経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

常に新たなことに挑み続けてきた「進化型」企業の今とこれから―スズラン

スズラン社長 國枝靖弘

天保3(1832)年に名古屋の一角でふとん綿製造業を開業以来、187年にわたる歴史を持つスズラン。脱脂綿からガーゼなどの衛生材料、医薬品、化粧品と製品の幅を広げ、現在は海外事業も展開している。

スズラン社長 國枝靖弘
スズラン社長 國枝靖弘(くにえだ・やすひろ)

消費者第一主義のモノづくりを長年継続

 新型コロナウイルス感染拡大前から高品質なマスクを市場に提供し続けてきたスズラン。國枝靖弘社長は、今春の感染ピーク時を振り返って、

 「開店前のドラッグストアに並ぶ妊婦さんを見て、製造が追いつかず申し訳ないという思いだった」と言う。

 その後、國枝社長は母子手帳に添えて渡すマスクを名古屋市に寄付し、国産マスクの製造体制を整えていく。本社ビルの一角にクリーンルームを設け、ほぼフルオートで稼働可能なマシンを自社開発。今秋以降、コットン100%の肌にも環境にも優しい不織布マスクを年間1億枚生産する予定だ。

 「特に当社とは長いお付き合いのある医療機関の方々に不安を抱かせないよう、製造・供給体制を充実させたい」と語る國枝社長だが、こんな嘆きも口にする。

 「中国や韓国ではマスクは高度医療機器と位置付けられており、自国内の認定工場で作られたものしか流通していません。一方で日本では、マスクは雑貨扱いで、医薬品や健康食品のGMP(Good Manufacturing Practice=適正製造規範)認可でなくても流通してしまいます」

 スズランでは衛生面、安全面に配慮した世界基準のマスク製造を進めている。また、SDGsにも取り組んでいる同社だけに、「いずれはマスク紐の使い捨てをやめたい」という。企画・開発から製造・販売まで一貫して行う同社の強みを生かしてできる、まったく新しいマスク製品の登場に期待したい。

 例えば、褥瘡(じょくそう。床ずれの意味)のケアに用いられる同社の「穴あきポリパッド」は、傷口に優しく交換の手間がかからないため、在宅介護が進む今、売り上げを伸ばしている。国の方針によって入院期間が短期化している現状、床ずれの悩みを解消するものだ。「医療品メーカーとして、介護する人・される人のお役に立ちたい」と、介護・医療の専門家の意見を参考に開発した。

 こうした開発姿勢は、スズランの理念「消費者第一主義」に基づく。「生活者の視点で、自分たちが困っていることをいかに解決するか。消費者の要望にどのように応えるのかを常に考えています」と國枝社長。この理念は創業187年の歴史に裏打ちされている。

 「名古屋・東海エリアにはもっと長い歴史を持つ老舗企業が多数あり、弊社などまだまだです」と謙遜しつつ、國枝社長が明かした存続の秘訣は「新しいことをやり続ける」ことだという。「同じことをやり続けて、陳腐化させてはいけません」と言う。

 確かに、ふとん綿からスタートして綿を拠り所に脱脂綿へとシフトし、衛生材料へと進化させている。

 「実は日本において、いち早く生理用品を手掛けたのは当社なんですよ。みるみる他社に市場を奪われましたが(笑)、女性向けという点では、その後、化粧用コットンへとつなげています」

 同社の化粧用コットン「リリーベル」は、ドラッグストアで人気の製品だ。国内外で好評を得ている。コットン100%素材で、独自の構造によって化粧水を30%節約できる「肌にも財布にも優しい」化粧用コットンは昨年、上海で開かれた「CHINA BEAUTY EXPO(中国美容博覧会)2019」でも注目を集め、中国市場におけるトップブランドに成長している。

 多種多様な製品を世に送り出しつつ、同社が常にこだわるのはやはり「綿」だ。國枝社長は

 「創業以来、ずっと綿にこだわってきました。近年は機能性に優れた新素材が続々と開発されていますが、『肌着はやっぱり綿でないと』という方は多い。肌触りが気持ち良くて安価であるという点において、綿以上の繊維があるでしょうか。人にとって綿は、もはや手放せない存在です」と熱い思いを語る。

 農場で育てられる綿は天候異常などにより生産量が左右される。そのため、同社ではバイオ研究所などとも連携して、次代の綿生産も視野に入れているという。

世界をフィールドに「地産地消」を目指す

 今後に向けて、という点で紹介しておきたいのが、同社のものづくりの態勢である。

 2018年に完成したベトナム工場は、グループのハブ工場に位置付けられ、化粧用コットンに使う脱脂綿と不織布を生産している。しかし、ここで作るのは半製品の状態までで、その後は各国の加工工場で最終製品へと仕上げる。

 消費地でのコンパクトなものづくり、「地産地消」を展開する意向がある。「各地の加工工場はフルオートメーションによる無人化を推進しています。必要な分だけムダなく作る体制を整えたい」と國枝社長は語る。

 21年には中国で大規模工場建設に着工する(22年以降に本格稼働の予定)。ここでは医薬品製造も行い、自社ブランド製品、OEM製品を製造する計画だ。

 さらに、北米、インドへの進出計画も進む。世界基準での安心・安全・高品質なモノづくりを行ってきたスズラン。世界各地で、この先も次々とその成果を花開かせていくに違いない。

会社概要
設立 1935年4月
資本金 4,955万円
売上高 58億円
所在地 愛知県名古屋市北区
従業員数 65人
事業内容 衛生材料、医薬品、医薬部外品、医療機器、化粧品の販売および輸出入
https://www.suzuran-corp.co.jp/

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