米国の物流不動産大手プロロジスは、1999年に日本法人を設立して以来、質の高い最新鋭の大型物流施設を強みに、日本の物流不動産業界をけん引してきた。これからの物流施設について、同法人の山田御酒社長は、「AI活用やロボット化をはじめとするDXをどんどん進める」と語る。聞き手=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年12月号月号より加筆・転載)
山田御酒・プロロジス日本法人社長プロフィール
(やまだ・みき)1953年生まれ、山口県出身。1976年に早稲田大学商学部卒業後、26年間フジタに勤務し、イラク、米国、英国で不動産開発の事業に携わった。2002年にプロロジス入社、04年シニアバイスプレジデント兼日本共同代表、05年マネージング・ディレクター兼日本共同代表、06年プレジデント兼日本共同CEO、09年3月からプレジデント兼CEOに就任。11年6月のAMBプロパティーコーポレーションとの経営統合に伴い社長となる。
物流不動産ビジネスの変遷
倉庫は所有から賃貸へ
―― 山田社長は日本の物流不動産業界の黎明期から、このビジネスに携わっています。これまで物流不動産業界はどう変化してきましたか。
山田 まず、プロロジスが日本に参入した2000年頃は、物流不動産というジャンルは日本にはありませんでした。当時は「賃貸用の倉庫ビジネスなんて成り立つの?」「そんなもの聞いたことがない」という反応ばかりでした。
倉庫などの物流施設といえば、基本的に倉庫に保管しなければならない物を作っているメーカーやメーカーの物流子会社、あるいは日本通運、佐川急便、西濃運輸などの物流会社がかつては所有・運営していました。ですから、私たちのような不動産会社が物流施設を建て、それを貸すというのは新しいビジネスモデルだったんです。
しかし、米国や欧州では物流不動産はビジネスとして確立できていましたので、日本でも間違いなく成功するという確信がありました。日本初の賃貸用の大型物流施設は私たちが手掛けたもので、01年に着工、02年に完成した、現在の江東区新木場にあるDHL専用の施設です。
今となっては、物流施設は自ら建てるものではなく、借りるものになりましたよね。当時からたった20年しかたっていませんが、ビジネス環境はガラッと変わりました。
転換期は東日本大震災
―― ターニングポイントはありましたか。
山田 大きな転換期となったのは、11年の東日本大震災です。あの時に、物流施設を持つことと借りることの意味を、皆さん随分検討されたのではないでしょうか。物流会社は不動産として物流施設を所有していましたが、本業は庫内で荷物を仕分けし、その荷物を運ぶ物流業です。では物流会社にとって、物流施設を持つことの意味は何か。
90年代のバブル崩壊とともに不動産もはじけ、絶対に下がらないと思われていた土地の値段はあっという間に下落しました。そこで、必ずしも資産を持つ必要はないのではないかと、「持たざる経営」が主張されるようになりました。
メーカーや物流会社は、所有している物流施設を私たちのような会社に売って、それを借りなおす。このリースバックという方法をとれば資金が入ってきますので、本業を強化するための投資ができます。私も当時は結構偉そうに、「M&Aなど戦略的な事業のために、リースバックの資金を使ってみたらいかがですか」なんて言っていました。「お前に言われる筋合いはない」というような表情をされたこともあります(笑)。
プロロジスの物流施設の特長と強み
使い勝手のいい物流施設とは
―― プロロジスの物流施設は業界トップクラスの質を誇っているそうですが、物流施設の質とは具体的にどのようなものですか。
山田 プロロジスが作った物流施設と、同業他社が作った物流施設をそれぞれ使ったことがあるお客さまは、「使い勝手が違う」と言います。
それはなぜかというと、私たちは物流施設を利用しているお客さまから、「柱の位置はもう少し右にあると使いやすい」「床の高さはもっと高いほうがいい」「傾斜路の角度はもう少しこうしてほしい」など、施設に関する細かいフィードバックをもらっていて、新しい物流施設を建てるときには、その声を必ず反映することを長年繰り返してきたからです。一見しただけでは全く同じ建物に見えるかもしれませんが、利用者にとっては使い勝手が違います。
―― 施設としてのスペックを箇条書きにすると、他の物流施設と全く同じだけれど、実際に使ってみると違うということですね。
山田 そうです。これは私たちが20年間かけて作り上げてきたノウハウですから、一朝一夕には真似できないと思います。
床荷重は平方メートルあたり1・5トン、階高は5・5メートルなど、プロロジスが作った物流施設の基本仕様は、日本の物流施設のデファクトスタンダードになっています。ただ、それ以上の細かい仕様は公開していません。もしかしたら、私たちは床荷重を1・5トンではなくて1・6トンにしているかもしれないし、階高も5・5メートルではなく、微妙に変えているかもしれません。
また階高を5・5メートルにするのはなぜか、その背景を理解していなければ、お客さまの事業環境の変化や要望に合わせて適切に設計を変更することはできないでしょう。
最新鋭の物流施設の要諦は万全のBCP対策
―― プロロジスは最新鋭の大型物流施設を手掛けています。最近の物流施設には保育所が併設されていたり、きれいなパウダールームがあったりするのが目を引きますが、最新鋭とはどのような意味ですか。
山田 パウダールームや休憩室、喫煙室などは、アメニティと私たちは呼んでいます。最上階で一番景色がいいところにレストランを作ったりしていますが、実はこれは実質的なことではありません。
最新鋭の施設のポイントはBCP(事業継続計画)対策にあります。これだけ地震、台風、豪雨などに見舞われている日本では、災害の時にこそ物流施設が機能しなければなりません。「地震が発生したからクローズします」では意味がないんです。
免振装置、停電でも稼働できるようにするための非常用電源、断水しても地下水をくみ上げて使えるようにするためのポンプや浄化槽などを備えています。普段は全くありがたみが分かりませんが、非常事態になるとその威力を実感します。東日本大震災では、免振装置のお陰で、私たちの施設では何ひとつ棚から落下しませんでした。
また、施設の屋根には太陽光発電パネルを設置しています。これまで発電した電力は売電していましたが、最近は自家発電として使うことを進めています。今はまだ蓄電池のコストが高いので経済的には厳しいところがあるものの、将来的には太陽光発電の電力を備蓄できるようにしたいと考えています。
最新技術の活用と未来の物流施設
AIやロボットの活用
―― AI、ロボット、5Gなど、最新テクノロジーも話題です。
山田 BCP対策はハード面のお話でしたが、AI、ロボットなど、ソフト面もどんどん進化してきていますね。その背景には、人口減で働き手が減少していることがあります。
物流施設では多くの働き手を確保しなければなりません。例えば、千葉にある弊社の物流施設・プロロジスパーク市川1では約1500人、神奈川のプロロジスパーク座間1&2では約1千人が働いています。少し前は物流施設というと、高速道路へのアクセスの良さが大切で、インターチェンジからの距離が重視されてきました。しかし、ここ数年は「そこに物流施設を作って雇用を確保できるか」も重要になっています。今後は人材不足が進み、今以上に雇用が難しくなる見込みですので、省人化の技術が必要になります。
―― 最新技術を活用した物流施設は、どのようなものになりますか。
山田 先日、最先端の物流施設を見学しました。薄暗い広大なフロアで、何百台もの無人搬送ロボットがほぼ無音でピッキング作業をしていて、「すごい、こんなことが起きているのか」と感動しました。
無人搬送ロボットはセンサーで動くので照明も必要ありませんし、その施設で扱っているのは工業製品であることもあり、温度管理も不要です。5千~7千坪の暗い空間で、ロボットが青や赤のランプを光らせたりしながら、わずかなモーター音だけ鳴らしてスーッと動き、ピッキング対象が入っているラックを作業員のところまで持ってくる。作業員はロボットが点滅させるランプの指示に従って必要なものを取り、指定された箱に入れる。すると箱は勝手に流れて行って、ラベルが貼られ、トラックまで運ばれる。そんな世界が目の前に広がっていました。
私が聞いた限りでは70%の省力化ができているそうです。衣類や食品など、ロボットで扱うのが難しいものはまだたくさんあるようですが、衣類でも袋詰めされていたり、靴は箱に入っていれば扱えるレベルまで進化しているみたいです。ロボットを管理する作業員が少しいれば、他はすべて無人でオペレーションできるような時代が、もうすぐそこまで来ています。
ソフト面も含めた物流のソリューションプロバイダーに
―― 今後はプロロジスとして、ソフト面の仕組みも提供しますか。
山田 以前は庫内でのオペレーションには手を出していませんでした。しかし、最近はロボティクスの導入支援などのコンサルティングサービスも提供していますし、庫内オペレーションの可視化ソフトを開発するなど、AI活用やロボット化をはじめとするDX(デジタルトランスフォーメーション)もどんどん進めています。
プロロジスがいなくなったら困るくらいの存在になるためにも、ソフト面も含めた物流スペースのソリューションプロバイダーを目指しています。
また、新たに開発する大型物流施設は、必ず地域の自治体と防災協定を結ぶことにしました。免振装置、非常用電源、地下水用のポンプや浄化槽などが備わっていますので、社会インフラ的な機能も提供すべきだろうという考えからです。
現在、兵庫にプロロジスパーク猪名川1&2という大型物流施設を開発していますが、そこでは地元の猪名川町と防災協定を結び、ドクターヘリが離着陸できるヘリポートも作っています。物流施設としての本来の機能とともに、災害時の避難場所としての機能も地域に提供できればと考えています。