2024年は首相交代、日経平均株価史上初の4万円台到達など、政治、経済共に激動の1年だった。来る25年も大阪・関西万博など、一大イベントが控えている。経済成長を止めないために、押さえておきたい24年の出来事、25年に予定される出来事を見ていこう。文=小林千華(雑誌『経済界』2025年2月号「2025年を読み解くカギ」特集より)
経済は伸びた24年。首相交代で成長続くか
2025年の干支は「乙巳(きのと・み)」。十干の「乙」は木の要素を持ち、草木が広がって伸びる様子を、十二支の「巳」は脱皮する蛇のように再生を表す。合わせると、25年は「再生と変化」の1年なのだという。
再生といえば、24年も大活躍を遂げた大谷翔平選手の「二刀流」が、いよいよ来季戻ってくる。23年9月に2度目となる肘の手術を受け、打者に専念した24年。投手としてのリハビリを受けながらの出場だったにもかかわらず、「50-50」という大リーグ史上初の快挙を成し遂げた。シーズン中か否かにかかわらず、この1年間、メディアで大谷選手の顔を見ない日はなかったと言ってもいいだろう。
また、パリオリンピック・パラリンピックでも、日本選手団が素晴らしい活躍を見せてくれた。オリンピックでの金メダル数は20個、メダル総数は45個となり、海外大会での獲得数としては最多を更新。24年も、スポーツが日本にもたらしてくれた光は大きかった。
そうした盛り上がりを反映してかせずか、24年は日本経済も成長傾向にあった。2月には日経平均株価が市場最高値を更新。3月4日には初の4万円台に達した。7-9月期の実質GDPも前期比年率+0・9%と、2四半期連続のプラス成長となった。
日銀は24年3月、17年ぶりのマイナス金利政策解除を実行し、25年にはさらなる利上げの可能性もある。もちろんこうした判断には、国内外の政治動向も大きく関わってくる。
9月の自民党総裁選で石破茂氏が選出され、内閣総理大臣に就任。10月の衆院選では、小選挙区、比例代表を足した465議席のうち、自民・公明両党の議席が215で過半数を下回る結果となった。石破首相は、経済政策については岸田政権の方針を継承しつつ、実質賃金の引き上げを第一目標に経済・財政運営を行っていく。
中でも独自の取り組みは、東京一極集中の現状を改善する「地方創生2・0」。かつて地方創生担当大臣だった石破首相らしい政策だ。少数与党ゆえに実現への道のりが不安定になる可能性はあるが、野党の意見も取り入れながらのかじ取りになれば、偏った判断を避けられることにもなるだろう。
さらに11月には米大統領選が行われ、トランプ氏が再選された。25年1月の就任からは、「アメリカ・ファースト」の方針に沿った政策を次々と推し進めていくだろう。特に、もし減税でアメリカの景気が上がり、円安が急速に進行した場合などは、日銀の利上げの時期にも影響が及ぶ可能性がある。
トランプ氏の再選は、間接的にも世界経済に影響を及ぼす。24年12月初旬の本稿執筆時点で、イスラエルとレバノンは60日間の停戦期間に入ったものの、ガザの戦火は止まない。トランプ氏は先の大統領在任中、パレスチナ難民への支援を打ち切るなど、イスラエル寄りの姿勢を見せている。イスラエルのネタニヤフ首相も彼の再選を喜ぶ態度を示した。ウクライナ各地での戦闘も今なお続く中、世界の平和にもエネルギー価格にも、先の見通せない状況は続きそうだ。
日本に話を戻そう。いよいよ25年、全ての団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる。人材不足が加速し、医療費・介護費といった社会保障面、中小企業の事業承継等に影響が出る「2025年問題」が、ついに現実のものになる。
特に人材不足に対応するには、年々驚くべき進化を遂げるAIの活用が急務だ。64ページでデジライズCEO・茶圓将裕氏は、25年をAIの「企業導入元年」と呼んでいる。大企業では既に、業界問わずAIを導入しているところは多い。しかし、人材不足の影響を受けやすい中小企業こそ、早急なAI導入が必要なはずだ。
ただしその中でも、AIを使いこなし、自社のビジネスに有効に生かすにはどうすべきか見極める「AI人材」の育成が必要になる。経産省などもAI人材育成を後押ししているが、同省の調査では30年までにAI人材が最大12・4万人不足するとの予測もある。やはり根本的に人材不足を解決するべく、リスキリング支援策などを強化した上で、より多くの人々がそれらの制度を利用するよう啓発する必要がある。
激動の100年。過去に学ぶ動きも盛んに
さて、2025年といえば、1926年の昭和元年から数えて100年目にあたる「昭和100年」。これに合わせて新聞、テレビなどで昭和にちなんだ企画を目にすることも増えたが、ただ時期が良いからというだけが理由ではないだろう。近年の国際情勢や政治への不安から、戦後の復興と経済成長を果たした昭和世代に学びを求める人々も多い。24年にヒットした、NHK連続テレビ小説『虎に翼』が象徴的な例だろう。同作は戦前~戦後の法曹界を描きつつも、事実婚や同性婚など、現代人が抱える課題にもつながる描写が、若い世代の視聴者の共感を呼んだ。
また、同じ100年でも数え方が違うが、2025年は、NHKの前身である東京中央放送局が1925年3月にラジオ放送を開始してから100周年でもある。これを記念してNHKは、2025年を「放送100年」として、特集番組などの放送を企画している。それまで書籍や新聞、雑誌しか情報媒体が存在しなかった中、速報性の高いラジオの誕生は画期的な出来事だっただろう。同時にその速報性ゆえに、正確な情報を速く広く伝えなければならないメディアの責任は、ぐっと増したともいえる。
そこから一世紀がたった今、新たにメディアの力が試される出来事が起きている。4月から始まる大阪・関西万博だ。度重なる建設費の増額やパビリオン建設の遅れ、参加国の撤退などもあり、批判の声は止まない。その結果、24年10月9日時点での前売りチケットの売れ行きは、目標の51%にあたる約714万枚と低調。しかし、開催が決まっている以上、問題点と同時に万博の魅力も伝え、成功に向けた機運を作り出すことも重要なはずだ。
25年は干支が示す通り、「再生と変化」の1年になるか。本特集ではそのカギとなる6つの分野について見ていく。