経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「〝普通の感覚〟が残っているのが私の政治家としての強み」―石川香織(衆議院議員)

新型コロナへの政権対応で抜け落ちてきたところがいくつもある。「農業」も取り残された分野の一つだ。立憲民主党の次代の女性議員のエースとして注目されているのが石川香織衆議院議員。選挙区の北海道は日本屈指の農業・畜産業の拠点だが、新型コロナ対策が届かずこの分野は苦悩している。石川氏は日本の農業政策の根本的な誤りを指摘し、予算委員会でも度々質問に立つ。農業、そして再建に向かう立憲民主党などについて聞いた。(『経済界』2022年3月号より加筆・転載)

石川香織氏プロフィール

石川香織
(いしかわ・かおり)1984年生まれ。2007年聖心女子大学文学部哲学科卒業後、日本BS放送に入社し13年までアナウンサーとして勤務。11年10月、衆議院議員(当時)の石川知裕氏と結婚し帯広に移住。17年第48回衆議院選挙で北海道11区から出馬し初当選。21年49回衆議院選挙で立憲民主党公認で立候補し再選。

新体制下の立憲民主で党内の要職を3つ兼務

―― 立憲民主党は総選挙後新体制がスタートしたが。

石川 衆議院選挙が終わって、何かを変えないといけないとみんな感じていました。その中での代表選。どういう人であれば変わるのか。例えば若い人がいいとか、女性がいいとか。4人も出て混戦になりましたが多様性を大事にしている党なので選択肢を示せたのは良かったし、選ばれた泉健太代表もご自身が若いし、経験もあるし、若手からも信頼がある。人事でも新しい人が前に出ていくチャンスが出てきました。実は、私も青年局長、国対副委員長、副幹事長のポジションが回ってきました。

―― まだ2回生で要職を3つもというのは異例ではないか?

石川 私も議員になる前は、新しく開局したBSテレビといういわばベンチャーにいました。立憲民主党もベンチャー。自民党は数十年続く大企業なので、すぐには出世できない。だけどベンチャーのいいところは、1期生でも2期生でも本会議で登壇できるし、私も予算委員会で2回も質問させてもらえた。そういうところが立憲民主党の一番の良さです。そういう姿勢が人事体制に現れているのかなと。

―― それにしても3つは多い。

石川 3つやってる人って党内には見当たらないのでどうしようかと(笑)。でも国対にいるとすべての流れが分かります。私は予算委員会のメンバーでもあるので連動していることが多く、最先端にいる感じがします。国対は拘束時間も長いし地味ではあるんですが、他党との折衝や国会運営を把握できるようになるので頑張りたいと思います。青年局長も全国にたくさんいる地方議員のまとめ役ですから、連携を図りたい。また、今回の衆議院選挙でも落選した人がたくさんいるので、そういう人を地方の選挙区レベルでどうするか。国対にしても青年局長にしても、国会の中と外の連携で、やりがいがある仕事です。

―― 総選挙では野党共闘、特に共産党との連携に批判が出た。

石川 野党共闘をどんな形にしていくかは、泉新代表がしっかり対峙するテーマです。小選挙区で野党統一候補を実現して、一対一の構図を作ったことにより小選挙区で議席が増えたので、間違いなく効果はあったと思います。一方で共産党と政策が一致しないところもある。立憲は全く違う党として政権を獲ることを目指しますが、世間には立憲と共産が一体に見えている。しかし、かつては自社さ政権というものがあったし、今は自公政権ですが、いずれも全部の政策を一致させてなんかいません。それでも政権が成り立ったのは、一体になっているイメージをうまく論理立てして作っているからです。私たちもこれをどう説明していくか、早急に考えなければと思います。

新自由主義に傾倒した農業政策の失敗とは

―― ご自身の選挙区は北海道。農業はライフワークでもある。新型コロナはどんな影を落としたか。

石川 一次産業にも新型コロナの影響は確実にあります。ただ、ほかの業界と違うのは影響が遅れて出てくるということです。例えば、年末には生乳が余って、年末年始には産業廃棄物として牛乳が捨てられる可能性が出たことで、ようやくこの問題がクローズアップされました。

―― 大臣や首長が急に牛乳を飲むパフォーマンスを見せたりした。

石川 この問題の本質的な部分は、農業について政府が大規模化やスマート化など新自由主義の考え方の中で、どんどん稼ぐ農業ばかりをやってきた点にあります。畜産クラスター事業というのがあって、大きな畜舎を立てると補助金がもらえる。それに乗ってみんなすごい額を投資しているんです。北海道も一つの牧場がすごく大きいので、何十億円という投資をして、償還のスケジュールも立ててやっています。そこへ新型コロナが来た。すると政府は、今度は生産抑制という言い方で牛乳を抑えてくださいと。でも牛の頭数を減らすわけにはいきません。牛のお腹には子牛が入っていて、牛乳も絞られる。途中で止めることができなくて、行き場を失った牛乳がどんどん出てきたんです。

―― そもそもの農業政策に問題があったと。

石川 農業を産業という切り口で進めてきたからだと思います。稼ぐのもいいんですが、農業は助け合いや支え合いで成り立っているものが多い。だから急に人間の都合で増やせ、減らせと言われてもできない。一次産業に関する政策はちょっと別の角度から見ていかないといけません。

―― 新型コロナに対して政府による農業分野での対策はどうだったか。

石川 例えば牛乳は飲むものと加工用に分けます。まず新型コロナで飲食店が営業できず、学校も休校になって飲む牛乳が余った。そこでなるべく賞味期限を伸ばすために加工に回しました。チーズやバター、また脱脂粉乳だとビスケットやパンに混ぜられるので在庫としては1年ぐらい長くなります。しばらくはそうやって頑張ってきましたが、そのうち全然はけなくなって最初の在庫が1年半を過ぎました。これもこのままだと捨てられてしまいます。

―― 政府はどうすべきだったか。

石川 脱脂粉乳は水の衛生問題もあるけど、パンやビスケットに加工して食料支援の枠組みの中に入れられると私は思っているのですが、向こうからリクエストがないと送れないルールになっています。ならば、日本政府が率先してルールを改正していけばいい。私の選挙区は全国の生乳生産の12%を占めています。国は少なくとも牛乳について何もしてこなかったと思います。

―― 新型コロナが落ち着いてきても農業分野の厳しさはまだ続く?

石川 国が大規模化ばかり打ち出して、豪華な畜舎を建てたがゆえに償還が間に合わないなど、頑張った人が抑制させられています。生産者とホクレンの拠出で在庫対策などを行っていますが、もっと政府は積極的に支援すべきです。岸田総理の所信表明では、ただ『スマート農業』の一言で済ませている。金子農水大臣も、臨時国会の答弁は完全にずれていました。私は予算委員会のメンバーですが、農業に関する問題はかなり専門性が高い話なので、なるべく多くの国民のみなさんに分かっていただける視点で議論していきたい。

石川香織
新自由主義的な農業政策の誤りを指摘する石川議員

地方の目線に立って一次産業の問題を伝えたい

―― 食とエネルギーは「安全保障」という考え方が必要だと思う。

石川 食料がなければ生きていけません。なのに、日本の食料自給率は37%で、輸入に頼り過ぎているリスクが相当あります。味噌やパンも外国の大豆や小麦を使っています。また、私がとてもおかしいと思うのは食品ロスです。毎日若い困窮者が食料支援の列に並んだりしているのに、食べられる物を捨てています。

―― 安全保障という観点から自給率を上げ、税金をかけてでも国内生産を守る必要があるのではないか。

石川 TPPやEPAによる自由貿易の影響は確実に地方に出ています。乳製品ではヨーロッパから安いチーズが入ってきています。

 私の選挙区は砂糖の原料の甜菜糖の主産地です。北海道には製糖工場が8つあるんですが、そのうちのひとつが2023年で閉鎖します。日本は砂糖の消費が年間2・5万トンも減っている。確かに糖質制限や健康ブームがありますが、与党である自民党の政策がずっと間違ってきたという背景があります。

 私が初当選した17年には、多くの自民党議員がTPPに反対していましたが、選挙が終わってあっさり賛成した。農業分野では海外からの輸入を広げる一方で、それによって影響が出る国内加工業の工場合理化を進めました。小泉進次郎さんが農水部会長のときですね。そのときに製糖工場にも合理化再編の予算を出しましたが、早くも工場が一つなくなります。

―― 政治行政の歴史を見ると、合理化は存続のためでなく廃棄していくための第一段階になっている。

石川 どこまでがコロナの影響で、どこまでが日本人の食生活の変化の影響かという分析も必要ですが、間違いなく自民党が推し進めた新自由主義的政策のしわ寄せが地方にきています。農業や畜産業は結局、加工場がないと地元に全く恩恵がありません。大事な砦の加工場を再編して合理化させることはやってはいけないなのに、それをやってきたのが自民党政権です。

―― 都市部の人々には一次産業は身近ではない部分がある。

石川 製糖工場が一つなくなるというのは、その地域にどんなに大変なことなのか。関連の場所で働く人々も含めれば、関係人口は何千人にもなりますし、町には固定資産税も入らなくなるので、すごい影響がある。そういうことを国民のみなさんに分かってもらうには、地方の目線に立たないと伝わりません。

足りない部分は現場でひたすら学ぶ

―― 立憲民主党の看板にはジェンダー平等もあるが。

石川 執行役員の半分が女性です。立憲だけではなく各党が女性議員の増加を掲げていますが、長くできる環境を党や周りが配慮していかないと、女性の能力が発揮できないまま終わってしまいます。役割を与えても、家庭とのバランスやライフワークバランスがうまくいかずにパンクしてしまう可能性もある。女性を前線に送るのはいいけど、例えば子どもがいれば党で保育士を抱えるとか、そうした環境をセットで作っていくことが党にも国会にも必要だと思っています。

―― 東京から北海道へと嫁いで、そして地盤のない中で勝ち上がってきた。どんな政治を目指すか。

石川 私が一番誇れるのは政治経験が全くないまま国会に来たことです。当選した直後はそれが弱みだと思っていました。ただ、国会は二世三世が多過ぎます。恵まれた環境にあって、あまりにも普通の感覚と懸け離れた人が多い。そういう人が一般庶民の感覚に立って政策を立てられるのかと。政治家としての私らしさというのは、まだ普通の感覚が残っていることだと気付きました。

―― 永田町の常識は世間の非常識と言われる。

石川 足りないところは現場にいって勉強するしかないですね。とにかく一緒に搾乳したり、漁師の家に泊まったり、芋の選別をしたりして、その後にご飯を一緒に食べてお酒を飲んで話したりもしてきました。

 20年の9月末に赤潮が発生したときは、報道される前に漁師さんから電話をいただいて次の日の朝に一番最初に現場に行きました。自民党が動いたのは10日後です。最近になって「一番先に来てくれたね」と言われるようになってきました。私の政治家としての唯一の強みは、現場の人と同じ目線に立てる感覚や気持ち、その蓄えだったのかなと思います。それを国会質疑の中でも散りばめていくことを心掛けています。

石川氏は、小沢一郎氏の陸山会事件で逮捕された石川知裕元衆議院議員と「間違った権力なんかに絶対負けない」という思いで有罪判決の次の日に結婚を決め、そして知裕氏の思いを継いで出馬。選挙区で戦ってきた相手は故中川昭一元財務相の妻中川郁子氏という強敵だが2度破った。「肝が据わっている。北海道に骨を埋める覚悟がある」(地元経済団体幹部)。「香織議員は最後までとことん付き合って話を聞く」(地元の農業団体幹部)。例のない3つの要職兼務が、新体制でのその期待の象徴とも言える。(鈴木哲夫)