素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)
榎戸欽治氏プロフィール
リフォーム業界におけるニッカホームの競争力
水廻りと木工事を絡めた中型リフォームに強み
―― 調査会社などの予測を見ると、住宅リフォーム市場は今後、爆発的な伸びもなければ落ち込むこともない見込みです。
榎戸 現状、住宅リフォームには金額で500万円以上の大型リフォーム、100万~500万円の中型リフォーム、さらに規模が小さい小工事がありますが、最近出てきたジャンルとして取り替え方リフォームというものがあります。住宅の悪くなったところを部分的に取り換えるもので、リフォームを本業にしていない会社が進出することで市場が拡大しています。最近では通販業者が取り替えリフォームでコンロを売ってみたり、町のガス屋さんや水道屋さんなど、専門の仕事をやっているところが進出するケースが増えてきました。
―― ニッカホームが一番強い分野は?
榎戸 中型リフォームの分野です。中型リフォームでも、キッチンやお風呂といった少しグレードの大きい仕事になると家電量販店などもリフォームのサービスを提供していますが、われわれの場合は水廻りと木工事を絡めたリフォームがメインになります。
自社施工による一気通貫体制
―― 水廻り工事の強さを特徴として打ち出していますが、素人には良い業者を見分けるのが難しい。業者選びの注意点などあれば教えてください。
榎戸 住宅リフォームは基本的に古いものを直して新しくものをつくる仕事なんですが、大抵の場合、壊れている場所の見積もりだけでは済まないことが多いんです。例えばお風呂を直す場合でも、ユニットバスの本体だけでなく隣の洗面所が痛んでいたりします。家電量販店さんなどは料金が決まったパックの見積もりサービスを行っていますが、いざ蓋を開けるとここも一緒に工事した方が良いという箇所が必ず出てくるんです。
もともと違う業種から入ってきた方々が手掛けると、販売担当と現場の人たちのコミュニケーションが取れていないケースもあります。パック料金の範囲内で追加工事ができる場合もありますが、彼らは何日間で工事を終わらせなければいけないと決められているので、それ以上時間が掛かる現場については対応できないこともあります。
―― クレームの温床になりそうですね。
榎戸 それをなくすためにいろいろ苦労されているようですが、やはりどうしてもクレームの温床になりますね。われわれの場合は自社施工なので、営業から現場監督、集金まですべて一気通貫型でやっているのでそういう心配はありません。
工事がスタートすると営業担当も付いてきて、職人の調整をしたり、工事中に作業の指示を出したりすることもできます。リフォーム専門の人間が長年の経験知をもとにやっているからできるんです。
多能工による利便性と低コスト化
―― それができる人材を育てるのは大変ではないですか。
榎戸 ウチは多能工を育てることに力を入れていて、例えばトイレだけでも細かく分けると設備屋さんや解体屋さん、器具を付ける人もいれば壁のクロスや床の張替えといった仕事が入ります。それぞれの仕事に1人ずつ職人が入ると非常に高くつきますが、多能工は1人で解体も水廻り工事も器具付けも行って、場合によっては傷んでいる箇所の補修もしてくれるので低コストで済みます。
そういうことができる営業マンが一対一で指導するので、営業と工務が分かれている他の会社よりも人材の成長スピードが速いんです。
―― 社員教育プログラムみたいなものはあるんですか。
榎戸 システムは特にありません。ただ、昔のように新人に対して職人の仕事を見て覚えろとは言わず、しっかり先輩社員が教えます。下の人間を育てることが自分の成長にもなるという考えを代々理解していることが、ウチの一番の強みかもしれません。
―― 一人前になるのにどれぐらい時間が掛りますか。
榎戸 一通りやれるようになるのに3年ぐらいですね。
ニッカホーム設立と成長の経緯
問題を解決するうちに会社の形ができてきた
―― 榎戸会長は水廻りからはじめて現在の会社の形になりましたが、リフォームでやっていくことに向けて転機のような出来事はあったのでしょうか。
榎戸 以前は、浄化槽の専門会社に勤めてトイレの浄化槽を担当していました。すると、トイレを工事したついでに洗面所やキッチンなども傷んでいるから、ついでにどうですかといった流れでお客さんに提案していました。多分、性格の問題と思うんですが、そういのがあるとすごく気になってしまうんです。問題をどうしたら解決できるか考えて実行するのが楽しいんです。
―― では、もともとそんなに独立志向があったわけではないんでしょうか。
榎戸 そうですね。気付いた問題を解決していくうちに会社の形になってきました。どうしたらたくさんの方から仕事をいただけるか考えて、答えを出していたのがわれわれの会社です。リフォームはクレームがよく発生する産業です。元々のあるものを新しくするから、どうしても問題が起きるわけですが、解決法を考えてできたのが一気通貫であり、多能工の体制です。
リフォーム業界では珍しい路面店を展開
―― 住宅リフォームの業者がきちんとしているかどうかは、素人には分かりにくい部分があります。御社の特徴どうやってPRしてきたのですか。
榎戸 集客には当初から力を入れてきました。住宅をリフォームしたい人を集める方法として、約25年前から当時としては珍しい路面店、それも倉庫ではなくてショールームを作ってアピールしました。店の作りは薬局を参考にしたり、看板は吉野家やコメダ珈琲やココ壱番屋を参考にしたりもしました。リフォーム業界に路面店がなかったので、他業種を参考にしたんです。
空間づくりには個人の好みがあるのであまり凝ったことはしませんでしたが、単にトイレや浴槽やキッチンが置いてあるだけで洗練されていないとイメージが悪くなるのでそこは気を付けました。商品は古くなっても売れますが、イメージが古くなると売れなくなります。展示スペースも限られていたので、何個展示したらお客さんが満足するのかも考えました。
たとえば便器を並べるにしても、1つや2つだとこれしかないのかと思われてしまいますが、3つあれば比較して選ぶことができます。そんなふうに考えながら答えを出してきました。
―― 今はショールームはどれくらいあるのですか。
榎戸 70店舗ぐらいです。ショールームは今も集客の柱の1つで、あとは新聞折込のチラシなどを活用しています。インターネットによる集客は、会社のホームページや物販専門のページもありますが、持ち家があって、ある程度の年齢以上の方が住宅リフォームの主な顧客ターゲットなので、まだチラシほどの効果はありません。
ニッカホームの今後の展開と榎戸会長の理念
職人不足の問題は解決できる
―― 業界全体と会社の課題は。
榎戸 業界の大きな問題の1つが職人不足です。あとはたとえば、電球を1個だけ替えたいのにできないような高齢者の方が増えているので、そうした小工事への対応だったり、空き家対策をどうするかといったことです。また、IoTやAiなどのテクノロジーが家庭に入ってくると、それらに関する知識がリフォーム業者にも必要になってきます。
―― 現場で働く職人の不足は千葉県の台風災害の時も問題になりましたね。
榎戸 仕組みで変えていける部分があると思うんです。われわれができることで言えば、そうした災害の復旧の際に多能工をはめこめればいいと思います。屋根の修理の際に瓦の人と板金の人と塗装の人などが分かれてしまっている状況を、取り換えリフォームと同じく一人の多能工がやれたら時間の短縮にもなるしコストもかからない。そういった人材を育成することで、職人不足はかなり改善すると思います。
―― リフォームからさらに広げて、何でもできる人材を育てるという感じでしょうか。
榎戸 そうですね。たとえば簡単な電球交換を一日に何件もこなせるようになれば地域の見守り隊のような役割も果たせるし、それをきっかけに大きな工事も取れるかもしれません。町の電気屋さんのような商売はなくなってきましたが、そこをわれわれのようなリフォーム屋がやって儲ける実績ができれば、みんな始めるかもしれません。
人材を惹きつけ活躍できる環境を用意
―― 会長として、今後最も力を入れることは何ですか。
榎戸 人材をどうしたら辞めないようにできるか。そこに一番力を入れています。一粒で二度、三度おいしいという考え方が好きなので、近々、原宿に「ニッカカフェ」というものを作ります。それによって都内での知名度向上を図ったり、カフェで人材採用も行ったりすることで、リフォーム以外のこともやれる会社ということをPRします。リフォーム以外では、既にウッドデザインパークというテーマパークを名古屋で展開していて好評を得ています。
人の成長が企業の成長につながると考えていますので、どうしたらその人が成長するかだけを考えて、活躍できる場所を与え続ければ企業も伸びていくと信じています。