中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西畑孝則

藍澤卓弥・アイザワ証券社長プロフィール

 

あいざわ・たくや 1974年、東京都生まれ。97年慶応義塾大学総合政策学部を卒業し野村総合研究所に入社。2005年アイザワ証券に転じ企画部配属。12年取締役を経て14年専務管理本部長、17年日本アジア証券社長。今年7月1日アイザワ証券社長に就任した。

 

アイザワ証券社長就任の経緯と藍澤卓也氏が目指すこと

 

地域に根差した証券会社として成長したアイザワ証券

―― 7月7日、アイザワ証券は創業100周年を迎えました。100年続いた理由を教えてください。

藍澤 アイザワ証券の経営理念は「より多くの人に証券投資を通じより豊かな生活を提供する」ですが、これは私の曽祖父である藍澤彌八が創業した当時から脈々と受け継がれているものです。彌八は倫理観の強い人間で、「相場で儲けようとするのは愚の骨頂」と公言する異色の経営者でした。今風に言えば、目先の利益よりも目線の長い投資を心掛ける。お客さまに儲けてもらって、それによってわれわれも利益を得る。これを徹底してきました。

 また、藍澤家はもともと静岡県と縁が深く、静岡県の証券会社を中心に地方の証券会社との合併や営業譲渡を繰り返して今日にいたっています。社員も地元出身者が多く転勤もなかったため、お客さまと家族ぐるみで付き合うなど、地域に根差した証券会社としてお客さまと深くかかわってきました。地域に支えられ地域とともに成長してきた会社です。

 この経営理念と地域密着の経営がうまくマッチしたからこそ、100年の間、お客さまの支持を得ることができたのだと考えています。

―― 100周年直前の7月1日に社長に就任したばかりです。新社長として100周年を迎えることは既定路線だったのですか。

藍澤 父(前社長で現会長の基彌氏)から交代を告げられたのは3月の取締役会の数日前でした。その時私はクルマを運転していたのですが、驚いて事故を起こしそうになりました。

 「いずれは社長になる」とは思っていましたが、今年が100周年という節目の年であることに加え、7月1日には昨年完全子会社化した日本アジア証券との合併も控えていたため、大きなイベントが続く中で社長が交代したら混乱が起きるのではないかと勝手に思っていました。

長期目線で新たなチャレンジを目指す藍澤卓也氏

―― 創業者から数えて4代目です。世襲についてはどう考えていますか。

藍澤 新しい社長のもと、ドラスティックに会社を180度変えるのであれば、プロ経営者を外部から迎えるか、あるいは社内の優秀な人材を抜擢したほうがいいと思います。ではなぜ私なのか。私は先代社長に一番近いところで、苦労を目の当たりにするとともに、アイザワ証券の伝統を肌で感じてきました。その私に社長を任せたということは、この100年の歴史をつなぎつつ、変えるべきところを変えてほしいということなのだと考えています。

―― 変えるべきところとは。

藍澤 7月14日に社員とその家族、OBを集めたパーティを開いたのですが、その席で会長は、新しい取り組み、とりわけ海外への展開と、システムへの投資を期待すると言っていました。ただ私が直接言われたのは、「思う存分やってみろ」という言葉です。ですから、新しいことに臆することなく、長期的目線を持ってチャレンジしていきたい。

 例えばサントリーさんでも、ビール事業は長らく赤字でしたが、今では主力事業です。アマゾンにしても、赤字続きで、利益が出るようになったのはつい最近です。それでも長期的な目線で事業に取り組んでいたからこそ、ステークホルダーの理解を得られたのだと思います。私もそのような長期的目線で新しいことにチャレンジしていきます。

―― 社長自ら会社をぐいぐいと引っ張っていくタイプですか。

藍澤 会社の方向性を示すのは私の仕事ですが、それを達成するには社員の知恵を結集する必要があります。日本アジア証券との合併で従業員数も1千人を超えました。彼らをどう活躍させるかが私の役割です。

 そのために、マネジメントのチーム制への移行に取り組んでいます。社長がすべて決めて実行させるというのではなく、マネジメントチームごとに担当を決め、担当役員が企画・立案・実行までに責任を持つ。私が持つのは拒否権だけで、基本はすべてをチームに任せます。この体制に移行することにより、今まで以上に社員全員が自分の責任を自覚し、それを果たすために自発的に動く組織になることを期待しています。

 

アイザワ証券の経営戦略―大学との提携、M&Aについての考え方

 

大学と提携し地域との共存共栄を図る

―― 静岡大学や徳山大学、近畿大学など、地方大学との提携の狙いを教えてください。

藍澤 アイザワ証券の歴史は地域に根差した証券会社と申し上げましたが、それはこれからも変わりません。地域との共存共栄を図っていきます。大学との提携もその一環です。

 その第1号が静岡大学で包括的な産学連携協定を結んでいます。大学と証券会社の包括提携は日本で初めてです。その内容のひとつが、クロスボーダー型インターンシップです。アイザワ証券のネットワークを利用して、地元と遠隔地の両方でインターンシップを経験してもらいます。

 それによって地元の良さを再認識すれば、地元の雇用につながります。この試みは、地方創生の特徴的な取り組みとして、昨年、地方創生担当大臣から証券会社で唯一、表彰されました。また、起業家育成のために静岡大学に「アイザワゼミ」を開講し経営の基礎を教えています。

 このような提携を結ぶことで、学生たちのアイザワ証券の知名度も上がっていますし、提携した大学からインターンシップを経て、入社するケースも増えてきました。

規模拡大を目的としたM&Aには興味なし

―― 7月に日本アジア証券と合併しましたが、2016年にも八幡証券を合併するなど、アイザワ証券はM&Aを繰り返しています。今後も続けていきますか。

藍澤 確かに繰り返してきましたが、規模の拡大を目指したM&Aではありません。こちらから取りにいくのではなく、持ち込まれた案件ばかりで、その中から、親和性や相互補完を考慮して、M&Aをするかどうかを決めています。

 何より大事なのは、合併することによってお客さまに新しい価値を創造できるかどうかです。一緒になることで、今まで以上にお客さまに満足してもらえるのでなければ、M&Aをする意味はありません。

 

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