【特別企画】住宅・不動産特集2021
新型コロナウイルスの影響で、不動産市況には2021年に入っても依然、不透明感が漂っている。巣ごもり需要の影響で住宅や物流施設は活況を呈しているが、商業施設やホテルは低迷が続き、オフィスビルも立地に応じて優勝劣敗が鮮明になってきた。視界不良が続く不動産市場はどう推移するだろうか。SMBC日興証券の田澤淳一シニアアナリストに不動産・住宅市場の動向について聞いた。(経済界企画部)
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コロナ禍における住宅・不動産市場の現状
働き方の変化で空室率が6%台に上昇する可能性も
長引くコロナ禍でさまざまな影響を被っている不動産・住宅市場。中でもオフィス市況では、リモートワークの普及に伴ってオフィス面積の縮小・解約が進み、空室率は上昇基調にある。三鬼商事が発表した東京ビジネス地区における2021年4月時点の平均空室率は5・65%となり、14カ月連続で上昇している。オフィスの集約に伴う解約や募集開始が原因で、好不調の目安とされる5%を3カ月連続で上回った。
田澤淳一シニアアナリストは「想定以上に新型コロナによる影響が長期化しています。昨年7月に富士通がオフィス面積の半減を発表するなど、大手を中心に数多くの企業がオフィスの最適化を進めているところです。23年にはオフィスビルの大量供給が見込まれており、今後は数年間にわたって空室率の上昇が続くとみています」と分析している。
ザイマックス不動産総合研究所による「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査2021年1月」では、回答企業の33・7%がオフィス戦略の見直しに「既に着手している」状態で、「半年~5年以内に着手予定」なのは合計16・3%、「時期は未定だが、いずれ着手する」のは26・2%となった。田澤氏の見立てでは、これらの企業の動向が市場の減退要因となり、空室率が6%台まで上がる可能性が高いという。
「企業の規模でオフィス戦略への考え方は当然、異なります。同じ都内でも大企業の多い丸の内などでは在宅勤務の活用が進んでいますが、中小企業が集まる神田・新橋エリアは相対的に出社率が高い状況が続いています。ただ、全体的にみれば新型コロナのワクチン接種が広がっても、働き方改革に伴う企業のオフィス見直しは今後も加速するでしょう」
企業がオフィスを集約する場合、コミュニケーションスペースとしての付加価値がある拠点を維持する傾向が強い。田澤氏は「企業の中には、好立地の本社オフィスをキープし、立地や機能面で劣る拠点を閉鎖する動きが生まれつつあります。そうなると、優良物件に比べて立地面で劣る築古の中小ビルにとっては非常に厳しくなりそうです」と指摘する。
他方で、平成バブル期に建てられたビルが取り壊されてマンションへの建て替えが進むなど、市場の新陳代謝が期待できる。28年頃まではビルの大量供給が続く見通しだが、社会インフラの改善で需要が回復し、ウィズコロナで長期的な上昇トレンドが予想される空室率にも低下に転じるタイミングが訪れそうだ。
ホテルはリゾート系とビジネス系で格差が
オフィスビル以上にコロナで打撃を受けた商業施設。郊外のスーパーやショッピングモールには客足が戻りつつあるが、今年4月における大手百貨店4社の売上高は19年4月と比べて2、3割程度減収し、コロナ前の水準まで回復するにはほど遠い。
一方、SMBC日興証券が消費者向けに昨秋実施したアンケートでは、「コロナ後に訪問頻度を増やしたい商業施設」として「大型ショッピングモール」や「百貨店」を挙げる回答が最も多く、ワクチンの普及次第で業績は好転するだろう。
「巣ごもり生活を強いられる中で、ハレの場で買い物を楽しみたいというニーズがマグマのように溜まっています。ただ、インバウンド需要の回復は2年以上先になる見通しで、百貨店にとって当面は我慢の時期になると思われます」
宿泊施設も苦戦しているが、富裕層が国内のリゾートホテルを利用するなど、国内回帰が市場の後押しになりつつある。一方、出張機会の減少でビジネスホテルには厳しい環境が続く見込み。オンラインツールの普及で、コロナ収束後もビジネス目的での移動は減少するとみられる。
住宅マーケットはコロナ禍でも活況
一方、コロナ禍でも活況を呈している住宅マーケット。在宅時間増加を受けて新築分譲戸建は販売好調で、マンションも新築・中古とも堅調に推移している。働き方の変化を受けた郊外シフトと同時に、昨秋からは都心のマンションも売れ行きを伸ばしているという。
「いずれ都心で住宅を購入したいと考えていた30~40代の背中をコロナが押した形となりました。日本人は貯蓄率が高く、両親が住宅費用を援助してくれるケースも多いので、決断すると早いですね。今年後半からは需要が落ち着きますが、市場は安定して推移するとみています」
住宅や物流施設の優位と、商業施設やホテルの苦戦が継続しそうだが、価格対比という観点から割安と判断されれば商業施設やホテルでも取引が活発化する可能性は十分ある。
「米ファンドのブラックストーン・グループが近鉄グループホールディングスのホテルを取得したように、数年後のインバウンドの戻りを見越した買いが入っています。需要を先取りする動きは今後も出るでしょう」
また、不確定要素の強い環境下では、事業者にリスクを取る姿勢が求められる。とりわけオフィス市場では今年に入ってから大手企業のオフィスに関わる意思決定が進み、電通のように自社ビルの売却に着手する事例が増えている。優良物件の取得を目指す不動産会社やファンドにとって今がチャンスだ。また、オーナーにとってはテナント獲得競争の激化で、一層確かな手腕が問われる。
「数年前まではテナントが一度入居すれば黙っていても賃料が入ってくる環境が続いてきました。今後は大手不動産でも、シェアオフィスを設けたり、リスクを取ってベンチャー企業の入居を促したりといった方策が求められます。新たなニーズを掘り起せる企業が激変する市場で生き残ることができるでしょう」