植村幸代 富士通Uvance(ユーバンス)本部Digital ShiftData Service事業部マネージャー(雑誌『経済界』2022年12月号より)
水を「保つ」だけではない使える水を「増やす」取り組み
水リスクへの企業の立ち向かい方はさまざま。22、23ページで取り上げた旭化成のように、処理膜などの技術を通して水質汚染防止に取り組む企業もあれば、18、19ページで取り上げたサントリーのように、地下水保全の観点から水不足などのリスクの低減に挑戦する企業もある。これらはいずれも、水資源を今まで通り使い続けられるようキープするための取り組みだと言える。
ところが、それらの企業とは異なる発想で水問題の解決に取り組む企業もある。海水や空気中に含まれる水蒸気などを生活用水に変えるための技術開発だ。
26、27ページでは、海水淡水化に取り組む東レを取り上げる。逆浸透(RO)膜などの技術を使って海水から淡水を取り出す方法で、全世界で市場が拡大しつつある。特に中東では石油輸出による潤沢な資金で、水インフラの中核として海水淡水化プラント建設が活発に行われているほか、北アフリカの産油国やスペイン、中国などでも、海水淡水化プラントや低濃度塩分除去プラントが続々と建設されている。そんな中でも日本メーカーの膜処理技術は世界的に注目され、海水淡水化用RO膜の市場の半分以上を東レ、東洋紡といった日本メーカーが占めていると言われるほどだ。
その他の画期的な技術として挙げられるのがAWG(Atmospheric Water Generator)、空気から水を生成する装置だ。国内でも既にこのAWGを搭載したウオーターサーバーが複数のメーカーから販売されている。生成方法はメーカーによって異なるが、取り込んだ空気を急速に冷やし、水分を結露させて水を生成する仕組みのものが主流だ。
また、現在日本で商品化されているAWG搭載のウオーターサーバーは電力を必要とするが、米Source Global社は太陽光の熱を利用して水を生成できるシステムを開発している。水の生成量はその日の天候や湿度に左右されるが、災害時の医療用水や飲料水の確保のためにも今後活用が期待される。このように、革新的な方法できれいな水を生み出す技術が世界各地で研究されている。
英企業とタッグを組む富士通純水を作る新技術を世界に
英Botanical Water Technologies LTD.(以下BWT社)は、植物由来の廃水から飲用水(ボタニカルウォーター)を生成する技術を編み出した。当初このボタニカルウォーターは水不足が深刻な地域などに寄贈されていたが、この技術をさらに世界中に広めるための取引プラットフォームを作るにあたり、富士通とパートナーシップを組んだ。以下では、富士通Uvance(ユーバンス)本部Digital ShiftData Service事業部でマネージャーを務める植村幸代氏に、このパートナーシップの内容や今後の展望について聞いた。
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ブロックチェーンの活用で安全で新しい水取引を実現
―― ボタニカルウォーターの技術は、どのような面で画期的なのでしょうか。
植村 濃縮ジュースや蒸留酒、砂糖などを製造する際、果物や野菜を圧縮して果汁を抽出するのですが、絞った後に残る水分はこれまで廃棄され続けていました。しかし、BWT社の設備をこれらの工場に導入することで、この廃水を精製して飲用水に生まれ変わらせることができるのです。これまで廃棄するしかなかった水分を純水に変える技術ですから、世界的な水資源不足の解決に貢献できる可能性を秘めていると言えます。
当社は昨年BWT社とパートナーシップを組み、この技術を世界中に広めることで、一緒に水資源の循環型経済の実現を目指すことになりました。具体的には、ブロックチェーン技術を用いた水取引プラットフォーム(Botanical Water Exchange:以下BWX)を作り、売り手側、買い手側が共に安心してボタニカルウォーターを取引できるような仕組みを整備しています。
―― BWXを通して、どういった取引が行われるのですか。
植村 現段階では、先ほど挙げた濃縮ジュース工場など、ボタニカルウォーターを生成する側が売り手、飲料水を販売する小売り業者や食品・飲料メーカーなど、水を原料とした製品を販売する事業者が買い手となって取引をするケースを主に想定しています。しかし、環境保全が目的なのにあまりにも長距離間で輸送することになると、大量の燃料が必要になるなど本末転倒です。そこで当社の仕組みでは、最短距離の売り手と買い手をマッチングさせて取引を行えるようになっています。
また、売り手と買い手の双方が安全に取引に臨めるよう、ブロックチェーン技術を活用しています。ブロックチェーン技術の利点はデータの改ざんが困難なところです。この利点を生かして、生成された水の品質や取引の安全性を担保しています。さらに、取引のデータからボタニカルウォーターの需要、供給量などを計測し、そのバランスに応じて価格を変動させるダイナミックプライシングを導入することも可能です。
もう一点、BWXの特長として、ウオータークレジット管理機能が挙げられます。カーボンクレジットと同じ仕組みで、水使用量の多い企業などがウオータークレジットを購入することで、使用分と同量のボタニカルウォーターを寄贈し、水利用を相殺(オフセット)できるというものです。
当社の技術を生かして、全く新しい水取引の形を実現させられたと感じています。
―― BWT社とのパートナーシップ締結の背景には、環境に対する強い思いがあったのでしょうか。
植村 はい。当社は昨年、サステナブルな世界の実現を目指す新事業ブランドとして、「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」を策定しました。これに沿って今後、サステナブルな世界の実現に向け、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを強力に推進していきます。BWT社とのパートナーシップもこの新事業の一環で、ブランドの名を冠したUvance本部が責任を持って進めています。
当社としては今後、構築したプラットフォームをプラスチックや二次利用製品の取引にも活用していきたいと考えています。水不足解消を皮切りに、あらゆる角度から環境保全に貢献していきたいです。