現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載)

 

長谷川拓磨・いちご社長プロフィール

長谷川拓磨・いちご社長

はせがわ・たくま 1971年千葉県生まれ。94年武蔵大学経済学部卒業後、フジタ入社。2002年アセット・マネジャーズ(現いちご)に転じ、上席執行役ファンド第一事業部長、取締役兼執行役副社長不動産部門、11年いちご地所社長等を経て15年5月現職に就任。

 

リーマンショックの危機を教訓に盤石な財務基盤を構築したいちご

 

19年2月期は過去最高益

 サステナブルインフラ事業で継続的な成長を図ることによって社会貢献を行い、経済的な部分と同時に心の豊かさを日本にもたらすことを標榜しているいちご。2016年に策定した3年間の中期経営計画「Power UP 2019」で持続的な成長を果たし、企業力をさらに深掘りし、全経営指標(KPI)を達成した。

 この結果、19年2月期の連結業績は、営業利益262億7900万円、経常利益230億7600万円、純利益153億7300万円で、いずれも過去最高益を更新した。好調の理由を長谷川拓磨社長は次のように語る。

 「3年ごとの中計が終わったところですが、不動産マーケットの活況もあり、会社創立以来の最高益を残すことができました。事業は3つで、コアとなるのが心築事業。“心を込めて不動産の価値を築いていく、お客さまとの関係もしっかり築いていく”という意味に、不動産の価値を高めていくことも含めて心築と名付けました。これが会社の成長エンジンで利益の約8割を占めています」

 心築という言葉は、建物を壊すのではなく、建物の価値を生かすことで、サステナブルな社会に寄与することを表しているという。

 「2つ目はアセットマネジメント(AM)事業で、オフィスとホテルそれぞれに特化したJ‐REIT、インフラ投資法人の3つを運用しています。3つ目は再生可能エネルギーの発電所の開発および運用をしているクリーンエネルギー事業です。どの事業も当社が再スタートした2011~12年に立ち上げたもので、それぞれ順調に成長しています」

いちご写真1

サステナブル不動産に取り組む

リーマンショックを機に収益構造を転換

 長谷川氏が再スタートと言ったのは、リーマンショック時に約450億円の赤字を出したことを指している。不動産マーケットは好不況のブレが大きい業界で、当時、いちごもその波に飲み込まれた。

 リーマンショック前のいちごは、ストック収益(主に賃料収入、AMのベース運用フィー、売電収入)とフロー収益(主に不動産譲渡益)の比率が1対9だった。フロー収益は、リーマンショックのような状況になると急速に落ち込む。このため、いちごの収益は急激に落ち込んだのだ。

 「当社はそこで何とか持ちこたえることができましたが、あの苦しかった教訓を生かし、現在はストックとフローの比率を5対5にすることができました。会社を運営していくためのコストである固定費(固定販管費と支払利息)は70億7100万円(19年2月期)に対して、ストック収益は169億4千万円(同)となっています。加えて、鑑定ベースの含み益は509億1600万円(同)です。これはマーケットベースの含み益で見ると倍くらいになるので、非常に安定した財務基盤を築くことができていると思います」

 さらりと語る長谷川氏だが、これらは一朝一夕にできることではない。購入したアセットをバリューアップし、売却する物件と長期保有する物件を切り分けながら、地道に少しずつ収益を積み上げてきた結果が今日に至っているということだろう。

 

いちごの持続的な成長基盤の構築と長期ビジョン

 

不動産をサステナブルインフラとして捉える

 不動産マーケットは、約10年サイクルで好不況がある。現在マーケットは10年以上好況が続いているが、いずれまた厳しい局面が来るはずだ。

 「今回はそういうマーケットになっても、きっちり向き合って勝負し、そこを“買い場”として、体力と資金を持ちながら備えていきたい」とする長谷川氏は今回、次の中計の策定をやめ、代わりに長期ビジョン「いちご2030」を打ち出した。

 「不動産業の課題は、どうしても外部環境に影響されます。どうやって安定的で持続的な成長をしていくかがポイントになる。これを克服するには新しい収益モデルを次々と創り出していかなくてはなりません。それにはサステナブルインフラという考え方が必要で、当社は不動産を、電気やガス、水道などと同様、生活インフラそのものととらえています。従来の心築を軸とした事業モデルをさらに進化させ、既存事業の継続的な成長に加え、持続性と安定性の高い新たな収益基盤を構築するものです。人と企業を主役に育児、農業、介護、シニアビジネス、医療、エンターテインメント、スポーツ、カルチャーなど、多様化するニーズに対応していきます」

 18年12月にはサステナブル社会実現のための研究機関で社長直轄の「いちごサステナブルラボ」を設立し、コミュニティLabや100年不動産Lab、インキュベーションLabを立ち上げた。これらは“サステナブルインフラの「いちご」”の取り組みを表すものとなっている。

いちご写真2

農場やビニールハウスなどスマート農業への支援を行う

経営の透明性を高めガバナンスを強化

 財務基盤を盤石にした同社は、他社に先駆けて「累進的配当政策」を導入。各年度の1株当たり配当金(DPS)の下限を前年度1株当たり配当金額とし、原則として減配しないことを宣言することにより、配当金の成長を図るとともに、将来の配当水準の透明性を高めた。同時に、株主資本を基準とした「株主資本配当率(DOE)3%以上」を採用、配当の安定化を図っている。

 「当社は06年から委員会設置会社ですし、9人の取締役のうち5人が社外取締役で、そのうち2人は東証一部上場企業の社長経験者です。このため取締役会は予定調和ではなく、喧々囂々の議論が行われます。またスコット・キャロン会長が社長を務めるいちごアセットマネジメントが当社の株式の半数を保有しているので、執行側の代表であると同時に株主の代表でもある。これは、上場企業として常に株主を意識しながら成長していかなくてはならない中で、当社の透明性と共に、経営上の緊張感として非常にバランスがいいし、ガバナンスも効いていることにつながっていると思っています」

 持続的成長への基盤構築に向け、多くの新規事業を創出して、新たな成長ドライバーとして着実に進捗を続けるいちごに注目したい。

 

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