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SDRの一翼を担う人民元への不安

不安定な人民元をSDRとして迎え入れたIMF

既に旧聞に属するが、人民元がIMF(国際通貨基金)における“仮想通貨”SDR(特別引き出し権)の1通貨として組み入れられる事になった。今年10月からスタートする。

元来、SDRは米ドル、ユーロ、円、スターリング・ポンドで成り立つ通貨バスケットである。IMF加盟国が通貨不足の場合、自由利用可能通貨との交換が可能となる。

2015年11月30日時点で、2,041億SDR(2,850億米ドル相当)が各加盟国に配分されている。当然、加盟国には応分の分担が課されている。人民元は、米ドル、ユーロに次いで、円を抜いて第3番目の通貨となる予定である。

IMFが不安定な人民元をSDRとして迎え入れるのには、違和感を覚える人が少なくないだろう。時期尚早の感は否めない。

問題は、依然、人民元は米ドルにペッグされた管理フロート制(毎日上下5%以内フロートする。ただし、プラス・マイナス5%は超えない)下にある。

中国は世界第2の経済大国と言われても疑問符が付く。中国が本当の経済大国ならば、管理フロート制をやめ、すぐさま人民元を変動制にすべきではないのか。

1944年「ブレトンウッズ体制」が確立され、第2次大戦後、わが国は1ドル=360円の固定相場制を採っていた(1971年の「ニクソン・ショック」で1ドル=308円と円が切り上げられた)。だが、2年後の1973年、田中角栄政権下で、ついに変動相場制を採る日がやって来たのである。

現在、お隣の韓国ウォンや台湾の新台湾ドルさえ、変動相場制を採っている。なのに、なぜ中国の人民元は、香港ドル同様、いまだに管理フロート制を採っているのか不思議でならない。

中国政府に管理された人民元がSDRになる不安

中国は1979年「改革・開放」以来、資本主義を導入したと言っても、人民元は常に中国共産党の管理下にある。この資本の流れが不自由な“ひも付き”の人民元が国際的通貨となるのは奇妙ではないか。

2015年8月、突然、3日連続で人民元が切り下げられている。人為的な為替操作である。

このように、不透明感に満ちた人民元がIMFのSDRの一部となることにより、世界の通貨体制が不安定になる恐れがないのだろうか。いまだ人民元は中国当局に“過度”に管理された通貨である。

ひょっとして、IMFが人民元を国際システムの枠組みの中に取り込んでしまおうと考えたかもしれない。だが、反対に、人民元がIMFの撹乱要因になる恐れもある。

他方、安定した民主主義国家ならば、IMFの中核を担うことは結構な話である。しかし、IMFは中国共産党政権が独裁体制を敷き、そのことがかえって不安要因になっていることを忘れているのではないだろうか。

現在、IMFの専務理事はクリスティーヌ・ラガルド(フランス出身で2011年7月に就任)である。フランスやドイツ、イギリス等EU中核メンバーは、世界第2の経済大国となった中国から恩恵を享受したいという思惑が透けて見える。

だからこそ、IMFは人民元を優先的にSDRへ入れることにしたに違いない。それが吉として出るか、凶として出るか今後しばらく様子を見守る必要があるだろう。

ところで、習近平政権がアジア開発銀行に対抗して創立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)について触れておきたい。2015年6月、56カ国が創設メンバー国として署名した(南シナ海で中国との係争を抱えるフィリピンは署名をいったん見送った。だが、同年12月31日、フィリピンもAIIBに署名し、57カ国となっている)。

そして同年12月25日、AIIBは正式に発足した。中国はもとより、原加盟国となる英独などのヨーロッパや、韓国、パキスタン、オーストラリアなど17カ国が批准手続きを行っている。そのため、AIIBは出資比率の合計でようやく50.1%を超えた(50%を超えないと発足ができない)。

今年1月16日、AIIBは北京で設立総会を開催する。金立群・元中国財政次官の初代総裁就任が決まっている。

けれども、AIIBが資金調達のため発足当初に発行する債券(1億米ドルから5億米ドル程度)が「無格付け」になった。これは、AIIBが海の物とも山の物ともつかず、国際的に信用されていないことを示す。

さらに、驚くべきことに、当初、(AIIB創設国の中国ではなく)韓国の金融機関がこのAIIB債を引き受けるという。北京の財政赤字がいかに悪化しているのか、この一例を取っても分かるだろう。

周知の如く、近頃、韓国経済は良くない。IMFが既に韓国に警鐘を鳴らしている。それにもかかわらず、韓国がAIIB債を引き受けるというのは理解しがたい。恐らく朴槿恵政権は習近平政権の要請を断れなかったのだろう。韓国経済が中国へ過度に依存している“悲劇”かもしれない。

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