今や日本各地で外国人観光客を多く見掛けるが、ショッピングに関しては爆買い後、元気な印象はない。しかし、ここにきて復活の兆しが見える。主導するのはもちろん中国の観光客。髙島屋の免税店や「GINZA SIX」の誕生もあり、新たな消費が生まれている。文=古賀寛明
遅れてきた免税店で髙島屋が巻き返す
ゴールデンウイーク目前の4月27日、新宿にあるタカシマヤタイムズスクエア内に「髙島屋免税店 SHILLA&ANA」がオープンした。髙島屋と韓国の免税店第2位の新羅ホテル、全日空商事の3社がはじめた消費税や関税がかからない空港型免税店だ。
免税になるにはもちろんパスポートと渡航用の航空券などが必要だが、旅行者にとっては、たばこや酒、化粧品などのデューティーフリーの商品を羽田空港、もしくは成田空港で出国手続き後受け取ることができるため、都内で買い物しても荷物を持ち歩く必要もない。観光客にとっても便利な場所といえる。
海外ではあまり珍しくもないこの空港型免税店だが、沖縄を除いた日本ではまだ登場して日が浅い。都内には既に2つの店舗がある。ひとつは三越伊勢丹ホールディングスが2016年1月に三越銀座店内に設けた「Japan Duty Free GINZA」、もうひとつは、その2カ月後に東急プラザ銀座内にロッテ免税店が進出している。そのため都内では3店舗目となるが、新宿では初の出店となった。
街を歩けばまだまだ外国人観光客を多く見掛けるが、しかし家電量販店や百貨店などにバブルをもたらした肝心の爆買いは円高と16年4月の中国当局による個人向け関税の引き上げによって、既に過去のものとなっている。そのあおりを受け空港型免税店も開店後まもなくして苦境に陥ったとニュースになったほど。実際、大阪ミナミにも空港型免税店の出店が予定されていたが、収益性が見込めないことから計画は中止されている。
そして今、免税店のオープンを果たした髙島屋だが勝算はあるのだろうか。髙島屋免税店SHILLA&ANAが計画を発表したのは昨年春のこと。当時は15年に訪日外国人観光客の買い物の消費額が14年の7146億円からわずか1年で1兆4539億円に倍増した頃。しかし、うたかたの夢、既に述べたとおり祭りは終わっている。
ところが、髙島屋サイドの見通しは決して悪くない。売り上げの目標額こそ計画時の150億円から80億円へ修正したが、これまでの訪日外国人の購買動向を見極め、「今買いたいものを厳選している」(免税店関係者)という。その結果が、化粧品の充実。なかでも「SK-Ⅱ」や「アルビオン」などの国産の化粧品を中心にデューティーフリー、タックスフリーを併せて展開し、ドラッグストア(マツモトキヨシ)も入っている。
興味深いのは、「ラグジュアリーブランドについては、タカシマヤタイムズスクエア全体での品揃えを考慮し、取り扱いしていない」(免税店関係者)とのこと。つまり、これまでのような高額商品のみの店構えではなく、デューティーフリー、タックスフリーの両方を押さえ、かつリーズナブルな商品を取りそろえることで幅広い層を取り込もうとしているのだ。
こうした利用しやすい、来店しやすい取り組みは、免税店開業前から髙島屋が進めている。例えば中国人には当たり前の「アリペイ」や「WechatPayment」といった電子マネー決済を昨年からはじめている。
ほかにも訪日前には中国オンライン旅行代理店の「Ctrip」を通じて髙島屋のキャンペーンや店舗情報を広め、入国後には携帯電話のネットワークがNTTドコモに変わったタイミングで髙島屋の割引クーポンが配信されるなど、他社と組むことによって集客力をあげている。
後は、大阪ミナミの大阪店、新宿店を中心に増え続ける訪日外国人のお客さんたちが売り上げを落としていってくれるのだ。髙島屋は、16年度の決算でも免税売上高を15年度の299億円から344億円にまで伸ばしており、17年度は免税店を加え450億円の目標を掲げる。
単価の低下を地力と客数で補う
リーズナブルな商品へ消費がシフトしたことは統計からも見て取れる。観光庁のデータをみると、16年の訪日外国人1人当たりの旅行支出は15万5869円。15年の17万6167円に比べ、11.5%も減少した。ショッピングツーリズムの中心的存在、中国人観光客に至っては前年比で18.4%の減少。購買力の低下が見て取れる。
一方で、日本百貨店協会が発表した今年3月の外国人観光客の売上高、来店動向を見ると化粧品、食料品など消耗品売上高は85億1千万円で、前年同月比で169.2%の伸びを示しており、商品についても化粧品が1位。中国人観光客の支出額は下がったとはいえ、それでもなお23万1504円もあり、消費を楽しむ情熱も意欲も健在であることがデータからも見えてくる。
こうした流れに合わせて、リーズナブルな商品展開で買い物熱をうまく取り組んでいる百貨店がある。同じ新宿にある京王百貨店がそうだ。京王百貨店の動きは早く、消耗品が免税になるタイミングでハイブランドの化粧品よりもブランド品ではない、いわゆるプチプラコスメを中心にした展開に変え、それでいま好調をキープしている。
とはいえ、資生堂などの国内ブランド品の前には購入の列ができるほどで、「グランドフロアの化粧品売り上げの約9割が中国本土のお客さまです」(広報)という言葉どおり、中国人観光客の化粧品購入が今の免税品市場を牽引していると見ている。
中国人観光客の消費が高額な商品から化粧品などのリーズナブルな消耗品に移ってきたことは、新宿にある髙島屋の免税店にとっても、京王百貨店にとっても有利となる。と、いうのも中国本土からの観光客は年間600万人を超えるため、都内さまざまなエリアに宿泊しているが、新宿エリアは中国人にとって昔から人気の宿泊地だからだ。こうした地の利も店内が賑わう追い風になっている一因と言える。ちなみに、なぜ人気なのかというと理由のひとつに富士山がある。
もともと、富士急行が新宿と富士吉田をバスで結んでおり新宿は富士山観光の拠点として知られていた。中国人観光客の富士山人気の高さもあって、新宿の人気につながっているのだ。さらに、昨年には「バスタ新宿」が完成し、バックパッカーのような旅慣れたインバウンド客まで集まるようになり、ホテルを取るのも難しくなったという話もよく耳にする。
爆買いが終り、百貨店苦境のニュースが流れ(国内市場の縮小が主な要因だが……)、まるで買い物需要も泡のように消えたように感じていたが、実はその裏でこれまでより単価が低くなったとはいえ、訪日客の増加によって十分にその果実を得ていたということだ。つまり、これまで50万円の高額商品を10人に売っていたものを、5万円だが継続して購入してくれる消耗品を80人に売るようになったという感じだ。
爆買いの15年、訪日外国人旅行者の買い物にかけた金額は1兆4539億円だった。しかし、昨年もじつは1兆4261億円あったのだ。このまま訪日客が順調に伸びれば、すぐに爆買いの頃の売り上げなど超えられる。
ボラティリティをどう抑えるか
単価の低下を訪日客数の増加と、売れ筋商品の展開で市場回復に成功したが、「化粧品による伸びは確かですが、やはり結局は昨年末から再び円安へと振れたことが消費拡大のいちばんの原因ではないでしょうか」(都内百貨店広報)といった冷静な声があるのも事実。今後もこれまで同様に為替や客数など需要の大きな波があることが予想される。
とはいえ、新たな施設は次から次へと誕生している。4月20日には、森ビル、Jフロント リテイリング、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートの4社共同で進めた「GINZA SIX」がオープン。間口約115メートル、奥行き100メートルの巨大な商業施設には国内外のハイエンドブランドが数多く入っているが、目を引くのは日本の伝統工芸品や和のテイストを意識したショップが数多く出店していること。それもそのはず、建物には観光バスの乗降所や観光案内所が併設されており、銀座の玄関口の機能を持っている。観光バスで銀座を訪れる訪日客の拠点として、また、和テイストな商品が揃っているのもインバウンド消費の舞台として期待されているからである。
年間売り上げ目標600億円の2割、約120億円をインバウンドから見込んでいるというが、銀座らしい高級感あるラインアップはリーズナブルな新たな流れとは全く逆をいく。これもまた為替次第で好調になったり、苦境に陥ったりとするのかもしれないが買い物先の選択肢を増やすことは重要だ。むしろ高級な銀座、リーズナブルな新宿といった街の色がより分かりやすく出てきたほうが、訪日客にとっては楽しみが増えるはずだ。
人口減少による消費市場縮小の日本で新たに現れた優良な消費者である訪日外国人観光客。今最も怖いのは、お隣韓国のように外国人観光客が急に来なくなることだ。
現在も北朝鮮問題など地政学リスクを抱えており、先行きは不透明。そういった意味では何より平和でいることが必要であるが、うまくいっている時期に、越境ECや国際的にも注目される大規模なバーゲンセールの開催など、新たな消費者を手放さない施策を行うことが重要なのではないだろうか。
20年のオリンピック時には、4千万人の訪日客が見込まれる。その時「買い物天国ニッポン」になっているかは、今、何をすべきかにかかっているのかもしれない。
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