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今こそグローバル化を混迷を極め分断が進む世界に「多様性」を問う 鳥井信吾 大阪商工会議所

大阪商工会議所 鳥井信吾

世界とつながる情報技術ツールは進化する一方で、国や価値観の異なる他者との間で分断が広がり、世界では今なお争いが絶えない。真のグローバル化、ダイバーシティについて、鳥井信吾・大阪商工会議所会頭の話を踏まえ、「令和の万博」からその本質を探る。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)

大阪商工会議所 鳥井信吾のプロフィール

大阪商工会議所 鳥井信吾
大阪商工会議所 鳥井信吾
とりい・しんご──1953年大阪府生まれ。甲南大学理学部卒業、南カリフォルニア大大学院修了(生命科学)。83年にサントリー入社。2014年よりサントリーホールディングス副会長。大阪青年会議所理事長、関西経済同友会代表幹事を歴任し22年3月より大阪商工会議所会頭。

未知と無駄の先の挑戦からイノベーションは生まれる

 2025年4月、待ちに待った大阪・関西万博が開催する。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに据え、「未来社会の実験場」をコンセプトとした一大イベントには、世界から多くの国と地域、国際機関、民間企業が集結する。

 大阪商工会議所は、大阪ヘルスケアパビリオン「リボーンチャレンジ」において、優れた大阪の中堅・中小企業・スタートアップを発掘・支援し、象徴的な成果や活躍を効果的に発信する役割を担う。会頭を務めるサントリーホールディングス副会長の鳥井氏は、「人類共通の課題解決に向け、世界各国はもちろん、大阪の各地からも夢のような技術が集まる」と、期待と興奮を隠さない。

 「パビリオンでは、各社がそれぞれのテーマに沿って技術力の粋を結集させた、優れたプロダクトや夢の技術が多数展示されます。詳しいメカニズムは割愛しますが、例えば光合成する服や輸送トラックの代わりの飛行船、被災地支援にも転用可能な月面探査バイク、心身の状態をモニタリングするウェルネスオフィスなど。言わば大人の学園祭のようなプロジェクトですね」

 また鳥井氏はプロジェクトにおいて「分からないことや無駄に思えることへのチャレンジが大事」とも話す。そこには万博のコンセプトである、「未来社会の実験場」への思いが表れている。

 「ビジネスになるかどうかはいったん脇に置いて、夢のようなチャレンジをしてほしい。正解かどうかは分からない一見無駄に思える未知への挑戦から、技術躍進やイノベーションは生まれます。分からないからこそ市場開拓の可能性があり、競争優位を狙えるはずです」

大阪・関西万博を通して真のグローバル化を考える

 1970年に開かれた「大阪万博」は77カ国と4つの国際機関が参加したのに対し、今回の大阪・関西万博では、161カ国・地域と9つの国際機関が参加する。

 「万博には世界中から多種多様な人種、民族、文化、技術が集まります。初参加の国々はもちろん、米国も88年以来の連邦予算を組むほど前向きに臨んでいます。それぞれに誇りとするルーツがあり、思い描く未来社会があり、世界に誇る『最高』を展示しようと力を入れてきました。われわれは名誉なことに、その舞台のインフラを担い、準備を進めています。反グローバリズムや分断が進む昨今の世界において、万博はグローバル化やダイバーシティの真髄を世界に発信していけるものです」

 現在は世界各地の紛争、情勢不安、度を超えた国粋主義思想にポピュリズムの台頭などがあり、「グローバル化は失敗だった」とする有識者もいる。鳥井氏はそれでもなおグローバル化は大事だと訴える。

 「世界のグローバル化を否定し、全てを自国だけで完結するのは現実的ではありません。ダイバーシティを捨てようとする動きもありますが、多様性を排して成長することは今後考えられない。内需に伸びが期待できない今、大企業に限らず中堅・中小企業を含め、世界へ打って出る必要があります。万博では、グローバル化やダイバーシティの持つ可能性を肌身で感じてもらえるはず。万博で視野を広げてほしいです」

世界としのぎを削り、共にデザインする未来社会を

 グローバル化やダイバーシティの可能性を感じられる機会は、大阪・関西万博にとどまらない。かねてより開発が進められてきた、美術館をはじめとする文化施設を有する中之島エリアもその一つ。鳥井氏は開業した中之島クロスについて、業種や職種を超えた連携に熱視線を送る。

 「中之島クロスは、最新鋭の設備を有した医療機関や再生医療の研究施設、バイオ医療系のベンチャー・スタートアップ企業、支援機関等が集積した施設で、研究と臨床が一体化した拠点です。研究を発信する機能を持ち、近年注目を浴びている医療ツーリズムとしてのポテンシャルも秘めています。また、当会議所では関西圏のライフサイエンス産業のグローバルネットワークを強化するべく、包括連携協定を締結。それぞれが分野や国境の壁を越え、シナジーを生める体制が整いつつあります」

 活性化の動きは広域に波及する。万博開催に際して南北、東西の交通網整備も進められてきた。大阪がより周遊しやすくなる。

 「大阪は広くて多様性に富んでおり、各地の資源を生かし切れていないエリアはまだある」と鳥井氏。広い視野で世界を捉え、垣根を超えてさまざまな他者と協働し、しのぎを削りながらデザインした未来社会を次世代につなげていく。それこそが、大阪・関西万博の無形のレガシーとなるはずだ。