経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「レガシー産業にDXを注入し花形産業へ」―クレストホールディングス

インタビュー

看板会社というレガシー産業の事業を父から引き継いだクレストホールディングスの永井俊輔CEOは、DXを推進し、同社をデジタル看板の効果測定なども行う花形産業へ引き上げた。永井CEOは望田竜太COOとともに、この成功モデルを他のレガシー産業にも展開し、日本の中小企業を再生させようと動き出している。聞き手=唐島明子 Photo=佐々木 伸(『経済界』2021年6月号より加筆・転載)

永井俊輔・クレストホールディングス社長CEOプロフィール

(ながい・しゅんすけ)1986年、群馬県生まれ。2009年に早稲田大学を卒業後、大手ベンチャーキャピタルのジャフコに入社。M&Aやバイアウトに携わった後、クレストへ。ITの活用などを通じて4年間で売り上げを2倍に拡大させ、16年にクレストの社長に就任。19年クレストホールディングス設立時には同社社長に就任した。

望田竜太・クレストホールディングスCOO兼CSOプロフィール

(もちだ・りゅうた)2009年に早稲田大学卒業後、リサ・パートナーズで投資実行・投資先管理業務に携わる。14年にPwCコンサルティングへ入社し、業務改革、新規事業創出、DX等のコンサルティングを経験し、20年からCOO兼CSOとしてクレストホールディングスに参画。

CEOとCOOで一心同体の経営

―― 今回のインタビューに、永井さんと望田さんが2人で登場する意図を教えてください。

永井 望田と私は一心同体で、クレストホールディングスは2人で経営しているからです。

 私たちは高校の時からの親友で、大学を出てからはそれぞれ別のファンド会社に入りました。私はそのファンドに入社して間もなく、看板会社・クレストを営む父に呼び戻されて家業を継ぎました。望田はしばらくファンドやコンサルの仕事していましたが、2020年1月にクレストHDに入社して取締役COO兼CSO、そして子会社・東集の社長に就任しました。

 現在のクレストHDには、デジタル看板事業などを行うクレスト、ガーデニングを中心とした小売事業のインナチュラルなどの子会社があります。望田が社長を務める木材会社の東集もその1社で、19年9月にM&Aで事業承継しました。

高校時代に漫画「サンクチュアリ」から刺激を受ける

―― 高校からの親友なんですね。

望田 高3の時に仲良くなり、将来は一緒にやるんだとその頃から決めていました。それでクレストHDに入社する前から、永井から仕事の相談を受けたり、クレストHDの経営について一緒に考えたり。

 14年に彼から「中期経営計画を作りたい。ちょっと週末を貸してくれ」と言われ、14年12月から4年間、すべての土曜日を使って2人で中計を作りました。妻にはかなり怒られたりしましたが、永井と一緒にやると決めていたので、その時間的な投資は全く苦ではありませんでした。

―― 高3で2人が意気投合したきっかけは何かあったのでしょうか。

望田 『サンクチュアリ』というマンガをきっかけに心を通わせました。カンボジアで両親を殺されて孤児になった2人の少年が、ネズミとかを食べながらなんとか生き残って日本に帰ってくるのですが、日本を見たときに「なんだこの体たらくな国は。こんな国は変えないといけない」と考え、1人は政治家、もう1人はヤクザになって表と裏から一緒になって日本を変えていこうとする話です。

 それで私たちも日本を絶対に変えるんだと決め、じゃあ変えるネタは何にするのか、14年頃までずっと模索していました。

―― 望田さんもクレストHDに合流したということは、クレストHDが日本を変えるための舞台ですね。2人がそこに至るための初めの転機は、永井さんがクレストを継いだことでしょうか。

永井 ファンドに入社してから半年もたたないうちに、突然父から戻って来いと言われて戻りました。やりたかった投資やM&Aなどの道が閉ざされてしまい、私にとってはまさに絶望の始まりでした。

 看板会社で最初にした仕事は看板工事のためのガードマンで、PCも使いません。時代の先端を行くようなファンドの世界とは全く異なり、自分たちはすごく遅れている存在だなと私自身も身に染みたし、同業者、職人さん、工場にいる社員の間にも同じような空気が流れているのを感じ、これはレガシー産業の課題だと痛感しました。

望田 私は当時の様子を見ていましたが、永井はクレストに呼び戻されてから1年半くらい友達との関係を断絶させていました。後々その理由を聞いたら、恥ずかしくてみんなに会いたくなかったと言っていました。

教科書通りにするだけでレガシー産業の事業は伸びる

―― 絶望しつつも、永井社長は4年間で売り上げを2倍にしたそうですが、どのようなことをしましたか。

永井 当時は本当に恥ずかしかったんです。新卒で意気揚々とファンドに入ったのに半年後には看板の工事現場の仕事をしていて。とにかく看板業界の価値を向上したいと考えました。「看板業界をカッコよくしたい。そうしたら自分だけではなく、そこで働いている人たちの気持ちが変わり、自信を持てるようになるのではないか」と思ったんです。

 それでまずは教科書通りのことをして、これまでやってきた事業を伸ばしました。営業に行ったらお礼のメールを送る、顧客と会ったらその時に話した内容や次にすべきアクションをCRMに入力するとか、本当にシンプルなことです。

 普通のことを普通にやって、それをちょっとデジタルに乗せて、メールを活用したマーケティングなどを行うだけです。教科書通りの営業、マーケティング、戦略設計をする。経営者であれば損益計算書やバランスシートなどを自分の目で見て、自社のお金の流れを把握する。難しいことをする必要はありません。それだけでベースラインは作れますし、レガシー産業は必ず伸びます。

―― 教科書通りのことをするだけで売り上げが2倍になるとは。

望田 レガシー産業の一番の課題は儲からないことです。そこでまずは業務を効率化して儲かるようにします。ただし、儲かるようになっても市場が右肩下がりではいつか消滅してしまいますので、儲かった収益の一部を投資に回してイノベーションを起こす。若者に興味を持ってもらえないとその業界は存続できないため、最終的には若者にカッコいいと思ってもらえる業界にしたいと考えています。

 私たちはこれを「レガシー・マーケット・イノベーション(以下、LMI)」と標榜しています。例えばクレストの看板事業でLMIを起こし、看板の企画や設置だけでなく、デジタル看板の効果測定を行うサービスを提供するようになりました。このようなイノベーションをさまざまなレガシー産業で巻き起こしていきたいんです。そして私たちが看板の次のフロンティアだと考えているのが、M&Aした木材会社の東集です。建築資材、建築産業のドメインの中での木材です。

―― LMIで日本を変えていきたいということですか。

永井 目指しているのは、中小企業を中心としたレガシー産業を花形にしていくことです。日本は中小企業が非常に多いので、中小企業を変革できれば、日本経済の底上げに寄与できるはずです。

 世界で200年以上続く企業の数は5500社ありますが、そのうち3900社、約70%が日本企業なんです。そして日本では、25年には中小企業の経営者の65%が70歳を超え、その52%に後継者がいないと言われています。そこの売上高は合計22兆円、GDPの4%にあたり、このままではそれが失われてしまいます。私たちはこれを「中小企業クライシス」と呼んでいますが、この現状をLMIで変えたいと考えています。

望田 私たちは日本を変えたいので、大きなインパクトがなければ意味がありません。それでGDPの4%という数字が出てきたとき、「これで行こう」と思えました。

イノベーションの種は現場で見つかる

―― クレストHDを経営する上で、大切にしていることは何ですか。

望田 ハンズオン、現場主義です。ボードメンバーも1週間の中で現場に入る時間を必ず作る。自ら現場へ足を運び、そこからイノベーションの種を持ち帰ってくるようにしています。

―― その具体例はありますか。

望田 東集の例では、現場に行って木材の物流の課題が見えました。

 段ボールに入った荷物を運ぶB2Cの宅配とは違い、木材は一つ一つ形が異なり、荷積みの方法が毎回違います。かつ建設中の現場に運ぶので、運搬先は毎回違う場所にあり、誰が受け取ってくれるかも分からず、その運搬先にトラックが入れるかも分からない、4重苦のような環境です。しかしいつ木材が到着するかが分かれば、建築現場側でも受け入れる準備をして、大工さんがきちんと受け取ってくれます。

 それを実現している仕組みはないかと調べてみたら、B2Cではクロネコヤマトが荷物の追跡サービスをしていました。

 いつ誰にどんな荷物を持っていくかのデータとトラックの位置情報をGPSで取得すれば、B2Bでもこのサービスを提供できます。そこでスマートドライブというスタートアップと協業し、荷物を追跡できるサービスを開発しました。今は実験中です。

 東集ではこのほかにも何個か検討を進めているプロジェクトがあります。私も入社して最初の数カ月は現場に出れず、アイデアが全く出ませんでしたが、現場に行ったらすぐにひらめきました。

―― レガシー産業、LMI、中小企業クライシスなどたくさんキーワードがありましたが、これから何を目指しますか。

永井 まずはLMIを通じて、レガシー産業を花形産業に変えていけることを皆さんに知ってもらいたいです。それを広めていくためにも上場しようと計画しています。次に、あらゆるレガシー産業の事業承継問題を解決するためにも、LMIができる人材を育成し、最終的にはこのモデルを海外に輸出したいですね。輸出先としては、古い産業が残っているドイツやオランダがいいのではないかと考えています。