政治・経済

仮想通貨=ビットコイン(BTC)と思っている人も多いが、世界には1千を超える仮想通貨があり、BTCはそのひとつにすぎない。そこに来年、フェイスブックの「Libra(リブラ)」が加わる。フェイスブックユーザー27億人が利用すれば仮想通貨は新しいフェーズに突入する。文=関 慎夫 (『経済界』2019年9月号より転載)

 

仮想通貨の現在とビットコインが再び急騰した背景

 

米中経済戦争が生んだビットコイン急騰劇

 BTC相場が再燃している。6月26日には1BTC=140万円を突破、その後一時110万円台にまで下げたが、7月9日現在、130万円台で取引されている。今年4月はじめの40万円台と比べると、3カ月間で3倍以上も値を上げた。

 一昨年暮れに1BTC=200万円を突破したあと、1年間にわたって値を下げ続けた時は、「BTCの時代は終わった」「BTCの実質価値はゼロ」などと言われたが、ここにきて復活したのには理由がある。

 ひとつには、BTCの認知度が広まったことだ。

 仮想通貨全般について言えば、昨年1月に580億円にのぼる不正引き出しが発覚したコインチェック事件や、一時は新しい資金調達法と期待されたICOによる詐欺事件など、信頼を失わせる多くの事件が起きているが、それでもBTCに関して言えば、シカゴ取引所で先物取引が解禁されただけでなく、日本でもナスダック等で検討が始まるなど、金融商品としての理解が深まりつつある。

 さらにはSBIや楽天など、ネット証券大手がBTC取引に参入したことも、投資家に安心感を与えた。

 しかしそれ以上に大きな要因が、米中貿易戦争だ。G20の米中首脳会談で、スマホやパソコンなどに25%の関税を掛けるという最悪の時代は先送りされたとはいえ、過去3度の関税引き上げにより、中国経済は大きな打撃を受けている。そこで中国富裕層が資産をBTCへと逃避し始めた。

 中国では2年前にICOを全面的に禁止し、仮想通貨取引も制限した。しかしさまざまな抜け道を使って、BTCの取引が行われている。さらには香港で逃亡犯条例を巡り、反政府デモが激化したこともBTCへの逃避を加速した。

 「BTCは金と同じ」と言われる。というのも、BTCはあらかじめ発行量が決められていて、既に8割近くが発行済み。その限られたパイに対して中国人の需要が急増した。さらにはアメリカの金融緩和が続くとの観測もあり、投機資金の一部がBTCへと向かった。これが今回の一連の動きだ。

 今後のBTCの動きについては、「過去最高値の220万円を突破する可能性が高い」と見る投資家が多い。シカゴでの先物取引量が過去最高となっていることなどがその理由で、「いずれは1千万円」という景気のいい話もある。

 しかし2年前に急騰した時も同じような声があり、それにつられてBTCを買った投資家はその後の暴落で大きな痛手を負った事実を忘れてはならない。

ビットコイン価格

投機目的だけのビットコイン

 2年前のBTCのブームと今回の違いは、前回は代替通貨としての機能が注目されていたのに対し、今回は投資商品としてしか注目されていない点だ。

 2年前にはビックカメラやエイチ・アイ・エスがBTC決済に踏み切り、不動産業者がBTCによる家賃支払いを認めるなど、BTCが決済通貨になりそうな勢いだったが、ブームが去ると急速に沈静化した。今でもビックカメラに行けばBTCで買い物ができるが、売り場で尋ねても、BTC決済をする人はほとんどいないという。

 本来、仮想通貨は、法定通貨の欠点を補うために生まれたはずだ。通貨は、発行する国によって保証されている。円であれば日本銀行が発行し、日本政府が信用を担保する。

 ただし、その信用を維持するためには、記録を台帳に残さなければならず、それを管理するためには莫大なコストがかかる。そこで台帳の代わりに記録のすべてをクラウド上に置き、相互認証によって信用を担保しようというのがブロックチェーン技術であり、それを活用したのがBTCだ。BTCは特定の管理者がいなくても信用性が保証される。国際送金などでも、従来の送金よりもはるかに安い手数料で送ることができる。

 BTCにはこのような利点があるのだが、今ではその機能はほとんど顧みられない。BTC以外にもXRPという国際送金に特化した仮想通貨もあり、これを使って送金するケースも増えているが、利用するのは金融の専門家ばかりで、一般にはなじんでおらず、仮想通貨を市民が気軽に利用することはできない。

 

フェイスブック主導の新仮想通貨「リブラ」のインパクト

 

広く普及する可能性を秘めたリブラ

 ところが6月、フェイスブックがリブラという仮想通貨を使ったサービスを2020年にも開始すると発表したことで、仮想通貨は新たな時代を迎えた。

 リブラもブロックチェーンを利用するが、ドルやユーロなどの法定通貨と一定比率で交換できる「ステーブルコイン」で、そのためBTCのような価格の乱高下はあり得ない。純粋に送金や決済など「通貨」として使われることを目指す。

 驚くのはリブラの発行主体となる「リブラ協会」(本拠地・スイス)に参加するメンバーで、現在分かっているだけでビザやマスターカード、ウーバー・テクノロジーズ、イーベイやスポティファイ、ペイパルなど約30社が加盟する。フェイスブックのユーザー数は27億人、全人類の約半数が利用しているサービスだ。

 さらにはクレジットカードの2大勢力、ビザとマスターカードが加わっているため、サービスを開始すれば、利用者は口座数4千万のビットコインとは比べ物にならないほど多くなるのは必然だ。

 もちろん、今後リブラが通貨同様に流通するには多くのハードルがある。

 国家にとっては通貨制度とは体制の根幹を占める。金融政策も通貨を発行しているからこそ可能となる。そのため、国家のコントロール外にあるリブラの流通が増えることへの警戒心は強い。リブラが通貨としての性格を持てば持つほど、多くの国で規制対象となるはずだ。

 それでも、フェイスブックにしてもメンバーの1社、ウーバーにしても、過去に規制と戦いながら成長してきた。リブラによって利用者が圧倒的な利便性を享受できるなら、いくら規制しても普及していくことは間違いない。

仮想通貨でも取り残される日本

 問題は、リブラ協会の中に日本企業が1社も入っていないことだ。

 サービス開始時にはメンバーは100社ほどに増える見通しで、そこに日本企業が入る可能性はあるが、チャーターメンバーに入っていないということは、リブラの基本設計には関与できていない。つまり仮想通貨流通・決済のデファクトスタンダードとなる可能性のあるリブラの中で、日本が主導する部分はほとんどない。リブラの公的性格が強くなればなるほど、フェイスブックはじめメンバーがここから収益を上げることはむずかしいだろう。

 しかしそこから上がってくるビッグデータなどを独占される可能性がある。仮想通貨においても日本はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の軍門に下ることを意味している。

 日本の仮想通貨に対する取り組みが遅れていたわけではない。一昨年4月には世界に先駆け改正資金決済法(仮想通貨法)が施行されるなど、世界をリードしていた時期もある。

 2018年にはSBIを中心としたコンソーシアムが、ブロックチェーン技術を使った送金サービス「マネータップ」を開始、三菱UFJ銀行も独自の仮想通貨「MUFGコイン」の実証実験を続けており、間もなくサービスを開始する。

 しかしいずれも大きなうねりにはなっていない。三菱UFJ銀行の三毛兼承頭取は「他のメガバンクと一緒にやっていく可能性もある」と語っていたが、その後も「日本連合」が結成される兆しはない。

 その間に、フェイスブックが着々と準備を進め、国際企業連合を組織していた。対抗してGAFAの他の一角が同様のサービスを開始するかもしれないが、その場合でも日本が主導権を持つとは思えない。

 モノが主流の時代には、日本がデファクトスタンダードを握ることは珍しくなかった。しかし情報革命以降、日本はあらゆるサービスで世界に後れを取っており、仮想通貨もそうなる可能性は強い。

 ビットコインの相場以上に重要な問題が、最近の仮想通貨を巡る動きの中で起きている。

 
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