2025年大阪・関西万博へのパビリオン出展をめぐり、ちょっとしたドタバタ劇があった。出展が内定していた大阪外食産業協会(大阪市)が、資金集め難から辞退すると一斉に報道されたが、一転、数日後の記者会見で取り消した。果たして、出展にこぎつけることはできるのか。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2022年11月号より)
万博辞退報道から一転出展を会見で発表
「全世界に向けて、『大阪の食』をアピールしていきたい」
大阪外食産業協会の中井貫二会長は8月12日の記者会見でこう述べ、出展へ全力で準備を進める考えを示した。数日前にメディアが一斉に報じた「出展辞退」を覆す、前向きな内容だ。
中井氏は、お好み焼きチェーン、千房の社長で、直前の5日、大阪外食産業協会の第18代会長に就任したことが発表されていた。
なぜ、協会の方針が変わったのか。
万博の運営主体である「日本国際博覧会協会」が、民間パビリオンへの出展が内定した13の企業・団体を発表したのは2月のことだ。
ここに名を連ねた大阪外食産業協会は、「新・天下の台所~食博覧会・大阪2025(仮称)」というテーマで出展する方針だった。
だが5月、万博協会が発表した各企業・団体のパビリオン構想の中には、大阪外食産業協会だけが「協議中」として入っていなかった。このとき、大阪外食産業協会は、既に辞退したい方針に傾いていたとみられる。そして8月初め、報道各社が、一斉に辞退方針を報じた。
大阪外食産業協会は1981年に設立され、今年3月末現在、「千房」「がんこフードサービス」をはじめ537社が会員となっている。
出展に後ろ向きになった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大で会員企業の経営が苦しくなり、パビリオン建設に必要な資金を集められなくなったことが大きいとみられる。
帝国データバンクが9月5日に発表した調査結果によると、全国の新型コロナ関連の倒産のうち、業種別で最も多いのは「飲食店」で607件。続いて「建設・工事業」(506件)「食品卸」(205件)などだ。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出なくなったとはいえ、感染を防ぐため、社用族を含め飲食店を利用する人が減っており、これが飲食業界を直撃している。
危機感は、中井氏が大阪外食産業協会の会長就任にあたって発表した次のコメントにもあらわれている。
「新型コロナウイルス感染症の拡大に端を発し、ご来店者の激減、原材料の高騰、労務環境の改善、人材不足など課題が山積し、関西のみならず外食事業者は最大の危機に直面しております」
一方、パビリオンの建設費は10億円から20億円に達するといわれる。外食業界はとうていこのようなお金を出せず、今でもまだ一部しか集まっていないもようだ。今後も、ここまで巨額の費用を集めるめどは、なかなか立たないとみられる。
また、業界周辺でささやかれているのは、「協会の体制が変わったことも、万博への姿勢を変化させたのではないか」という憶測だ。
中井氏の前任の第17代会長は高橋淳氏。焼肉やしゃぶしゃぶを展開する「ワン・ダイニング」の社長だ。万博へのパビリオン出展は、高橋氏が積極的に進めており、仮に出展資金が集まらなくても、高橋氏がある程度、カバーするのではないかという見方が業界では広がっていた。
その高橋氏が会長を辞め、旗振り役がいなくなってしまったことが、出展姿勢が後ろ向きになった理由の一つではないかというわけだ。
もっとも、8月12日の会見では、新会長の中井氏は一転、万博出展に前向きな発言を行った。資金集めの見通しが厳しいことに変わりはなく、資材費の高騰による建設費膨張といった悪条件の重なりもあり得るだけに、中井氏の発言は、だれもが驚きをもって迎えた。
万博は、国の威信もかかった国際イベントだ。いったん発表したパビリオン出展を引っ込めるとなれば、主催側も大きな恥をさらすことになる。ひょっとしたら、事前の報道を受け、国や万博協会サイドから大阪外食産業協会へ、なんらかの慰留が行われたのかもしれない……周辺では、そんな憶測が流れている。
経済効果への期待も低すぎる知名度
万博に向けては、国も着々と準備を進めている。8月末に締め切られた各省庁の23年度予算への概算要求には、前年度に続き、万博関連の費用が各種盛り込まれた。
経済産業省は、万博会場に出展する日本政府館(日本館)の建設費用、国際会議での万博のアピール活動の費用など25億円を求めた。
国土交通省は、万博関連のインフラ整備計画の推進や、会場へのアクセス道路「淀川左岸線」2期区間の整備などを計上。空飛ぶクルマの「社会実装」のための環境整備に向けた費用も盛り込まれている。
関西経済全体への好影響への期待も高い。民間シンクタンク、アジア太平洋研究所(大阪市)の最新の試算によると、22年度の関西経済の実質成長率は、前年度比1・8%増になる見通しだ。日本経済全体の成長率は、1・5%増になる予測で、関西はそれを上回る。万博会場の人工島・夢洲(大阪市此花区)の整備といった大型の工事などが進み、公共工事が全国を上回って伸びるとみられるからだ。
だが、万博に対する国民の機運はこれからといえる。
三菱総合研究所が今年4月、全国の20~60代の男女2千人を対象に行ったアンケートによると、開催中に「行きたい」とした人は全国で29・7%にとどまる。地域ごとでは、最も高い京阪神でも43・3%、首都圏は25・9%にすぎなかった。
これからは万博への注目をいかに集め、機運を高めていくかが重要になる。
例えば、7月に名称が決まった公式キャラ「ミャクミャク」は、デザインのユニークさと、変わった名称の印象的な語感により、インターネット上で非常に人気を集めている。こうした注目を集めている要素を、最大限、活用していくことが重要だ。
こうした中で、大阪外食産業協会が最終的に「出展辞退」を決めてしまえば、万博への機運醸成に水を差すことになるだろう。出展の実現に向け、国や万博協会がなんとかサポートする方法がないかなど、官民で知恵を絞ることが重要だ。