑的に見られていた平井一夫・ソニー前社長

平井氏とともに構造改革に乗り出した吉田現社長

 この危機に、平井氏が決断したのが、テレビ事業の別会社化とパソコン事業の売却だった。両事業ともに長年赤字が続いており、経営の足を引っ張っていた。

 ソニーのパソコン「VAIO」は96年に発売された。国内のパソコンとしては最後発だった。しかしそのスタイリッシュなデザインと、映像の美しさが話題を呼び、大ヒット商品となり、世界で累計7千万台以上を販売した。

 しかしスマホやタブレット端末の普及とともに、販売は低迷する。これは他社のパソコンでも同様だったが、VAIOの場合は個人ユーザーが中心だったため、その影響は一段と大きく、黒字化の見通しも立たなくなった。そこでソニーはパソコン事業を日本産業パートナーズに売却した。

 またテレビ事業は2014年3月期までに10期連続で赤字となった。そこで別会社化することで独立採算意識を徹底させ、量ではなく4Kなどの高付加価値商品により利益を重視する方針へと改めた。その結果、1年後には利益を出すまでに改善された。

 この構造改革を平井氏とともに行ってきたのが吉田現社長だ。

 吉田氏は1982年にソニー入社。83年にソニー・ミュージックに入社した平井氏より、学年も年齢も1年上となる。主に財務部門を歩むが、2000年にソニーコミュニケーションネットワーク(ソネット)に転じ、05年に同社社長に就任。通常なら、これが「上がり」のポストとなるはずだった。

 しかし平井体制2年目の13年12月、ソニー執行役として吉田氏を本社に呼び戻す。この時から2人3脚でのソニー改革が始まった。前述のパソコン撤退やテレビ別会社化などに際しては吉田氏が「汚れ役」を引き受けた。

吉田憲一郎・ソニー社長

平井前社長と共に構造改革に取り組んだ吉田憲一郎・ソニー社長

 

ソニーを高収益体質に変えたリカーリングビジネス

 

リカーリングビジネスが売り上げの半分を占める

 このコンビが結成されてから、ソニーは徐々に階段を上っていく。15年3月期の最終損益は1259億円と2年連続の赤字となったが、これは前記の構造改革費用を計上したことによる。事実営業利益を見れば、前年より2.6倍増えている。さらに16年3月期には4.3倍に増えた。17年3月期は足踏みしたが、18年3月期には2.5倍に増えている。

 その結果、平井社長就任直前の営業利益は672億円の赤字だったものが、退任時には7348億円と、8千億円も改善された。ソニーの営業利益率は、18年3月期には8.6%となり、吉田社長1年目の前3月期には前述のように10%を突破した。

 この間、ソニーの収益を支えてきた製品といえば、第一にイメージセンサーだ。

 ソニーのイメージセンサーは、多くのスマートフォンの部品に採用され、スマホの普及とともに売り上げを伸ばしてきた。最近ではスマホの成長率が鈍化しつつあるが、その一方でダブルレンズ、トリプルレンズといったスマホが増えており、それがさらなる需要を呼ぶ。

 その結果、イメージセンサーを含むソニーの半導体分野は、売り上げ8793億円(うちイメージセンサー7114億円)に対して営業利益1439億円となり、利益率は16.4%に達している。

 そしてソニーの高収益を支えるもうひとつが、リカーリングビジネスだ。リカーリングとは、サブスクリプションなど、商品販売後も、継続的に収益を上げるビジネスだ。

 その代表例がゲームビジネスで、PS4は既にピークを迎え、販売台数は減少に転じているが、有料会員サービス「PSプラス」加入者は増加を続けており、前3月期でも売上高を大きく伸ばしている。また音楽分野では「Spotify」などの音楽定額サービスが定着しその売り上げが伸びている。

 音楽のネット配信が始まって以降、CDの売り上げが大きく落ち斜陽産業化したが、定額制の普及により、再び成長軌道に乗った。ソニーはその恩恵を最大限に受けている。

 これは映画分野も同様で、ソニーはここ数年、大ヒット映画には恵まれておらず、赤字計上することも多かった。

 しかし「Netflix」などの定額配信向けに、過去の映画ソフトを提供し、さらには番組制作を手掛けることで、今では安定的に利益を上げるようになった。

 これはソフト分野に限ったことではない。かつて人気を博したロボット犬「AIBO」は昨年、「aibo」として復活した。AIBO時代は売り切りビジネスだったが、aiboの場合、本体価格19万8千円のほかに、3年間9万円の利用料金が必要になる(一括払いの場合)。

次のソニーのビジネスモデルはどうなるか

 このリカーリングビジネスも、平井社長時代から熱心に取り組んできたものだ。

 同様のビジネスを他の電機メーカーも志向するが、ソニーほど成果を上げているところはない。これはやはり、ハード以外に音楽、映画部門を持ち、さらにはそこからゲーム事業に進出したソニーだからこそできたことだ。今ではソニーの売上高に占めるリカーリングビジネスの比率は5割を超えた。

 20世紀までは神話企業だったソニーが、21世紀に入り輝きを失ったのは、デジタル化という構造転換が起きたためだ。その結果、ブラウン管テレビで圧倒的強さを保っていたソニーは、その成功体験が邪魔して液晶テレビへと舵を切れず、転落が始まった。

 このように、ハード依存型ビジネスは、時代や技術の進化により、既存の商品が陳腐化してしまう危険性をはらんでいる。

 その点、リカーリングビジネスは、プラットフォーム事業なので、ビジネスモデルの寿命は比較的長い。そのため、ソニーは今後とも、ある程度の高収益を保っていくはずだ。

 しかし油断は禁物。どんなビジネスモデルもやがては通用しなくなる。次のビジネスモデルの模索は既に始まっている。

 

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