2024年、衆議院選挙で自公与党は過半数を割った。最大野党の立憲民主も比例が伸び悩み、躍進した国民民主も議席数で見れば少数政党だ。25年の国内政治は、参議院選挙を控える。政権選択選挙になる衆議院選挙に比べて注目度が劣るが、過去の政変は参議院選挙から始まっている。日本政治の行く末は。構成=和田一樹(雑誌『経済界』2025年2月号「2025年を読み解くカギ」特集より)
古谷経衡 作家のプロフィール
24年の衆議院選挙 実は石破総理の勝利だった
2025年の国内政治における要衝は、夏の日の参議院選挙である。参院は政局の鬼門である。衆院よりも定数が少ない参院は、議員1人頭の「価値」が単純計算で約1・88倍である。つまり参院で5議席を失うことは、衆院で9議席を失うに等しい。参院の敗北は、古くは橋本龍太郎内閣、第一次安倍内閣が総辞職したトリガーになった。石破政権はただでさえ少数与党であり、自公での参院過半数維持は至上命題である。少しでも過半を割れたら総辞職の運命が待っていよう。
しかし石破総理にとって幸いなのは、直近の22年参院選では、岸田前総理の下、自公は大勝し非改選の現有が75議席もあるということである。つまり25年夏の参院は19年参院の改選であり、過半数の125議席のうち、自公で50議席に達すればよい。改選議席のうち、自公の現有は欠員を除き65議席である。つまり15議席失っても、過半数は維持される計算である。実際は欠員が8議席もあるから、さらに余裕がある。20議席減でも耐えられると思われる。
つまり岸田前総理による「置き土産」が石破政権に遺産として残されているのだ。ちなみに第一次安倍政権下で、歴史的大敗北となり同内閣が総辞職し、09年の政権交代の胎動になった07年の参院選挙では、自民は27議席を減らし37議席。公明の9議席を足しても46議席に激減した。この時並みの「大壊滅」が起こらなければ、今夏石破政権は参院で順当に自公過半数を維持するものと思われる。よって26年以降も石破続投の可能性は決して低いものではない。
24年の衆院選挙によって、石破総理と覇権を争った高市早苗は、旧安倍派の多くの議員を失い相対的に影響力が低下している。衆院選挙の結果、最も打撃を受けたのは旧安倍派であり、第一派閥の地位から第三派閥へと転落した。総裁選で高市の推薦人になった20人のうち、実に7人がすでに永田町を去っている。「ポスト石破」という意味での高市の政治力は減退している。少数与党は石破政権にとって難路ではあるが、自民党内での対抗勢力を減らす、という意味において、24年の選挙は石破総理の勝利に終わっているのだ。
こうした状況は、これまで自民党内保守派議員に忖度して躊躇していた政策――、例えば選択的夫婦別姓やLGBTQの人々に対する権利拡充の動きにはプラスに働くはずである。なぜなら旧安倍派が凋落した以上に、国民民主、立憲民主との協調がなければ法律のひとつも通らないからだ。つまり石破総理は「野党と協力しなければならない」という大義を得たので、党内保守派に忖度せず大きな改革案を推進しやすい政治状況に置かれている。
仮に24年の衆院選で、自民党が単独過半数を維持していたら、当然旧安倍派も健在であり、野党との部分連合の必要もないので、かえって国民愁眉の政策については進歩が遅くなっていたはずだ。少数与党に陥ったからこそ、自民党内保守派議員への「気配り」をしなくてよくなったのは、何という皮肉だろうか。実際にいわゆる「103万円の壁」については、原則「野党の声」を聞く方向で動き出した。
この基調が続けば、内閣支持率は増減を繰り返しながらも少しずつ持ち直すかもしれない。少なくとも、夏の参院選で自公が50議席を割るということはないだろう。国民民主はほかにも減税的政策を公約にしており、石破政権は財政再建や増税路線を断念する方向に進まざるを得なくなる。結果、少数与党は国民や生活者にとっては「案外悪くない」結果となるのかもしれない。
トランプ政権誕生も日本に関心は薄い
目下の不安要素は、第二次トランプ政権といわれる。が、筆者はまったく憂慮していない。トランプ政権はドル安誘導のため利下げ圧力を明確に強め、為替は間違いなく円高に向かうだろう。だが、現在のドル円水準は、輸入原価高騰により中小企業や下請け業者の利益率を蝕んでおり、物価高騰による国内消費の停滞も相まって、悪性の円安である。
トランプ政権でドル安傾向となれば、円は中・長期に120~130円に調整される可能性も少なくはない。そうなればGDPの過半を占める個人消費は復調する。これまで、特に21世紀に入ってからの自民党政権では、個人消費の復調傾向がみられるや否や、消費増税の議論が再燃して、実際に増税を実行してきた。そうして景気が腰折れする、というパターンが繰り返されてきた。
だが、石破内閣は少数与党により減税を明確に打ち出す国民民主を無視することが不可能なため、消費増税議論について「向こう数年間」は凍結されよう。国民民主が現在の議席を次期衆院選でも維持できれば、その期間は5年、6年と伸びていく。よって石破政権では、増税議論は事実上、封印されたに等しいのである。
そもそもトランプは、日本を重視しておらず、米国の目下の懸案はウクライナ戦争、中東問題、対中国問題の3つである。安倍元総理はトランプと欧州との懸け橋として活躍した――、というのは日本メディアの一部が苦肉の策で演出した「願望」であり、元来トランプやアメリカの比較的知識層においても、日本に対する関心は薄く、よってクリントン時代のような露骨な対日通商対応を採る、という発想自体が少ない。アメリカは基本的に日本に無関心であり、それはわが国の国力が低下しているからだが、かえってそれはトランプ時代にあって、アメリカの対日政策は「無風」に近い状態になることを示唆している。アメリカの出方に影響されず、日本の国内問題に取り組む環境ができつつあるといってよい。このようなチャンスを政治が生かすことができるかが、25年最大の国内政治問題と言えるのかもしれない。(談)