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起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

立志財団

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。

 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと主張するのが坂本憲彦氏。同氏は2017年より一般財団法人立志財団の活動をスタートさせ、起業したての経営者や、これから起業を目指す学生、社会人に対する支援活動を展開している。今回は、起業家にとってなぜ「志」を立てることが大切なのかについて聞いた。(取材・文=吉田浩)

 

坂本憲彦・立志財団理事長プロフィール

(さかもと・のりひこ)1975年生まれ。和歌山県出身。下関市立大学を卒業後、西日本シティ銀行に勤務。同行退職後上京し、不動産教育事業、ビジネススクール事業、能力開発講座、飲食業など複数の事業を手掛け、年商5億円を達成する。20年以上にわたり起業家、経営者の指導と支援を行ってきた経験を活かし、2017年一般財団法人立志財団を設立する。

 

立志財団が起業前のカウンセリングに最も時間を割く理由

 

幼少期の体験や親との関係に注目    

 立志財団では、財務・マーケティング・マネジメント・商品企画などの知識をオンラインで学ぶ「立志ビジネスアカデミー」、起業家同士でアイデアを出し合う「立志実践会」、ビジネスマッチングの場となる「立志交流会」、専門家による個別サポートが受けられる「立志コンサルティング」、そして自分の使命を見つけて生涯続くビジネスを創る「坂本立志塾」という5種類のサービスを会員に提供している。

 特に、坂本立志塾では半年間で13回の講義と回数無制限のコンサルティングなどを通じて、事業のベースになる「志」の部分を突き詰めていくという。

 その内容は幼少期の体験や親子関係を掘り下げるところにまで及ぶ。過去の出来事を忘れてしまっている会員も多いが、徹底的に話し合って記憶を呼び覚ます心理カウンセリングのような作業に最も時間を割くと語る。

 坂本氏は言う。

 「例えば、子供のころに親から好きなことばかりやっていたらダメと言われて育った場合、大人になってもその記憶が残っています。起業塾では最初にビジネスプランを3つ考えて最後に1つに絞るよう指導するのですが、7~8割の会員は本当に好きなことを選べないんです」

「好き」より「儲かる」を選ぶと失敗する       

 理由は、どうしても「好き」より「儲かりそう」を基準に判断してしまうから。ただ、それで始めた事業で挫折する事例を数多く見てきたと坂本氏は語る。

 「上手く行っているときは良いのですが、事業を長く続けるとピンチになる場面も出てきます。そんな時、好きなことでなければ打開するモチベーションが沸きにくいんです」

 起業の動機が、例えば会社に不満があったり、幼少期に貧乏だったので金持ちになりたいといったネガティブな体験に起因するケースは多い。これらの場合、スタートダッシュは良くても時がたつと次の目標を見失ってしまいがちになる。

 負のエネルギーを動機とした事業が長続きしない例として、自分の親を全否定している人は成功しにくい、とも坂本氏は指摘する。

 「人間は歳をとればとるほど姿かたちや言動に親と同じ素養が出てくるものですが、体が親に近づいていくのに心が否定していると、そのギャップに苦しんで物事がうまくいかないことが増えていきます。高齢になればなるほど心理的な葛藤機関が長いので変わるのが難しいのですが、経験がある分、ガラッと変わることもありますね」

 ビジネスを立ち上げる前に、まずは己を知り、ベースを作ることで未来の姿が見えてくるというのが坂本氏の考え。実際にカウンセリングを通じて、当初のビジネスプランが一変するケースも珍しくないという。

何のビジネスを始めるかは「己を知ることから始まる」と言う坂本氏

ビジネスアイデアには人生観や生い立ちが反映される

 カウンセリングの結果を活かして、起業した会員も既に出てきている。

 神奈川県出身の川崎仁史氏は、幼少期に祖母からお手玉をほめられた経験や、小学校の鉄棒の授業で一人だけできずに悔しい思いをした経験から、「できないことをできるに変える」が人生のテーマになった。それがVRでけん玉やゴルフなどの練習ができるシステムの開発に結び付き、有力企業の出資を受けることが決まった。

 また、ある高校生の会員はカウンセリングを続けた結果、「笑顔あふれる世界を創造する」というビジョンを設定。最終的には自分の好きなゲームと音楽を融合させたサービスをスタートさせた。

 「パッと思いついたビジネスモデルでも、その人の生い立ちや人生観が反映されています。それが何なのか、自覚してストーリーとしてつなぐことでエネルギーが生まれるんです。そうしてぶれない軸を作ったうえで、マーケティングや財務といった実務的な知識を乗せていく形で指導しています」

 と坂本氏は語る。

 

立志財団設立の経緯と今後の展開

 

起業家人生のベースとなった経験

 立志財団のこうした方針は、坂本氏自身が起業家として苦労した経験にも基づいている。

 小学生のころから起業したいと考えていた坂本氏だが、やりたいことが見つからなかったため、いったん金融機関に就職し財務などを学ぶ。30歳のころ独立を果たし、ネット通販のマーケティング事業、飲食店経営、起業塾の運営などで成功するも、社内外の人間関係で失敗し挫折。経営者として学び直す目的で、さまざまな起業塾やセミナーなどに通う過程で、自身に「志」がまったくなかったことに気付かされた。

 「40歳を超えたとき、自分の残りの人生の仕事として志から受業を作る起業塾を開きたいと思ったんです。いろんな人の力を持ち寄って一緒に起業支援や経営支援を行うことで、みんながやりたいことを見つけて実現できる社会を目指したいと考えました」

 坂本氏に影響を与えた幼少期の経験は、母親に対する葛藤だったという。同氏が小学生のころ、精神疾患のあった母親は自ら命を絶ってしまう。自殺と知らされたのはずっと後のことだったが、「母親のようになってはいけない。強くならなくてはいけない」との思いを抱えて生きてきた。

 強くなるとはつまり、お金持ちになることで、それが起業の道へとつながっていく。坂本氏の思い描く強い経営者像とは、営業も財務もマーケティングもすべて自分でこなせる存在であり、従業員やビジネスパートナーにもそれを求めた。結果として人間関係に軋轢が生まれ、マネジメントに支障をきたすようになった。

 そんな時期に母の死の真相を知り、供養もしていなかった自分を悔いて、育ててくれたことに対する感謝の気持ちが生まれた。さらに後日、精神を病む前は実はキャリアウーマンで、エネルギッシュに生きていた母親の姿も知るようになる。自身が起業家の道を選んだのは、母の血を引いているからだという思いを持つようになった。

 「それから、人は弱くてもいいんだと思えるようになりました。起業を志す人は、今の自分でない誰かになって成功しようと考えがちですが、それでは苦しくなってしまう。できないことはほかの人の力を借りて、そのままの自分で成功しましょうと今はお伝えしています」

 財団法人という形で多くの協力者を得ながら起業家支援を行っているのは、こうした理由もある。

1万人の起業家育成が目標

 2020年1月の時点で立志財団の会員数は85人。個人事業主や小規模企業の経営者が約半数で、あとはサラリーマンや学生などこれから起業を目指す人々だ。10年後に1万人の起業家を育成することを目標とし、全国に100人単位の支部を100創設し、いつでも相談に乗れる体制を確立する構想を描く。

 「ビジネスと言えばお金のほうに関心が行きがちですが、志を持った経営者がもっと増えれば、本当に世界に変えていけるのではないでしょうか」

 と坂本氏は熱く語る。

立志財団写真

志ある経営者を1万人育てるのが坂本氏の目標だ