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地域に必要な情報とサービスを、「信頼」を基盤に届け続ける―中日新聞社

中日新聞社代表取締役 大島宇一郎

東海、とりわけ名古屋圏で圧倒的シェアを有し、全国紙と発行部数を競う中日新聞。情報メディアが多様化する中、中日新聞社は新聞の使命を貫きながら柔軟なチャレンジを行う。キーワードは「信頼」と「地域」だ。

中日新聞社代表取締役 大島宇一郎
中日新聞社代表取締役 大島宇一郎(おおしま・ういちろう)

危機に際し改めて見えた新聞の社会的意義

 「『レガシーメディア』という言葉があります。過去の遺産のメディアという意味で、新聞や雑誌などの紙媒体も含まれるそうです。スマートフォンが普及し、誰もが片手で記事が読め、ニュース速報を受け取ることができる時代。そんな中、全国の新聞の発行部数は低下し続けており、中日新聞も例外ではありません」

 大島宇一郎代表取締役は冷静に現状を語る。

 日本新聞協会の統計によると、新聞の発行部数は2009年の5030万部から19年は3780万部にまで減少。新聞の存在意義はないのではという問いの答えは、新型コロナウイルス拡大の渦中に示された。

 全国の新聞10社による今年4月の調査で、「新型コロナに関する情報入手で利用するメディアは何か」という問いに対し、93・8%が「新聞」と回答。「テレビ」の83・9%、「インターネット・ニュースサイト」の77・2%を大きく上回った。正確な情報を求める人々から注目されたのは新聞であった。

 「要因として考えられるのは、情報の要点をまとめており、保存しやすいこと。また、ネットやテレビでは得られない身近な情報を得られること。新聞は地方版などで地域の感染情報もきめ細かく取り上げており、より密接な情報を届けられること。そして、綿密な取材・調査に基づく信頼性の高い情報を発信していること」などが挙げられる。危機に際して新聞に寄せる信頼の大きさも浮き彫りになった。

 「社会的意義を再確認し、日々磨きをかけた紙面を作り、届けなければという思いを強くしました。ネットは恣意的な情報を流すことも可能です。それらの抑制や権力監視といった使命も新聞にはあります。また、いかなる状況でも発行し、届け続けるのも使命。東日本大震災のときにラジオも携帯電話も使えなくなった地域の方々へ、津波の第一報を伝えたのは新聞でした」

とことん地域に密着しよりきめ細やかな情報を

 中日新聞は東海3県を中心に9県で約230万部を発行し、地方(ブロック)紙ながら発行部数は全国3位(ABCレポート/20年1~6月半期レポート)。注目されるのは東海で占めるシェアだ。20年5月時点の朝刊シェアは、愛知県が75・7%、岐阜県が55・6%、三重県が54・7%。

 広域の発行で人口の多い地域が含まれることもあるが、この強さの理由を聞くと、「特別なことはしていない。とにかく地域に密着した情報を届けていることが受け入れられているのでは」と語る。

 例えば新型コロナに関しては、中日新聞は社会面の1頁をコロナ特集にし、県ごとの感染者数をグラフなどで毎日提示。読者の「こんな情報を載せてほしい」「こうしたら見やすい」といった要望に応えて改良を重ね、より見やすく読み応えのある内容にしている。まさに地域密着、かつ双方向の紙面づくりだ。密着度はボリュームにも表れる。

 「中日新聞は地方ニュースを載せる紙面が4頁あり、これは県単位の新聞に引けを取りません。2頁は県内全域の共通話題を、もう2頁は尾張、西濃などの地域ごとの情報を掲載しています」

 最近取り入れた「地域新聞」は、週1度、「〇〇市新聞」などとして自治体ごとの特集で1頁を使う。寄せられた地域の謎に答えるコーナーや、怪談特集といったユニークなものもあり、好評を得ているという。

 よりピンポイントにエリアを絞るのはある意味大胆だが、その発想や実践の基盤は、全社に根付く地域密着のスピリットにあるようだ。これも特別なことはしていないというが、聞けば新卒社員は1カ月以上販売店で現場を経験するそう。そうした土壌で地域目線と意識が育まれるのかもしれない。

 また、幅広いニュースを充実させ、スローガン「身近な話題から世界の動きまで」の通り、欲しい情報を1紙で網羅できるのも支持され続ける理由と考えられる。

ジブリパークや栄再開発など多様な事業で地域発展に寄与

 「伝える手段が多様化する中で選んでもらえるものになる必要がある。これから先のメディアはオリジナルコンテンツを持っているかどうかが勝負となる。情報をつくる、伝える役割は愚直に継続しつつ、新しいサービスの提案も社内に呼び掛けています。今はアイデアが出始めており、組織も柔軟になってきています」

 中日ドラゴンズを筆頭に幅広い事業を行うのは従来通りだが、既存ジャンルを超えた挑戦も行う。

 現在進行中のプロジェクトが「ジブリパーク」事業だ。スタジオジブリ作品の世界観を再現し、関連グッズの製造・販売、展示物の企画・製作・請負、飲食施設、イベント運営などを担う同パークは、長久手市の愛・地球博記念公園に愛知県が整備し、22年秋開業を予定。中日新聞社が関わるのは管理・運営で、昨年11月、スタジオジブリと共同で株式会社ジブリパークを設立した。

 また、名古屋の文化・商業の中心である栄地区の再開発も進行中だ。24年完成予定の「新・中日ビル」は地上31階・地下4階建てに、商業施設、オフィス、ホテルが入る計画。その斜め向かいには中日新聞社と三菱地所など計5社でつくるグループが建設する複合商業ビルが26年開業を目指している。

 「これらを賑わい創出の一助にし、今後も地域発展に寄与したい」と意気込む。

 コロナ禍で情報への注目が高まり、丹念な取材に基づく確かな情報であれば、それを読みたい人がいることがわかった。その使命を新聞の枠を超えた事業が支える。

 「情報は価値の高い資産。情報を得るために張りめぐらせた取材網は大きな資源。今後考えるべきは、その取材網をいかに守り、情報をどう届けるか。あらゆる手立てを講じて新聞発行を続け、より読みやすく深い情報を届けられる紙面を作るのはもちろん、経営も揺るがないものにしていかなければなりません。あらゆる手段を模索し、試行錯誤しながら、不確実性の時代と呼ばれる現代に生きるこの地方の人たちの暮らしに役立ちたいと考えています」

会社概要
設立 1942年9月
資本金 3億円
売上高 1,169億8,111万円(2020年3月)
所在地 愛知県名古屋市中区
従業員数 2,898人(2020年6月1日現在)
事業内容 日刊新聞(中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞、日刊県民福井、中日スポーツ、東京中日スポーツ)・書籍の発行、各種事業、中日文化センターの運営など
https://www.chunichi.co.jp/