じっとしていても汗の止まらぬ熱帯夜。体力を回復し翌日に備えてぐっすり眠ろうと思っても、暑さがそれを許さない。しかも睡眠の質の低下は熱中症のリスクを上げるから要注意。そうならないためにも、高機能の快眠グッズの活用が不可欠だ。賢く使って夏を乗り切ろう。文=関 慎夫(雑誌『経済界』2022年9月号より)
猛暑により品薄続くニトリの冷感寝具
猛暑により熱中症患者が激増している。6月に東京都内で熱中症で搬送された人は1517人と、昨年のおよそ6倍だ。死者も17人にのぼる。7月に入っても猛暑日が続き、今後も太平洋高気圧が居座ると見られているため、患者数はさらに増えそうだ。
熱中症を防ぐには、エアコンによる室温調節、こまめな水分補給、ミネラル摂取などがあるが、もう一つ大切なことは睡眠をしっかりと取ることだ。
寝具メーカーの西川が発表したレポートによると、夜間の気温が高く、睡眠の質が低下すると、翌日の熱中症搬送者が増加するという明確な傾向が確認できたという。睡眠の質が悪くなると体の深部体温が下がりにくくなるというデータもあり、これが熱中症につながると見られている。
もちろん睡眠不足は熱中症以外にもさまざまなリスクにつながる。例えば睡眠不足のドライバーの交通事故の発生率は数倍から十数倍に増加し、脳卒中や心臓麻痺などの突然死の発生率も跳ね上がる。
このように、命を守る意味でも良質な睡眠を取る必要がある。今では一晩中、エアコンをつけっぱなしにするのは、「熱帯夜の常識」となりつつあるが、それでも「エアコンは苦手」という人は多い。そのために、アイス枕を使うなど、人知れぬ努力をしている人たちにとって強い味方となっているのが、冷感素材を使った寝具類だ。
冷感素材――日本化学繊維協会によると正確には「接触冷感素材」と呼ぶ。その名のとおり、触ると冷たく感じる生地のことだ。その特徴は、①繊維中に水分を多く含むこと②熱伝導率・熱拡散率が高いこと③触った時に少し硬く感じる――繊維で、生地に触れると肌から生地へ瞬間的に熱が移動するため冷たく感じる(日本化学繊維協会ホームページより)。こうした繊維を使った寝具が増えており、暑い夏になればなるほど人気を集める。
テレビコマーシャルでもおなじみの、ニトリの「Nクール」というシリーズもそうした冷感素材を使ったものだ。
Nクールは、昨年までに世界累計6400万個を売り上げている人気シリーズで、触った瞬間「ひんやり」を実感できる。
ニトリは毎月20日に月締めを行っている。今年6月は20日までは気温が低かったこともあり、既存店売り上げは前年比マイナスとなっているが、月末にかけてどんどん気温が上昇したことで、Nクールの売れ行きに火がついた。
店頭を覗けば分かるが、Nクールは大きなスペースで販売されている。猛暑日が続いた7月初旬の週末には、多くの買い物客が商品に触って冷たさを実感し、購入していた。そのためNクールの中には在庫切れとなったものも目立った。
これはニトリの公式通販サイトでも同様で、例えば「ひんやりケット」と名付けられたタオルケットは、今、注文しても、「8月上旬以降のお届け予定となります(7月3日現在)」と、商品到着まで1カ月も待たされるほどの人気となっている。それ以外の商品でも、品薄になっているものは多く、「6月下旬からとてもよく売れています。品切れなどでご迷惑をかけて申し訳ありません」(ニトリ広報部)。
また「ファッションセンターしまむら」などを世界に2千店以上展開するしまむらは、ファッションだけでなく冷感寝具も取り扱っているが、「ひんやり敷きパッド」の中には在庫切れの商品もある。このほか、大手通販サイトでも快眠グッズが飛ぶように売れている。
7月から増産体制に入ったヤクルト
このような、外部から体を冷やすことで快眠を誘うのとは全く違うアプローチで人気となっているのが、「ヤクルト1000」および店頭販売用の「Y1000」だ。「1000」の意味するのは「乳酸菌シロタ株」の数で、1本あたり1千億個のシロタ株が入っている。
製造・販売するヤクルト本社は医学博士の代田稔氏が発見したシロタ株を普及させるために誕生した会社だ。ビフィズス菌やガセリ菌など、乳酸菌には数多くの種類があるが、中には胃酸によって死んでしまい、生きた形で腸にまで届かないものもある。シロタ株の最大の特徴は酸に強く、生きて腸まで届き善玉菌として腸内環境を整えることができることだ。
誕生から既に80年以上になるが、その後の研究で、シロタ株を高菌数・高密度で摂取すると、ストレスを緩和し、睡眠の質を高めることが分かってきた。
もっとも一般的な「Newヤクルト」に含まれるシロタ株は約200億個だが、これを5倍に高めたのがヤクルト1000だ。2019年10月から首都圏などで先行発売し、昨年4月から全国販売に踏み切った。当初から販売好調だったが、今年4月にタレントのマツコ・デラックスがテレビ番組で「飲んでから眠りがよくなった」としゃべったことで人気が爆発した。そのため5月になるとY1000を本数制限で販売するスーパーが増え、その後、完全に姿を消した。当時はまだ宅配でヤクルト1000を届けてもらうことができていたが、6月に入ってからは宅配の新規受付を中止せざるを得なくなったほど。
本来であれば、寝苦しい夜が続く夏こそ飲みたい商品だが、これまで思うように入手できなかった。そこでヤクルト本社では、7月に入ってからY1000のラインを1本から2本に倍増し、増産体制を整えた。7月初旬現在、まだ品薄が続いているが、夏休みに入る頃には改善される見通しだ。
ヤクルト本社の前3月期決算は売上高が前期比7・6%増、営業利益が同21・8%増の増収増益だったが、その要因のひとつに、ヤクルト1000・Y1000の販売数量増がある。今期は、前期をはるかに上回る売り上げが確実視されるため、ヤクルト本社の業績が続伸するのは間違いない。
このように、現代の日本人にとっては、睡眠の質を高めることのニーズは極めて高く、ヤクルト以外にも、睡眠をサポートする機能性表示食品の人気も高い。またエスエス製薬が販売する睡眠改善薬「ドリエル」は、発売開始から20年目に突入したが、今なお販売を伸ばし続けている。
このドリエルの売れ行き好調もあり、今では「リポスミン」「アンミナイト」等、数多くの睡眠改善薬をドラッグストアで購入できる時代となった。
世の中が複雑化し、科学が進化し、変化のスピードが速くなった分だけ、人々はストレスを感じ、眠りの質が悪くなる。そこに猛暑が加われば、質はさらに悪化する。しかし科学の進化によって、少し前までには存在しなかった、快適な睡眠へと誘うグッズも増えている。「暑い、眠れない」と思ったら、無理せず、文明の利器にすがるのが一番だ。