自動車メーカーと部品メーカーは切っても切れない関係だ。それが子会社なら、結び付きも極めて強い。そんな子会社をあっさり手放すことにしたのが日産自動車。日産への部品納入が収益の8割を占める子会社、カルソニックカンセイの売却を決断した。文=ジャーナリスト/田中慎太郎
自動車業界「2つの波」
日産自動車が41%の株を保有する連結対象子会社のカルソニックカンセイ(以下CK)を売却することが明らかになった。投資ファンドである米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下の特別目的会社であるCKホールディングスが、CKに対しTOBを行い、日産はこれに応じて全株を手放す。これにより日産は2千億円強のキャッシュを手に入れる。
CKと日産の関係は長く深い。同社は1938年に設立された日本ラジエーター製造を源流とする。「ニチラ」の愛称で知られた同社は、54年から日産のラジエーター製造を一手に引き受けるようになる。その後、ラジエーター以外の自動車部品の製造比率が高まったこともあり、88年にカルソニックに社名変更。その10年後の98年にやはり日産系の部品会社であったカンセイと合併し現社名となった。2005年には日産が第三者割当増資に応じ、子会社化。日産以外の自動車メーカーとも取引があるが、収益の8割を日産に頼っている。カルロス・ゴーン・日産社長がCKの研究所を訪れ、社員を前に、両社のパートナーシップの重要性を語ったこともあるなど、非常に密接な関係にあった。
CKの売却に踏み切ったのは、三菱自動車工業救済のために2300億円を出資したことが直接の原因だ。5月に日産―三菱の提携が決まった直後から、CK売却は既定路線だった。しかし日産には前期末で1兆円近い現預金があるため、資金繰りに余裕はあった。それでもCKを売却したのは、日産の今後の方向性を示している。
今、自動車業界には大きな地殻変動が起きている。ゼロエミッションと自動運転の大きな波である。
アメリカでは西海岸を中心に排ガスゼロ車の販売が義務付けられる方向だ。ドイツ連邦議会は、30年までにエンジン車を全廃することを決議した。拘束力はないというが、この流れは止めようもない。独フォルクスワーゲンは全社を挙げて電気自動車の開発に取り組んでおり、燃費不正問題による汚名返上に躍起となっている。
一方の自動運転は、全自動車メーカーが実用化を目指している。米フォードは、21年までにハンドルやアクセルのない完全自動運転車の販売を公言、今の延長線上にはない自動車の開発を本格化させた。また、米グーグルの自動運転車に対する取り組みからも分かるように、自動車メーカー以外からも参入してきた。
業界激変時代のトップの決断
日本メーカーの中で、ゼロエミッション、自動運転ともに、先頭を走るのが日産だ。日産が10年に発売した「リーフ」は、世界で最も売れている電気自動車で、これまで20万台を販売した。また今年発売した「セレナ」には、日本では初めて高速道路の単一車線の自動運転システムが採用された。しかし、日本では先頭を走っているとはいえ、世界の中での優位性はそれほどない。
累計ではリーフがいまだ世界一だが、昨年1年間の販売台数は、米テスラモーターズの「モデルS」がリーフを抜いた。しかも今春予約を開始したテスラの「モデル3」は、わずか3日間で27万台、1週間で32万台を受注した。17年末に発売が始まれば、あっという間に累計台数でもリーフを超える。
自動運転についても、日本は今のところあくまで運転補助として位置付けられているが、グーグル、そしてフォードのように、完全自動運転を前提の取り組みが欧米では始まっている。自動運転は国際規格が必要になるが、このままでは、欧米主導で規格が決まってしまう。
そこで日産は、これまで以上に電気自動車、自動運転へ注力していく。CK売却はその意思表示でもある。親密な関係の子会社であっても、将来を見据えて優先順位が低いとみれば、袂を分かつことをいとわない。
99年にゴーン氏が日産に派遣されて最初に策定した再建策が「日産リバイバルプラン」だが、これにより日産は取引先を半減した。その結果、日本の鉄鋼メーカーの再編が進むなど、産業界は大きく揺れた。しがらみや旧習にとらわれないでベストの判断を下せることが、ゴーン氏の強みであり、それが日産を劇的によみがえらせた。
自動運転が進めば、世界の産業構造は激変する。自動車メーカーと部品メーカーとの関係も変わらざるを得ない。そういう時も日産は躊躇しないし、CKの売却でそれを証明した。
では日産以外の自動車メーカーはどうか。
トヨタ自動車も、米国でAI研究を本格化させたほか、ライドシェア最大手の米Uberに出資するなど、未来に向けての投資を強化中だ。また昨年発売したカローラの衝突回避システムに、デンソーではなく独コンチネンタル製品を採用するなど、供給網の見直しにも取り組み始めた。豊田章男社長は「フォーメーションチェンジが必要な時期がきた」と、新しい時代の到来を宣言している。
これをどこまで徹底できるか。産業構造が変われば、トヨタを支えてきたグループ会社や関連会社の位置付けも変わってくる。いずれトヨタも、大きな決断を迫られるかもしれない。
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