国内のインターネット専業銀行の業界では後発の住信SBIネット銀行は、設立3年で黒字化を達成し、現在はネット銀行ナンバーワンの地位を確立。今後も住宅ローン領域への注力、また提携で事業拡大を図る。円山法昭社長は「銀行の機能を提供するインフラでありたい」と語る。〔聞き手/大橋博之、撮影/市川文雄〕
円山法昭・住信SBIネット銀行社長プロフィール
シナリオ以上の成長を遂げた住信SBIネット銀行
SBIグループ内でコアな事業体の一つに
── 住信SBIネット銀行は、グループの中でも今後が期待される事業体だと伺っています。
円山 SBI証券はオンライン証券の中でも圧倒的なポジションを確立し、巨大な顧客基盤を築きました。その顧客基盤を最大限に生かしつつ、SBIグループのシナジーをより強固なものにするために、住信SBIネット銀行は設立されました。現在、国内にネット銀行は7社あります。
当行は後発で4番目にできた銀行ですが、数年で先行していた3社を抜き、預金規模でも貸出規模でもネット銀行ナンバーワンの地位を確立しました。
── シナリオ通りの結果でしょうか。
円山 シナリオ以上の成長ですね。昨今、銀行業界はマイナス金利もあり、本業では地銀の半数以上が赤字、メガバンクも状況が厳しく、人員も1万人超をリストラするという話もあります。
しかし、当行は昨年度、過去最高益を更新し、今期上期も前年同期を大きく上回る状況です。これだけの成長を続けていられることが当行らしさであり、強みです。
── グループ内での役割も変わってきたのではないでしょうか?
円山 SBIグループ内でコアな事業体の一つになったと言えます。当行は住宅ローンにおいて日本の銀行業界では年間の実行額で5番目の規模。あと数年でトップクラスの規模に躍り出るはずです。それだけの規模の住宅ローンに付随する団体信用生命保険は、グループのSBI生命を引受先にしています。
同様に火災保険もSBI損保に紹介することで、大きな伸びを示しています。我々は今までSBI証券に支援されて成長してきましたが、これからは他のグループ企業の成長を支援する立場になりつつあります。
顧客満足度調査で1位を獲得
── プレッシャーはありますか?
円山 ない、と言えば嘘かもしれませんが、プレッシャーを楽しめる文化がSBIグループにはあります。当行がどのようなポジションにいようとも、我々がやることは何も変わりませんから。我々は常にお客さまに最高の商品とサービスを提供し、お客さまの支持を得て事業を拡大していくだけです。
── 顧客から支持されている要因は何でしょうか?
円山 お客さまが銀行に期待するのは、安くて早くて便利なことです。我々は手数料が最も低く、ATМの手数料や振込手数料は基本的に無料化しています。住宅ローンも最も低い金利で提供しています。逆に預金金利はメガバンクの10倍以上に設定するというように、最も優れた商品を常に提供しています。
さらにインターネットで簡単にスピーディかつストレスのない便利な取引ができるよう、サービスの改善も常に行っており、ウェブだけではなくスマートフォンのアプリにも積極的に投資を行ってきました。
もう一つ、金融機関でサイバーセキュリティは大きな問題です。そのため、銀行業界でも高水準のセキュリティを維持できるよう積極的に投資を行っています。スマート認証のような先進的な認証システム、トランザクション認証も日本の銀行では初めて導入しました。
こうした取り組みが認められ、各種調査機関の顧客満足度調査やNPS(ネットプロモータースコア。顧客ロイヤルティ、継続利用性を表す指標)等の部門で1位を獲得しています。
住信SBIネット銀行が目指す方向性
銀行業界の変革を前に他社との連携を強化
── 今後どういった方向の事業を伸ばそうとお考えですか?
円山 まず住宅ローンの取り扱いを増やします。顧客の信頼を積み重ねていくために、ターミナル駅近くに「ローンプラザ」というリアル店舗の展開を進めています。お客さまの疑問を対面で解決しながら、手続きをフォローします。
── 成長著しいですね。
円山 とはいえ、まだ340万口座程度、預金は4兆8000億円程度です。日本の家計金融資産のうち、預金は約900兆円といわれる中、ネット銀行全体では20兆円にも届かない。20 兆円でもマーケットシェアはわずか2%程度。一方、証券取引で個人の株式委託売買代金のうちオンライン証券のシェアは約8割。銀行取引はまだネットにシフトしていないので、これから本当の意味での銀行業界の変革が起こると考えています。
── それだけ大きな伸びしろがある。
円山 今の10倍、20倍に広がっていくでしょう。当行はSBI証券とのシナジーで成長してきましたが、今後は外部の企業とのアライアンスでも成長を加速させていきたい。そこで2017年に日本航空と共同でジョイントベンチャーを設立しました。
第一弾のサービスとして18年11月より日本航空のお客さま向けの国際ブランド・プリペイドカードの取り扱いを開始しました。これは世界の15通貨をスマートフォンで瞬時に両替ができて現地の通貨で引き出せる、というもので、国内初のサービスです。もちろん、カード決済もできるので、現金を持たずに海外旅行ができます。現在は15通貨ですが順次取扱通貨を拡大していきます。
今後、日本航空の3200万人のマイレージユーザーに対して様々な金融サービスを提供していきます。この他にも数社の大手企業とのアライアンスを進めています。
── テクノロジーへの取り組みはいかがでしょうか?
円山 今はAPIで銀行のシステムをオープンにすることで新しいシナジーが生まれています。我々も300以上の銀行の機能をオープン化していてAPIで外部の企業とつなげられるようにしています。APIでつながれば企業は最適な銀行機能を自分たちのサービスとして取り込んで提供できます。銀行のアンバンドリングが進み、企業を巻き込んだ銀行機能のリバンドリングが進むのが次の時代です。
── 銀行名ではなく、サービスで選ぶべき時代が来る?
円山 サービスを提供するのは別に銀行である必要はなく、むしろ銀行でない方がいいかもしれません。我々は銀行の機能を提供するインフラでありたい。バンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)として銀行の機能をサービスとして提供する。それを他の企業が提供すればよいのではないか。その方が顧客にとって利便性の高いサービスや我々が予測していなかった新たな金融サービスになるかもしれません。
── 今後、必要な技術は?
円山 既にクラウド、AI、ビッグデータの3つがテクノロジーのトレンドになっていて、今後ますますその傾向が強まるでしょう。これらをうまく組み合わせれば新しい世界が創造できます。これから本当の変革が起きるので、逆に言えばそこに取り組まなければ、銀行の存在意義はなくなります。
なぜなら異業種がどんどん銀行のようなサービスを提供していくようになるから。LINEがLINE Payを始めたり、メルカリ、ソフトバンク、Amazonも然り。Amazonはあらゆる産業を自社サービスに取り込んでいます。顧客に優れたサービスを提供しているテクノロジー企業が金融業に参入してきて銀行のマーケットを奪っています。
銀行が変わらなければ、銀行自体が存続できない時代が来ます。──ライバルはメガバンクでなく、IT企業ですね。
円山 仰るとおりです。優れた顧客サービスを提供し、支持されている企業はすべてライバル。しかし、彼らと戦うだけでなく、パートナーとして協力し合えることはないかと模索しています。その上で、ライバルに対抗できるビジネスをつくりたい。
そうすることで、SBIグループを中心とした生態系を超える次の生態系を構築できる。それがまたグループに新たなシナジーを生むと考えているからです。
SBIグループは事業展開のスピードを重視
── AIやブロックチェーンの活用について教えてください。
円山 法人向け融資ではAIによる審査を実装しています。レコメンドによる融資サービスも始めています。ブロックチェーンにおいては、分散台帳技術を活用した新送金サービス「Money Tap」(マネータップ)を開始しました。個人間の送金を安全・リアルタイムかつ快適に行うアプリで、銀行口座から銀行口座へいつでも直接送金することを可能にします。さらに当行に口座があれば送金手数料が無料となります。
これはブロックチェーンの活用でコストが劇的に下がるために実現できたことです。従来の銀行のシステムには膨大な投資が必要です。その多くはメンテナンスや維持管理にかかっています。ブロックチェーンではそれらのコストを10分の1以下に抑える可能性を秘めている。我々は国内で初めて勘定系業務におけるブロックチェーンの実証実験に成功しています。
── これからますますテクノロジーも変わるのでしょうね。
円山 最先端のテクノロジーには常にベットし続けることが重要です。各方面から情報が集まるのはSBIグループの強みであり、優位性です。中でも当行は銀行の特性を生かして、最も早く情報をキャッチしようとしています。銀行はあらゆる業界に接点を持っています。また、テクノロジーに最も敏感に反応しやすい立ち位置にあります。
── その情報が武器になる。
円山 最新の情報をいち早く入手することは、新たなシナジーを生みます。我々がメガバンクと闘えるのもこのキャッチ力があるから。もちろんメガバンクも情報をキャッチして研究を行っています。しかし、我々は短期間で新しいアイデアを具現化し、シナジー効果を発揮することができる。SBIグループは事業展開のスピードを重視しています。
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