経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

【テーマパーク業界】アフターコロナに向け常識にとらわれない新たな楽しみ方を

アトラクションの搭乗を待つ長い列、歓声を上げて楽しむショー。当たり前だった楽しみ方をコロナ禍で制限されたテーマパークが、夏に向けて再生を図っている。生き残る術はあるのか。アフターコロナのテーマパークのあり方を探る。文=小林千華(雑誌『経済界』2022年8月号より)

コロナ禍の特殊な環境 チャンスに転換

 新型コロナによる行動制限のかからない、3年ぶりのゴールデンウイーク。多くの人々が「やっと遊びに行ける」と沸き立った。これまで苦境に立たされてきた観光事業者にとっても、この大型連休が集客のビッグチャンスとみられた。

 東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)を運営するオリエンタルランドは、4月27日、2022年3月期決算を発表した。コロナ禍で休止していたイベントやプログラムを順次再開し、感染拡大防止ガイドラインの範囲内で入場制限を緩和したことにより、テーマパーク事業の売上高は前期比で61・6%増。営業・経常利益共に黒字に転換した。入園者数は前期の756万人から1205万人に増加。東京ディズニーシー開園20周年関連商品の販売や、パーク内店舗の営業再開による喫食機会の戻りも影響し、ゲスト一人あたりの売上高も増加した。今期は行動制限がなくなったために、さらなる入園者数増が予想される。

 ところが、吉田謙次社長は同日、24年中期経営計画発表の記者会見でこう語った。

 「ゲストのパーク体験の質を向上させるため、1日あたりの入園者数の上限をコロナ禍前より引き下げます」

 この2年間、入園者数が制限された特殊な環境を逆手に取り、以前から問題視されてきたアトラクションの待ち時間の長さや、入園者数が多い日に合わせて従業員を雇用する必要があるなどの課題を解決するための施策を実施してきたという同社。

 「入園者数が大幅に制限される中、ゲストの皆さまが自由に使える時間が増え、アトラクション体験やエンターテインメントの鑑賞、商品の購入、飲食などが効果的に働いた。その結果、パークの体験価値が非常に上がった」と吉田社長は語る。感染拡大状況に関係なく、入園者数の上限をコロナ禍前より下げることで、労働人口減などの今後の日本社会に予想されるリスクにも対応する考えを示した。

 東京ディズニーシーは、23年に新エリア「ファンタジースプリングス」のオープンを控える。今後さらなる入園者数増も見込める中で、コロナ禍を通して得た気づきをあえて経営に生かしていく姿勢だ。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市此花区)は今年、アニメを中心とした日本発エンターテインメントをさまざまな形で体感できるイベント「ユニバーサル・クールジャパン」を2年ぶりに再開した。コロナ禍前は、訪日外国人旅行者から絶大な人気を誇ったこの企画だが、海外からの観光客が激減した今、自ら歩いて体験するVRアトラクションなど、国内のゲストに自国の文化の魅力を再認識してもらうための工夫を凝らしている。

 さらに、コロナ禍で休止していたパレードも、今年から再開が予定されている。昨年提携を発表したポケモンや、新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のオープン以降、同パークのメインキャラクターに加わったマリオが登場する「NO LIMIT! パレード」は、今秋オープンを目指し準備中だ。

 近年、数々の日本発エンタメを武器に企画を展開する同パーク。3年後には大阪・関西万博を控え、日本を代表するテーマパークとしての魅力を打ち出していく。

新たな価値創出のため迫られる変化とは

 サンリオピューロランド(東京都多摩市)は、この夏、一層の客足の戻りに期待し、感染拡大防止のガイドラインを守りながら遊べる企画を盛り込んだシーズンイベント「夏ぴゅーろ~あの夏をもう一度~」を発表。キャラクターがスマートフォンの画面上で現実世界に重なって表示される「AR技術」を活用したゲームや、プライベートな空間で、ゲストが自分たちだけで記念写真を撮影できる「セルフ写真館」など、密を避けながらパークでの思い出を残せるさまざまな仕掛けが施されている。同パークを運営するサンリオエンターテイメントの広報担当者はこう語る。

 「今までは、たくさんのお客さまにご来場の上楽しんでいただくことをメインとしておりましたが、ご来場いただかなくても楽しめるようなオンラインのイベントや、営業時間外のスペシャルショーなど、密にならずに体験していただけるコンテンツの開発をいたしました」

 既に、20年8月には公式YouTubeチャンネル「SANRIO PUROLAND CHANNEL」を開設。キャラクターのオリジナルコンテンツや、ショーの振り付け動画をシェアし、パークに来られる人も来られない人も楽しめる場を提供している。

 また、この夏さらなる盛り上がりが予想されるのが、富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)だ。富士山のふもとというロケーションと、その眺望を生かした数々の絶叫アトラクションで人気を博する同パークは、21年7月、地上55メートルの展望デッキを備えた「FUJIYAMAタワー」をオープン。さらに22年夏には、その展望デッキから地上まで一気に滑り降りるチューブ型スライダー「FUJIYAMAスライダー」のオープンを予定している。

 新型コロナにより、大変革を迫られたテーマパーク。ショーに出てくる演者とのふれあいや、パーク内での食べ歩きなど、これまで醍醐味であった行動が制限される中、従来通りの楽しみ方にとらわれない斬新な施策が必要だ。これまで直接来園することが大前提だったテーマパークの常識を覆し、現地へ行くよりも気軽に体験できるオンラインイベントの導入で、新たな顧客層の開拓に成功した施設も多く存在する。「混雑」や「行列」が代名詞であったテーマパークのこれまでにないスタイルとして今注目されるのが、22年11月開業予定のジブリパーク(愛知県長久手市)だ。愛・地球博記念公園内にスタジオジブリの世界を表現した「公園」と説明される同パーク。大きな乗り物やアトラクションはなく、森や道をそのまま生かした施設だ。自然を楽しみながら、のんびりと過ごせる様式も今後浸透していくかもしれない。

 パンデミックの終わりが見えつつあるこの夏、アフターコロナでの新しい楽しみ方を打ち出せるかどうかに、テーマパークの今後の命運が懸かっている。