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新品種が続々登場 減反廃止を前に過熱する東北「ブランド米」戦争

ブランド米コメどころの東北地方で“ブランド米戦争”が過熱している。昨年は青森県産の「青天の霹靂」が本格的に県外で販売されたほか、昨秋には岩手県産の「銀河のしずく」がデビュー。他県も新品種投入を控える。ブランド米をめぐる産地間競争は激しさを増すばかりだ。文=ジャーナリスト/来栖秀雄

「特A」を取得した青森「青天の霹靂」

「生産者、農業関係団体の努力のたまもの。とにかく『ありがとう』と言いたい」

一昨年の2月、コメのおいしさを格付けしている日本穀物検定協会(東京)が発表した米の食味ランキング。県東京事務所からの連絡を今や遅しと待っていた青森県の三村申吾知事は、県産の新ブランド米「青天の霹靂」が最高評価の「特A」を取得した、との報に感極まって声を詰まらせた。

コメの産地にとって「特A」の奪取はまさに悲願だ。国内外で評価が高まり、その知名度もまるで違ってくるからだ。日本穀物検定協会が昨年発表した2015年産米の食味ランキングで、「特A」は14年産より4銘柄増えて46銘柄と過去最多となった。

このうち東北地方からは、先述の青森「青天の霹靂」(中弘南黒・津軽・青森中央)のほか、岩手「あきたこまち」(県中)、「ひとめぼれ」(県南)▽宮城「ひとめぼれ」、「つや姫」▽秋田「あきたこまち」(県南)▽山形「はえぬき」、「ひとめぼれ」、「つや姫」▽福島「コシヒカリ」(会津)、「コシヒカリ」(中通り)、「ひとめぼれ」(会津)――の12産地・品種が「特A」評価を受けた。

実に「特A」全体の3割近くを東北産のコメが占めたことになる。

特に、青森は県として初めての「特A米」の誕生だっただけに感激もひとしおだった。青森のコメ作りは低温との戦いの歴史でもある。

このため、寒さに強いことや安定して収穫できることが重視され、品種開発が進められてきた。主力の「つがるロマン」「まっしぐら」は寒さに強く、食味も良いのだが、価格が安く、県外では業務用として用いられることが多く、ブランド化は二の次だった。

そうした中で「青天の霹靂」は多くの品種を掛け合わせ、約10年をかけて開発された。粒が大きめで食べ応えがあり、長時間の保温でも潰れない適度な硬さも売り物だ。青と白のロゴが印刷されたパッケージも消費者に鮮烈な印象を与えた。JAなどが設定した相対取引価格で、頂点に君臨する新潟県産「コシヒカリ」を超える価格を付けたこともあり、県外でも人気は急上昇中だ。

宮城が期待する「だて正夢」

他県も追撃態勢を整える。

まずは岩手県。こちらも約10年をかけて開発したという「銀河のしずく」が昨年秋に本格デビューを果たした。

先述した15年の食味ランキングでは参考品種ながら最高評価「特A」を獲得。五つ星のお米マイスターが選ぶ「米のヒット甲子園2016」(日経トレンディ主催)でも大賞に選ばれた。今月に発表される16年の食味ランキングでも「特A」となる可能性が高そうだ。

岩手県産米も青森と同様、病気への強さと収量の多さを重視してきたため、ブランド化が進んでいなかったが、状況は大きく変わりつつある。

“二の矢”も放たれた。今年秋に発売する「金色(こんじき)の風」だ。銀河のしずくが白くて、あっさりした味が特徴なのに対し、金色の風は粒が大きくて甘く、食味が優れているという。県の担当者は「ともに味には自信がある。お客さんに手に取ってもらえればこっちのものだ」と、「金・銀」の二枚看板で勝負を懸ける。

宮城県は1月、来年市場に本格投入する次期主力品種「東北210号」の新しい名称を、仙台藩祖の伊達政宗公や震災からの復興の「夢」をイメージさせる「だて正夢」に決めた。今秋にはロゴマークのデザインが決定する。

宮城といえば、古くから「ササニシキ」が主力だったが、冷害に弱いことなどからその作付面積は大きく減少。今では「ひとめぼれ」が主流だ。そうした中での待望の新ブランド米。もっちりとした粘り強い食感で、冷めても残る甘みや粘りが特徴だ。

村井嘉浩知事は「だて正夢は県産米のエース。ひとめぼれ、ササニシキを引っ張ってほしい。いずれは海外にも打って出たい」と宣言する。

ブランド米は10年前後にデビューしたつや姫(山形)やゆめぴりか(北海道)などが一気に高級ブランドにのし上がったことで注目を集めた。

そのトップランナーである山形県も18年秋に新品種「山形112号」をデビューさせる考え。「つや姫と一姫二太郎に」(吉村美栄子知事)として、「○○王子」など男性的な名称が検討されている。

ブランド米戦争の背景には、18年産以降のコメについて国の生産調整(減反)が廃止されることがある。その後の米価の変動は予測できず、需給バランスに影響が出るとの懸念がある。そこで「おいしい、かつ、値段もお高め」のブランド米への期待が高まる。

「県産のブランド米が評価されれば、従来の品種の評価や価格もそれにつれて上がってくるのでは」(岩手県のある農家)というわけだ。

冷害による不作に悩まされ続けてきた東北地方。その厳しい気候条件の中で次々に生まれる新ブランド米は、技術革新や地元農家の努力の結晶といえるだろう。

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