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【百貨店業界】若年富裕層に活況の外商 コロナ後のニーズに向き合う 大丸松坂屋百貨店 加藤俊樹

加藤俊樹・大丸松坂屋

2010年に大丸と松坂屋が合併して誕生した大丸松坂屋百貨店。現在、全国で15店舗を展開し、きめ細やかな接客で、特にシニア層や外国人観光客からの信頼を獲得してきた。20年に世界的に感染が拡大したコロナウイルスは、インバウンドを完全にストップさせ、国内消費にも大きくブレーキをかけた。大丸松坂屋百貨店は、この危機にどう立ち向かうのか。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2022年8月号より)

加藤俊樹・大丸松坂屋
加藤俊樹 大丸松坂屋百貨店常務 営業本部長
かとう・としき 1983年、松坂屋に入社、大丸と統合後は主にMD畑を歩み、静岡店長、MD統括部長を経て2013年に松坂屋名古屋店長就任、17年同社取締役兼常務執行役員就任。百貨店事業全般を取り仕切る。

百貨店で買いたいものは何か消費動向の変化が加速した

―― 百貨店はコロナの影響が特に大きかったのではないでしょうか。

加藤 私は1983年に松坂屋に入社して以来、この業界に携わってきました。しかし、ここまでの衝撃は前例がありません。百貨店は、お客さまを集めて店頭ににぎわいを生み出し、いわば〝密〟を作り出すことで商売をしてきました。それがコロナになり、人を集めること自体が難しくなりました。これまで経験してきた一般的な不景気とは意味合いが異なります。

 今年の4月、5月時点の大丸松坂屋百貨店全体の入店者数は、コロナ前と比較して3割弱は減ったままです。また、コロナ前はインバウンド由来の売り上げが全社の売上高に対して約10%ありましたが、そちらも戻っていません。特に大丸心斎橋店のような外国人観光客から人気のエリアにある店舗では、売り上げの30%近くがインバウンド関連でしたので、より大きな影響を受けています。

 入店者数の減少、インバウンド消費の消失を加味すると、全体の売上高で2割程ダメージを受けました。

―― 外出できずに消費を我慢していた人も多いと思いますが、リベンジ消費への期待はいかがでしょうか。

加藤 なかなか今すぐにというのは現実的ではないと考えています。いずれ消費は盛り返すと思いますが、19年にお買い上げいただいていたお客さますべてが、元通りに戻ってくるのは難しいかもしれません。それは、コロナを契機として消費の動向に変化が出ているからです。

 コロナは、外出が難しくなったお客さまがあえて百貨店で買うべき商品と、百貨店以外で買っても問題のない商品を、改めて見直すきっかけになったように感じます。

 百貨店以外で購入する商品の傾向としては、日用使いする調味料や生活必需品など「実用性」が強い商品です。これらはネット等で情報収集すれば安く手軽に入手することが可能です。実際にこのカテゴリーの商品は著しく売り上げが悪化しました。

 一方で、われわれが強く求められているのは、資産価値が高い商品や、特別な背景、こだわりのある「意味性」の強い商品です。

 こうした消費傾向は、外商の売り上げに分かりやすく表れており、そこで人気の商品カテゴリーは、海外ブランドに代表されるラグジュアリー製品、高級輸入時計、そして急伸している現代アートです。

 当社は、全体の売り上げに対して約25%が外商によるものです。コロナの感染が拡大した20年は、外商向けの催事が行えず、売り上げは減少しました。しかし、21年以降は完全アポイント制などの対策を行ったうえで、ホテル等で催事を行ってきました。すると、コロナ前と比較して集客数は落ちましたが、お買い上げいただく割合や、買上単価は上昇しました。結果的に、21年後半以降の外商売り上げはコロナ前の水準を上回り、今でも伸び続けています。

 また、お客さまの層にも変化があります。コロナ以前の外商は主にシニア層に支えられていました。ところが、この2年間で20代、30代、40代のお客さまが増えています。売上ベースでも、シニア層の売り上げは減少しましたが、新たな客層由来の売り上げが外商全体をけん引しています。

価値や魅力を伝えるためにあらゆる方法を模索する

―― 今後、どのように消費を盛り上げていきますか。

加藤 これまでもデジタル化の推進は課題でしたが、コロナ前は多くのお客さまに実際の店舗に足を運んでいただけていたこともあり、リアルのコミュニケーションを優先してきたのが実情です。それがコロナによって難しくなりました。これを契機として今こそデジタル化を進めなければなりません。

 その一つのきっかけとして、スマホで使える大丸松坂屋アプリにも力を入れてきました。会員数は19年比で約2倍になり、140万人を超えています。これまで封書でお送りしていたDMをアプリ経由にすることで開封率などのチェックが可能になり、お客さまの興味や関心を詳細に把握することができます。こうしたスマホ起点のサービスが、今後の新たな購買行動につながっていくと考えています。

 しかし、われわれがデジタルを活用するといっても、アマゾンさんや楽天さんのように品揃えで競っても、そこに勝機を見いだすのは現実的な戦略ではありません。目指すべき姿は、単なるネット販売ではなく、オンライン上でありながらも、人を通じてわれわれが目利きをした商品の持つ価値やストーリーを、より深くお客さまに届ける活用法です。

 そのために、オンライン環境を整備しZoom等のツールを使ったり、当社のサイト上で写真ではなく動画を使って訴求したりと、新たな取り組みを行ってきました。また、売場フロアの片隅に、商談やSNSによる情報発信に活用できるオンライン用のスペースを設けている店舗も増えています。

―― 人口減少も相まって、特に地方の店舗の運営は厳しそうです。

加藤 先ほど申したように、実用性商品を求めて百貨店に来る方は減っています。しかしながら、大都市と比べていわゆる富裕層のお客さまが相対的に少ない地方で、ラグジュアリーブランドやこだわりの食品など、意味性商品ばかりを強化するのは、店舗運営上得策ではありません。

 そこで、何か別の方法で百貨店に来店したくなる動機を喚起する必要があると考え、4月27日にリニューアルオープンした松坂屋静岡店では、百貨店として初の都市型水族館を導入しました。これまでにない仕掛けが生み出す体験を幅広い層のお客さまに楽しんでいただいています。

 また、購買体験にも工夫を施しています。例えばファッション関係のショップでは、店頭で色味やサイズを確認し、実際の商品は倉庫からご自宅に配送するようなやり方も仕掛けています。

 このようにお客さまの変化するニーズや、店舗があるエリアの特性に合わせて、さまざまな取り組みを進めているところです。しかし、コロナを通じて改めて気が付いたのは、店頭販売であれ、オンラインであれ、われわれの商売は常に人が前面に出てお客さまに価値や意味をお伝えすることが軸だということです。これからも、お客さまとのつながりを大切に、価値ある商品を届けていきたいと思います。