小宮山氏は、縦型組織の論理でイノベーションの可能性をスポイルしてはならないと強調する。日本の大企業は無意味な慣習の是正を徹底し、メンバー個人が能力を最大限発揮できる環境を整えるべきだという。(雑誌『経済界』2024年12月号「総力特集 強い組織の流儀」より)
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小宮山 宏 三菱総合研究所 理事長のプロフィール
「私の専門の熱力学で例えれば、悪い組織は静止気体に似ている。一つの分子は秒速400mで動き回っている。しかし、多くの分子がぶつかり合うので全体としてはびくとも動かない。この『内部摩擦』が激しい組織が日本の大企業の悪い例です。個人は一所懸命やっているはずなのに生産性が高まっていない。新規事業部ですら稟議書や不必要な資料を作成するのにリソースを割く現実がある」(小宮山氏)
そして理屈や机上の組織論だけで強い組織を築くのは不可能だと小宮山氏はいう。現場でのフィジカルな経験を通した研鑽の仕組みが肝となるのだ。
「化学産業では特に顕著でしたが、高度経済成長期は新規建設でとにかく現場に駆り出されたので実践知の積み重ねが自然と行われていました。社会が成熟してくるにつれて現場で最新技術に触れる機会が減り、『耳学問』が主流化したのです。これでは面白くないし、生産性だって上がるわけがない」
全ての人がベンチャー精神を持つために、教育のあり方を見直すべきだと小宮山氏は熱を込める。
「平均的な義務を果たすだけの定型的な人を育てる時代は終わりました。とにかく若くから責任ある仕事を任せて経験を積ませる方向に特化していくべきです。行動を促し、本当の意味での人間の成長と発展を後押しすることが求められます」