成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。
石黒優氏プロフィール
WDI入社のキッカケと海外でのレストランオープンまで
WDIの面白さに惹かれる
イゲット 石黒さんがWDIに入社したキッカケは何だったのでしょうか。
石黒 学生の頃から新しくオープンした飲食店やバーに行くことが好きで、将来はエンターテインメント性が強く、海外嗜好が強いレストラン企業に努めたいと考えはじめ、就職活動中に出会ったのがWDIでした。
WDIの運営しているレストラン名はいくつか知っていましたが、WDIという社名は知りませんでした(笑)。当時の役員は皆ローマオリンピックに出場した慶応大学水球部のメンバー達で、国際感覚を持ち、ハードロックカフェやトニーローマといった海外からのブランドを展開していました。それで、「この会社は面白い!」と思い入社を希望したんです。
入社当時から海外での仕事を志望していて、入社2年後にグアムのカプリチョーザ2号店のオープニングスタッフとして出向する機会を得たのが、海外で働き始めたきっかけでした。
グアムとハワイでレストランオープンへ向けて
イゲット 海外ではどんな仕事をしてきたのですか。
石黒 2014年にグアムとハワイの担当になってから、ハワイにてレストランのオープンのプロジェクトを4つ受け持ちました。
2016年12月に、現在ヒルトンガーデンインワイキキの1階にファイヤーグリル、2017年11月にアペティート(クラフトピッツァ&ワインバー)、2017年3月にジェン(アラモアナセンターにある焼き肉食べ放題店)、2018年4月にロイヤルハワイアンセンター3階にティム・ホー・ワン(香港飲茶店)と、さまざまなレストランのオープンに携ってきました。
そしてグアム、サイパン、ハワイ、米国本土だけでなく、パラオ共和国、フィリピン共和国等米国以外でのアジア地域での出店に携わる機会もあり、昨年に拠点をグアムからハワイに移して仕事に励んでいます。
WDIのコンセプト、マネージメント、マーケティングの特徴
基本コンセプトは「人とのかかわり」
イゲット WDIのコンセプトは?
石黒 WDIの求めるレストランコンセプトはヒューマンビジネス、つまり人とのかかわりを大事にしています。料理がユニークで絶対的なクオリティーがあるか、ゲストをワクワクさせるようなエンターテイメント性があるかといったことも重要です。一時的な流行だけのコンセプトは避けています。現地でどのような客層、レストランのコンセプトが受け入れられるのか。常に基本的なコンセプトの軸を守りつつ、進化と変化を必要に応じて取り入れることも必要です。
バランスの取れたマネージメントと早めの周知によるマーケティング
イゲット WDIさんはマネージメント、マーケティングに力を入れていらっしゃる会社という印象です。マネージメント面で意識していることは?
石黒 マネージメントに関しては、現地における料理の品質・サービス・衛生面等、バランスの良い運営を心がけています。店によっては、現地で日本と同じオペレーションのクオリティーを保つことに苦労することもあります。
店舗マネージメントをバックアップするサポート体制も重要です。HRやアカウンティングの面からマネージメントをサポートし、現地のマネージメントがオペレーションに集中できる環境作りにも注力しています。
イゲット 日本の会社の場合、出店する時の見積り・工期の遅れや人件費の高さなど、いろんな誤差を考慮して予算を取りますが、お店を作ることに思いの外お金が掛かってしまい、オープン後マーケティングに手が回らないケースも多いかと思います。何か秘訣はありますか?
石黒 オープンする前からインスタグラムなどSNSのアカウント告知を行ったり、エージェント関連の雑誌で早めに出たりして、早い段階で周知しておくかが大事だと思います。
イゲット 何を見てお店に来られる方が多いのですか?
石黒 SNSに関していえば、米国人の方は圧倒的にイェルプですね。あとは、インスタグラムやブログのインフルエンサーにフォローされるケースもあります。「有吉の夏休み」というテレビ番組に1回出演した影響も凄く大きかったです。FIT(団体旅行やパッケージツアーを利用することなく個人で海外旅行に行くこと)の方も結構いらっしゃいますね。
ハワイでビジネスを行う際の注意点とは
ハラスメント対策は必須
イゲット 大きなレストランを日本の会社が経営する場合、人種の問題や多様性に慣れていないので働き手のローカル側が戸惑う部分もあるようですが、レギュレーションやルール、コンセプトやトレーニング、方向性の指導などはどのように行っているのでしょうか。
石黒 必ず採用前には、ハラスメントのことなどを盛り込んだポリシーブックを読んでいただいてサインを貰います。あとは年に数回、ハラスメント関連のセミナーをしています。
昔、日本人はよく「何やってるんだよ」ポン!って軽く触ったり、女性の方に「可愛いね」とかやってしまいます。言葉が流暢なら良いんですけど、ぶっきらぼうで聞く方からしてみるとものすごく失礼な英語に聞こえることもあります。
なので、その辺もちゃんと対応できる人、HR部門が不可欠です。そうしないと逆に従業員の方から、ハラスメントだ、ディスクリミネーションだとすぐクレームや訴訟といった声が上がります。米国では弁護士と関わることが日本よりも多いのではないかと思いますね。
スタッフの定着に必要なこと
イゲット スタッフが定着するために必要なことは何でしょうか。
石黒 レストランのコンセプトに共感して貰うことです。
イゲット アメリカ人のローカルの働き手の気持ちを、上手に扱うのも成功する秘訣なんでしょうね。
石黒 日本国内でも同様に大変ですが、ハワイでは3%を切っている失業率の低さが大きな問題です。ハワイでのリビングコストは高いうえに、低い失業率から時給の相場が高騰しています。NYでも特にキッチンの従業員の採用が難しく、雇用側にとって苦しい状況なんです。現在NYでは最低賃金が15ドルとなっております。
出向社員を日本から駐在させてマネージメントの安定を図ったりもしておりますが、トランプ政権になってからビザの取得が難しくなりました。優秀な人材の確保は共通の悩みだと思います。
ハワイで起業する日本人が驚く意外な問題点
イゲット 海外の飲食業について、日本との違いや問題点としてどんなことが挙げられますか。
石黒 例えば様々な修繕を呼びたい場合は日本に比べて相当高いですし、皆さん多忙です。設備が壊れても、小さい修理だとなかなか来てくれません。
イゲット よく壊れますしね。
石黒 空調関係の故障なども多いですね。
イゲット この島には道具が無いから、例えばピザの窯が壊れたらもう動かないですよね。
石黒 島に部品が無い場合は取り寄せですね。航空便で持って来るとか。メンテナンスに関しては苦労が多いです。
場所によっては家賃がものすごく高いのも問題です。売れれば売れるほどパーセンテージで家賃を持って行かれて、もっと家賃を払わなきゃいけない。最低限払う家賃も高いので、思った以上に売れないと苦しくなります。
ハワイでお店を開けたいという夢をお持ちの日本人も多いかと思いますが、実際には、最初の工事費用でビックリされます。ハワイの建築費用の高さは世界のトップ5に入ります。
イゲット 工事費用はどのぐらい掛かるのですか?
石黒 日本と比べて倍以上ですね。12、3年前は大体、1スクエアフィートあたり200ドルから250ドルぐらいの相場だったんですが、今年は650ドルぐらいかかります。建築工事に関しては、価格だけでなく期日に対する責任感の無さに驚く方も多いのではないでしょうか。
石黒優氏とWDIの今後の展望
イゲット 石黒さんのビジネスマンとしての信条などを教えていただけますか?
石黒 ネットワークをどんどん広げていきたいですね。
イゲット 海外で人脈を広げるための秘訣は?
石黒 極力人に会うようにしています。世界中の人たちとのネットワークづくりと交流を続けたいです。知り合ったかたから「こういうコンセプトあるんですけど、日本でどうですか?」といった、オファーをいただくケースが多いんです。中には不動産屋さんを通じて繋げていただいたりとか。
イゲット スポーツで現地の人との親睦を進めたりもしているのですか。
石黒 皆さんゴルフやトライアスロンをされているようなので、そっちの方でも広げていきたいですね。日本で勤務していた頃には携わることのなかった、さまざまな企業や業界の人たちと出会い、一緒に仕事をする機会があること、そして海外でネットワークを構築できるのは非常に面白い点です。
イゲット 今後の展開について教えてください。
石黒 ハワイでは現在7店舗ある既存店の運営をしっかりと安定させていくと同時に、米国本土では飲茶専門店ティム・ホー・ワンの出店を続けていきます。現在NYには2店舗あり、今年度は5月にカリフォルニア、アーバイン店をオープンしました。9月にはラスベガス店、そしてテキサス州への出店をも予定しています。
さらに、カナダ、イギリスへの展開も予定しており、これからも素晴らしいレストランコンセプトを追求していきたいと思っています。
(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。
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