縦型ショート動画の先駆者であり、新しいエンタメの創造を掲げて市場を開拓してきたクリエーティブカンパニー・GOKKO。大手メディアや通信会社の参入が相次ぎ、市場の急成長が見込まれる中、日本テレビとの業務提携のほか、日本航空やトヨタ自動車とのタイアップ実績を引っさげて、シーンをけん引する。聞き手=武井保之 Photo=逢坂 聡(雑誌『経済界』2025年5月号より)

たなか・さとる 法政大学卒、飲食店の事業売却経験などを持つアントレプレナー(3社目)。ビズリーチ、セプテーニ、ファベルカンパニーで事業経験があり、採用責任者などを歴任。2022年2月にGOKKOを設立し、共同代表に就任。経営においてビジネスサイドを取りまとめる。
営業活動をしたことはない。コンテンツが仕事につながる
―― 縦型ショートドラマの制作に特化した会社を2022年2月に設立されました。その経緯から教えてください。
田中 今までに2回起業し、コロナ禍に2回目の事業は閉じることとなり今回が3社目。基本的にタイムマシン経営です。どこかの国で成功している日本にはまだない事業を持ってきて、新たな市場を開拓しながら軌道に乗せるビジネスをしています。
縦型ショートドラマは、中国で19年に爆発的に伸びていました。マーケティング視点では、日本でも2〜3年遅れてまったく同じことが起こるのは間違いない。それを先駆けてやろうと動き出しました。
まず、21年5月に役者5人とカメラマン1人で、前身の縦型ショートドラマのクリエーター集団「ごっこ倶楽部」を立ち上げました。そこから12月末までは、ノンマネタイズでコンテンツをとにかく制作し、作れば作るほど赤字という状況の中、TikTokでどんどん配信し、認知と支持を集めていきました。
―― ビジネスモデルはどのように考えていましたか。
田中 いちばんやってはいけないのは、先にマネタイズに走ること。それがビジネス寿命を短くしてしまいます。認知を得てからは、プロモーション要素を入れたドラマをTikTokに配信する、企業タイアップのスポンサー収益をメインに考えていました。
―― 日本航空やトヨタ自動車、NTTドコモなど大手企業とのタイアップを続々と配信しています。設立数年のスタートアップがどのように売り込んでいったのでしょうか。
田中 われわれは営業活動をしたことがありません。配信したコンテンツからお問い合わせを頂いて、そこから仕事につながっています。コンテンツが営業になるという考え方で、常に引き合いがある状況です。22年にマネタイズをスタートしてからは、すぐに軌道に乗りました。
テレビCMなどマスマーケティングを行う大企業からすると、デジタルマーケティングは、10分の1ほどのコストで10倍の効果があります。費用対効果で100倍になるんです。そこの取り組みやすさがあると思います。
広告を見ない若い世代へ届く。コンテンツがショートドラマ
―― コンテンツのアウトプットはTikTokだけですか。
田中 そこだけに絞っています。TikTokでバズったコンテンツは、YouTubeやInstagramのリールでも同じようにバズりますが、その逆はほとんどありません。基本的にコンテンツの最先端は圧倒的にTikTokに集約されており、そこから流行が生まれます。われわれはそこを起点にビジネスにつなげています。
―― TikTokの総フォロワー数は260万人を超え、総再生数は40億回に上ります。ファンがつくドラマ制作の秘訣はありますか。
田中 縦型ショートドラマはコンセプトを伝えるのに効果的なコンテンツです。〝日常で忘れがちな小さな愛〟をテーマに、数分で泣けたり、感動したりするドラマを掲げて制作しています。そこには、飲食のほか、衣服や装飾で身だしなみを整える日常があり、ドライブシーンもある。日々の生活が映るドラマには、さまざまな業種のプロモーション要素を入れ込みやすいこともあります。
―― TikTokに集まる若い世代にアプローチしたい企業のニーズを取り込んでいるんですね。
田中 今に始まったことではありませんが、若者たちのテレビ離れが進み、彼らにCMでアプローチできないことに困っている企業はとても多いんです。YouTubeプレミアムもそうですが、彼らはお金を払っても広告を見ない選択をします。広告プロモーション自体が難しくなっている一方、広告であろうとなかろうと、面白いコンテンツは見てもらえる。ポイントはそこですね。われわれは彼らが見たくなる面白いコンテンツを作る。その要素を入れるなかで、ショートドラマがいちばん作りやすく、視聴者からの認知と好感度の部分で相性がよい。そういう考え方で、ショートドラマを制作しています。一方、そこからワンタップさせるコンバージョンはあまり高くない。導線設計がより重要になり、その使い分けは必要です。
toCビジネスを開始。3年後に売上9割を目指す

―― 現在は企業広告収入が収益の柱になりますか。
田中 今年度の売上シェアで約9割に上ります。ただ、ロードマップとしては、企業相手のスポンサービジネスでスタートし、その後、toCビジネスに入ることを想定していました。それが2月にローンチした自前のプラットフォームとなるアプリ「POPCORN」です。都度課金のコンテンツ販売をまさにいま始めたところ。この先は、こちらがメイン事業になっていきます。
―― 売上シェアはどうなっていきますか。
田中 3年後に、toCが9割、スポンサーが1割を想定しています。今年中にアプリ300万ダウンロード、toCの売上シェアは半々くらいまで伸ばします。
TikTokのほか、YouTubeやインスタなどSNSの視聴数、再生回数を見れば、ほかのエンターテインメントと比較して、ショート動画の可処分時間の消費がケタ外れで大きいことが分かります。間違いなくマーケットはあり、そこを掴んでいきます。
今年中に日本のトップアプリになり、同時に中国が圧倒的に先行している世界市場を狙っていきます。
―― ユーザーにとって、TikTokの無料動画と、アプリで課金する動画の間に壁はありませんか。
田中 もちろん一定のハードルはあります。ただ、Webトゥーンをはじめ、見たいコンテンツにはお金を払う敷地があり、今は圧倒的にそこのハードルが下がっています。有料でも広告を排除してコンテンツを楽しみたいという人が増えていますが、そのパラダイムシフトはすぐ近い未来に起こると考えています。
―― サブスクではなく、都度課金なんですね。
田中 当初は供給が間に合わないことが理由です。一定数のコンテンツをラインアップしてからは、サブスクも含め、ユーザーが選択できるサービスにしていきます。
―― 縦型ショートドラマは、従来のドラマや映画に置き換わるエンターテインメントになるのでしょうか。
田中 可処分時間の奪い合いの中では競合になるかもしれませんが、選択肢のカテゴリとしては別になるのではないでしょうか。むしろ、クロスメディア展開の親和性はありますし、協業していくようになると思います。
ただ、個人的には日本のテレビ局のスポンサービジネスは崩壊しつつあると見ています。toCへビジネスモデルを変えない限り、日本のクリエーターが生き残る道はないでしょう。
今後5年は市場拡大が続く。人材育成と環境整備が急務
―― これまでの売上推移をお聞きできますか。
田中 金額は公表していませんが、この3年で前年比で350%、250%、350%と伸張させてきています。市場はわれわれの予想よりも圧倒的に速いスピードで拡大しているので、この先も300%前後を維持していくと見ています。
―― 昨夏以降、大手メディアや通信会社、映画会社などが市場参入しています。競争も激しくなっていきそうです。
田中 市場環境としてはソーシャルゲームが流行った頃の状況と同じ。想定済みです。そこでの勝負はオリジナルコンテンツ。それが圧倒的な強みになります。われわれは起業からの2年間で市場を獲得し、自社内の制作環境、体制を整えてきました。
ただ、今は業界が盛り上がっていくフェーズなので、競合サービスがもっと出てきてほしい。これから5年ほどは市場拡大が続くでしょう。そこから先の業界が頭打ちになるタイミングでは、シェアの奪い合いになるかもしれませんが、今大事なことは、クリエーターの育成ですね。
―― GOKKOはスタジオを自前で持ち、自社スタッフで制作していますね。
田中 コンテンツが面白くなければ、見てもらえないし、バズらない。それが大前提にあり、そこからすべてが生まれる。そのための制作体制と人材育成のシステムはしっかり整えています。
社員の7割はクリエーター職です。芝居経験のある若い世代を積極的に社員採用しており、彼らは脚本を書いて、監督も務め、演者として出演します。インハウスで最先端のノウハウを集め、人が育つサイクルの仕組みとなる循環システムを構築しています。ノウハウを集積していかないと、どこかでコンテンツが枯渇してしまう。300人規模まで社員を増やし、そこから先は外部パートナーに委託してディレクションしていく事業計画を練っているところです。
―― 順風満帆のようですが、課題はありますか。
田中 今年中にコンテンツを100本制作することを掲げていますが、そのための採用が追いついていません。かなり大きな数字であり、達成できないことはありませんが、そのためには人を増やさないと間に合わない。それが難しければ外部パートナーを探さないといけない。そこが今のいちばんの課題ですね。
―― この先の日本社会において、どういう役割を担っていくことを目指しますか。
田中 人々の余暇時間を最大限楽しませることを掲げています。しかし、今の日本の制作環境は、クリエーターが作品を持続的に作り続けられる環境ではない。ここを脱却するのが第一歩です。そのためのクリエーターの社員化であり、作品の利益を個々のクリエーターに還元する仕組みを作っています。
われわれが成功しなければ、日本のエンターテインメント産業の未来は見えない。この先の道のりはだいぶ厳しいのですが、登山に例えれば今5合目まで来ています。残りの5割を一気に駆け上がります。