経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

[企画特集]進化する中部経済

日本のものづくり産業を牽引する中部経済。春先にはコロナ禍で輸出がストップして大きな影響を受けたが、最悪期は脱した。今後は盤石な生産基盤を下にイノベーションやスタートアップの育成など、各種の取り組みが本格的に始まる。未来志向で反転攻勢を目指す中部経済の現状と注目企業をレポートする。

コロナショックの最悪期を脱する大型再開発プロジェクトに期待―内田俊宏(中京大学経済学部客員教授)

コロナ禍の中部経済は苦境を乗り越え改善の兆し

 2020年、世界的に猛威を振るった新型コロナウイルスは中部経済にも大打撃を与え、地域経済の根幹を支える自動車産業をはじめ、機械部品製造や金属加工業などの多く企業で、設備投資が見送られることとなった。その影響で工作機械をはじめとする輸出関連企業は大幅な売り上げ減となり、求人倍率も全国平均を下回る苦境に陥っている。

 従来であれば不況時でも製造業は安定しており、サービス・飲食業の落ち込みをカバーすることが多かった。しかし、今回のコロナ禍は世界規模で拡大し、その影響で輸出がストップしたことに加え、緊急事態宣言の発出で飲食などの商業分野で営業時間が大幅に制限され、今までにない厳しい状況に立たされることとなった。

 中でもJR東海への打撃は大きく、27年開通予定であったリニア中央新幹線の延期が早々に決定された。中心部の商業施設においても、テレワークや時差通勤などが推進されたこと、オフィス街の飲食店などの売り上げが大きく減少。アパレル関連でも、フォーエバー21やGAPなどが業績不振によって相次ぎ撤退を決めた。

 さらには、働く場所を選択できるテレワークの普及は、中心市街地に集中していたオフィス需要を低下させる懸念もあり、中長期的な都市開発プロジェクトに影響する可能性もある。

 そうした状況ではあるが、明るい兆しも少しずつ見えてきた。中京大学経済学部客員教授の内田俊宏氏は、「経済活動の再開で、景気は過去最悪水準から脱している。今年5月が景気の谷ではないか」と指摘する。

 名古屋税関が2020年8月20日に発表した管内5県(愛知、岐阜、三重、静岡、長野)の7月の貿易概況によると、輸出額は前年同月比27%減の1兆2360億円となった。

 経済活動の再開を受けて中国、米国向けの自動車関連が回復したことで、マイナス幅は40%を超えていた6月に比べて大きく改善。地域別で見ると中国向けは中型ガソリン車、ハイブリッド車、自動車部品が好調を持続したものの、米国向けは23%減、欧州向け34%減、東南アジア向け44%減と苦戦を余儀なくされている。

カギとなる栄地区の再開

 この厳しいコロナ禍で注目されるのが名古屋の中心部、栄地区の大規模再開発で、デベロッパーや建築会社の需要を下支えした。

 名古屋市が策定した都心部の容積率の緩和を進める「栄地区グランドビジョン」に基づくこの再開発は、久屋大通り公園を軸に日本最大級のPark‐PFI事業「レイヤード ヒサヤオオドオリパーク」の建築を三井不動産が受注。さらに、名古屋テレビ塔を中心とするセントラルパーク一帯に商業施設を誘致し、地上施設、地下施設と連携した街づくりを行う。また、テレビ塔に宿泊できることが売りの「THE TOWER HOTEL」は10月1日に開業した。 

 それに伴い、J.フロント リテイリングも今秋、地下2階、地上6階建ての新たな商業施設を近隣にオープンさせる。22年に「丸栄」跡地、24年には「中日ビル」を建て替え、高さ約170m、地上31階・地下4階の高層ビルを建設する予定だ。

 その西側には大丸松坂屋と三菱地所などが、高さ200mの超高層ビルを建設し、高級商業施設、次世代シアター、外資系高級ホテルを誘致する計画もある。

 これらの大規模開発計画がここ5~6年の間に集中しており、建築業界をはじめとする関連産業の期待は大きい。ただし、首都圏からのアクセスが40分に短縮されるリニア中央新幹線の開業の遅れが決まったことは不安材料となっている。

スタートアップ拠点として存在感を増す中部地区

 一方、今後は次世代スタートアップの育成が活発化しそうだ。世界的ベンチャー企業の育成に関しては、大村秀章・愛知県知事や水野明久・中部経済連合会会長など、地元政財界の重鎮が並々ならぬ意欲を見せる。

 20年7月、愛知・名古屋および浜松地域が「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」として内閣府より選ばれた。トヨタ自動車をはじめ、日本を代表する世界的な製造業が集積する中部地区の特長を生かし、名古屋大学などとの産学連携によって、自動運転やAI開発などの分野で革新的なスタートアップ創出を目指していく方針だ。

 「ウィズコロナの長期化によって、デジタル・トランスフォーメーションが加速する。超スマート社会の下で、中部企業が高付加価値化を実現するには、国内外のスタートアップとの協業が不可欠。ディープテックの人材や資金の獲得がカギとなり、グローバル拠点都市の指定は追い風となる」(前出・内田氏)

 スタートアップの支援が経済の活性化に寄与するのは間違いない。また中部経済を代表し、日本をけん引してきた製造業は、過去に何度も苦境に立たされてきたが、その度ごとに復活してきた歴史がある。その原動力となったのは環境変化に対応したイノベーションであり、今またその復元力が問われている。

注目の中部企業

地域に必要な情報とサービスを、「信頼」を基盤に届け続ける―中日新聞社

一人一人の思いに合った「最期の時」を大切にする葬儀社を目指して―ティア

リアルとデジタルの融合で安心できるリユース市場の形成と拡大を目指す―コメ兵

生活と文化を結ぶ新しい百貨店の姿を追求―大丸松坂屋百貨店

常に新たなことに挑み続けてきた「進化型」企業の今とこれから―スズラン

IT×不動産で創る新時代を勝ち抜くスマートで安心な住環境―GoldKey Co.,Ltd

障がい者の新たな雇用創出と企業の障がい者雇用率達成を支援するサテライトオフィス―アルファ1グループ

IT事業のノウハウを生かし「ウクレレD2Cブランド」を日本で初めて展開―C-UNIT SQUARE