「3代で財産が無くなる」を防げ! 日本一富裕層に詳しい税理士が教える相続税対策の基礎
事業に成功して富裕層となった企業経営者たちにとって、資産運用と防衛は大きな関心事だ。本シリーズでは、景気変動や税制改正などに直面しても、着実に資産を増やして繁栄を継続させるためのノウハウを、「日本一富裕層に詳しい税理士」と呼ばれる芦田敏之氏(税理士法人ネイチャー代表税理士)が伝授していく。【AD】
芦田敏之氏プロフィール
相続税負担に備えて現金を手元に残すには?
日本は相続税が高いので、事業承継の際に対策を何もしなければ、税負担に耐えられなくなる恐れがあります。現金がどんどん残っていくような高収益企業なら良いのですが、そうでない場合は、いざ相続税を払う時に現金が手元にない状態になってしまいます。
現金を確保する方法は大きく2つあり、1つは会社自体に残る現金を増やしていくこと。それはつまり経営を良くするということなので、たとえば何十年もかかって作り上げたビジネスモデルを急に変えるのは。なかなか難しいでしょう。
もう1つは、保険などを活用して、何かあったときのためのお金を確保しておく方法です。保険の良いところは、手元にお金がなくても借り入れのレバレッジが効くところなので、活用できるならするべきです。ただ、保険に関しては、会社の現金を個人に還流させることができた時代もありましたが、今では規制によって使えなくなったものもあるので注意が必要です。
相続対策で不動産購入する際に注意すべきポイント
そもそも相続税負担が大きくならないようにするには、ご自身が保有する財産をできるだけ相続評価額が低いものに変えておく必要があります。現金ではなく、不動産や太陽光発電、コインランドリーといった実物資産であれば、基本的に評価が下がります。
仮に100億円の資産を現金で保有していれば、55億円もの相続税を支払わなければなりませんが、資産の評価を10億円にしておけば5億5千万円で済みます。この差は非常に大きいものとなります。
相続税対策で不動産を購入する意義は、時価に比べて評価額が低い物件を保有することで相続評価額を圧縮することなので、この2つがほぼリンクしてしまうような田舎の土地は避けたほうが良いでしょう。
ただ都心の物件も、圧縮が効く一方で運用利回りが悪いという点があるので、借り入れをフルファイナンスにしてしまうと月々のキャッシュフローが赤字になってしまうことがあるので注意が必要です。相続税は圧縮できても月々のキャッシュフローが結局赤字になってしまうと、本業の儲けなどで補わなければならなくなります。ですから、都心に不動産を持つほうが得だとも一概には言えないのです。
そうした場合は、投資適格ギリギリではあるものの、収益性は高いトリプルBと呼ばれる不動産を保有するのも1つの手です。首都圏であれば、たとえば川崎や船橋といった都心に比べると場所は悪くても、ターミナル駅近くで集客しやすい物件がこれに当てはまります。
また、不動産以外にも実物資産を中心に、さまざまな資産を組み入れていくことで、相続評価額を圧縮することが可能です。
相続税は潜在的な負債であると意識してほしい
これまで述べたのはバランスシート(BS)に着目して純資産を減らす方法ですが、たとえば損益計算書(PL)に着目して、減価償却できる設備の購入などを通じて本業の利益を下げていくという方法もあります。
歴史の長い会社の場合、たとえば年間1億円の利益を出して、3千万円を法人税で払った残りの7千万円を20年間貯めていくと14億円の純資産ができます。14億円もの相続評価を圧縮する不動産を買うとなると、30億円くらいのものを買わなければなりません。しかし、会社の利益が年間1億円程度であれば、早めに償却できる2億円程度の設備を購入したほうが、安上がりで済むかもしれません。レバレッジを効かせて9割を借り入れで賄えば、2千万円程度の投資で事足ります。
普段は質素な生活をして14億円貯めてももちろん構わないのですが、その半分は潜在的な負債である相続税が掛かるということを頭に置いておく必要があります。対策を一切しなければ、一次相続、二次相続と進むにつれ、現在の純資産の8割はなくなってしまうことになります。
日本には長寿企業が多いと言われていますが、そうした企業は単に業績が優れているだけでなく、何らかの相続対策をしっかりやっているものです。
自社の競争力を長期的に維持するためには?
創業者が相続税対策を何もせず事業承継を行った会社の2代目社長、3代目社長が相談に来られることがありますが、相続税を55%引かれて純資産が45%に減っているか、90%残しているかでは、その後の競争力が大きく変わってしまいます。
前回の記事でも述べた通り、欧米企業の経営者はタックスマネジメントを重要な仕事の1つとして認識しています。彼らが税金を合法的に下げながら、次世代に強い企業を渡していくのがタスクだと捉えている一方、日本企業の経営者は経費などにはうるさくても税負担には無頓着な人が多いのです。
しかし、それでは時が経つにつれ、ライバル企業に対する競争力も国際競争力も落ちていってしまうのは避けられません。経営者の方々は、この点についてもっと敏感になるべきでしょう。