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ANAの国際事業戦略に見る「自由奔放」と「手堅さ」 

メキシコシティへの新規路線就航やベトナム航空への出資など、積極的な展開を図るANAホールディングスがまた動いた。フルサービスキャリアの全日空の社長交代を発表し、LCCのピーチ・アビエーションを子会社化する。国際線を軸に成長を図る両社をいかに舵取りしていくのか。文=本誌/古賀寛明

LCC事業、成功のカギは非常識の維持

篠辺修社長と、4月1日付で社長に就任する平子裕志取締役執行役員

篠辺修社長(左)と、4月1日付で社長に就任する平子裕志取締役執行役員

2月24日、ANAホールディングス(以下、ANAHD)は、39%の株式を持つピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)の株式出資比率を67%まで引き上げると発表した。33%を保有する香港のファースト・イースタンアビエーションホールディングス、28%の株式保有の産業革新機構からそれぞれ約半分の株式を、総額約304億円で買い取り、子会社化する。

就航5周年目を迎えるピーチは、機内食に「ウナギ味のナマズ」や「お好み焼き」、機内販売ではフォルクスワーゲンのビートルを売るなど、常識にとらわれない取り組みとフレンドリーなサービスで若い女性を中心に人気が高い。一方で、チェックイン機の外枠を段ボール製にするなど、コスト感覚にも敏感だ。その結果、経営の面からみても優等生といえる存在で、日系LCCの中ではいち早く黒字化を果たし、2016年3月期の決算では27億円の純利益を出しており、累損も一掃した。

好調の要因として関西、成田に続き、那覇空港を第3の拠点にしたことで、国内客には沖縄を身近にし、台湾の乗客など海外需要もうまく取り込んだ。ピーチの井上慎一社長も以前、「美容院で髪を切るために沖縄に来る台湾の若い女性もいる」と述べているとおり、まるでバス。15年度の平均搭乗率86.7%がそれを物語る。

昨年には関西、成田から上海を結び、この2月からは、那覇とタイのバンコクを結ぶ路線を開設。また、今夏には仙台、翌18年には新千歳を拠点化する意向を示しており、地方活性化の新たなエンジンとしても期待されている。

ピーチの子会社化は、ANAHDにとっては収益力を強化することになるが、それ以上に収益力の源泉である豊富なアイデアと勢いを取り込むことが魅力であろう。一方、ピーチにとっても機材や燃油などを共同で購入できるため、経営は安定する。

ただ、懸念されるのはピーチの競争力の源泉である発想力やフルサービスキャリアに負けないといった気概が、失われないかということ。ホールディングスの片野坂真哉社長は「独自性は担保する」と明言しているが、もし、ピーチのユニークさが失われることがあれば、どちらにとっても良くない。

また、ピーチの子会社化は、100%子会社であるLCC、バニラエアの存在も浮かび上げる。現在、バニラエアも黒字化を果たしてはいるが、まだ単年でのこと。しばらくは競わせていく方針のようだが、経営統合など一本化もそう遠くはないのではないだろうか。

というのもLCCの世界では合従連衡が始まっており、従来4時間圏内といわれていたLCCの世界も長距離路線が増えている。最近ではエアアジアXが、関空とハワイを6月末から結ぶと発表するなど、北東アジアにも競争激化の波が押し寄せる。国際線を軸に成長を図るANAHDにとって、ピーチの子会社化は、群雄割拠のLCC分野で豊富なアイデアという武器を手に入れたということ。これをうまく生かせるかどうかが、グループの未来にもつながってくるはずだ。

新社長の堅実さで就航先を収益源に

一方、フルサービスキャリアの全日本空輸(以下、全日空)でも、ピーチの子会社化発表からさかのぼること8日前、社長交代が発表されている。4月1日付で社長に就任する平子裕志取締役執行役員は、大分県出身の59歳。東京大学経済学部を卒業後、全日空に入社。レベニューマネジメント部長や企画部長、ニューヨーク支店長などを経験し、直近ではホールディングスの財務・IRを管掌しCFOを務めていた。なお、5年間社長を務めてきた篠辺修社長はANAHDの副会長に就任する。

社長就任にあたっては、「国際経験の豊かさと、堅実な人柄」(篠辺氏)が、平子氏を選んだ理由のようだが、もうひとつ首都圏の空港発着枠の拡大が、少なくとも19年度まではないということも、このタイミングになった理由のひとつ。

平子氏に課せられるミッションは、ブリュッセルやプノンペン、メキシコシティなど、ここ数年で開設してきた多くの路線を収益の上がる路線に育てていくことであり、そのために世界での全日空の知名度を上げていくことだ。また社内に向けては、小さなトラブルが多発していることもあり「現場力を徹底する」ことで、安全性という原点に立ち戻ることを表明している。

今後、日本国内の人口減少で国内線事業の大幅な成長は見込めない。一方、トランプ政権のようなリスクはあるもののインバウンドの増加など、国際線事業にはまだまだ成長の余地がある。

ただ、競争は激しさを増している。ライバル日本航空は今年度末で制限されていた新規の投資や路線開設といた制約が解かれ、独自路線を貫いていた中東勢も欧州の航空会社とアライアンスを組むなど戦略を変えてきている。

ピーチの常識外れのアイデアを取り込み、平子新社長の堅実さを上手く収益に結び付けられるのか、ANAHDは世界での戦いに向けて、新たな体制で臨もうとしている。

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