大阪・関西万博が4月に開幕する。計画当初は建設費の高騰や工事の遅れが批判されたが、次第に機運が盛り上がってきた。国は約3兆円の経済波及効果を見込んでおり、国内外から2,800万人が来場するとの予測もある。関西では経営基盤の強化やビジネス機会の創出に期待が高まっており、「逆襲」が本格化する。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
最先端技術だけでなく、持続可能社会を意識
大阪・関西万博は4月13日から10月13日までの約半年間、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま)で開催される。世界約160の国・地域が参加し、日本の民間企業や政府、大阪府・市などを含めて90を超すパビリオンが立ち並ぶ。政府や府・市、経済界でつくる日本国際博覧会協会(万博協会)が主催し、会期中2820万人の来場を想定している。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。最先端技術の見本市ではなく、持続可能な未来像を示す。
来場者はまず、会場の中心部を取り囲むような巨大な木製の円形リングに目を奪われるはずだ。1周約2㎞、高さ12~20mの世界最大級の木造建築物で大阪・関西万博のシンボルだ。一般の建物であれば3~5階建てに相当し、リングの中に甲子園球場がすっぽり入る。屋上を歩くこともでき、会場のパビリオンはもちろん、晴れた日には瀬戸内海に沈む夕日や淡路島も一望できる。
柱と柱の間に木材を水平に貫通させてつなぎ合わせる日本古来の「貫(ぬき)工法」が採用された。古くから神社仏閣などに使用される伝統技術で、京都・清水寺の舞台を想像すると分かりやすい。木材が互いに支え合って地震の揺れを受け流し、万博閉幕後も解体しやすいという利点がある。木材の一部には国内産ヒノキが使われ、東日本大震災被災地の福島県に運んで加工された。
会場内で目を引くのは、メビウスの輪をイメージしたドーム全体に花柄の西陣織の巨大な膜をまとわせたパビリオンだ。長径24m、高さ約13mに達し、世界最大の西陣織建築物になる。このパビリオンは、住宅大手の飯田グループホールディングスと大阪公立大学が共同出展し、新技術や脱炭素社会に向けた新エネルギーを駆使した健康的で快適に暮らせる「未来型住宅」「まちづくり」を紹介する。
このほか、会場では火星から飛来した世界最大の隕石が初めて一般公開される。日本の観測隊が2000年に南極の昭和基地の近くで採取した。現在は国立極地研究所(東京都立川市)で保管されており、ラグビーボールほどの大きさ(幅29㎝、奥行き22㎝、高さ16㎝)だ。1970年の大阪万博ではアポロ12号が持ち帰った「月の石」がアメリカ館で展示され、人気を博した。万博協会は「火星の石」を大阪・関西万博の目玉の一つに据える。隕石を研究すれば生命の起源を解明できる可能性もある。
回転寿司チェーン大手のくら寿司は、会場内に出店する店舗で、自社最長となる約135mの回転レーンを設置する。世界各国・地域を象徴する料理のほか、永続的な水産資源の活用を狙い、見た目が悪いなどの理由で市場に出回る量の少ない「低利用魚」を寿司ネタとして提供する。店舗外壁の素材には廃棄予定の赤貝の貝殻30万枚以上を再利用し、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)実現に貢献する。
跡地に統合型リゾート施設。観光客誘致に期待
大阪・関西万博の閉幕後の跡地では、2030年頃の開業を目指してカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開業が見込まれている。運営主体は、米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人とオリックスを中核とする大阪IR株式会社で、延べ床面積は77万㎡。シンガポールのIR「マリーナベイ・サンズ」(開業時延べ床面積約60万㎡)を上回る予定。
ただし、万博会期中にIRの工事が重なるため、騒音やトラックの出入りなどで来場者が興ざめしてしまうと懸念する声もある。昨夏は博覧会国際事務局(BIE)や万博協会が会期中の工事中断を求めるなどピンチにも見舞われたが、政府の仲介で折り合った。これを受け、大阪IRは違約金なしで撤退できる「解除権」を放棄したため、インフラ整備など関連投資も活発化しそうだ。
大阪市中心部では昨年、関西最後の一等地と言われるJR大阪駅北側の再開発地区「グラングリーン大阪」の一部施設が先行開業した。
大阪は「首都圏より緑が少ない」と揶揄されてきたが、再開発地区の半分を占める広大な公園が整備された。都会にオアシスを配した街づくりは高く評価され、塩野義製薬やクボタなどがグラングリーン大阪のオフィスビルへの本社移転を決めた。もともと利便性の高さは知られており、大阪駅周辺へのオフィス集積が加速する可能性もある。27年度の全体開業に向けて大阪駅周辺の風景は激変しそうだ。
インバウンドが過去最高を更新する中で観光資源が豊富な京都、大阪は大いに賑わっている。コロナ禍を克服した地域の努力の賜物だが、さらなる発展に向けて万博の成功は欠かせないものとなっている。