経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

グローバルな事業展開で「食生活」と「健康」に貢献 宝ホールディングス 木村睦

宝ホールディングス 社長 木村 睦

ウクライナ情勢や円安といった環境変化に大きな影響を受けることなく、堅調な成長を続ける宝ホールディングス。2025年に迎える創立100周年を間近に控え、安定性と成長性を併せ持つ老舗企業の今後について伺った。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

木村 睦・宝ホールディングス社長 

宝ホールディングス 社長 木村 睦
宝ホールディングス 社長 木村 睦

3事業をバランスよく展開し変化に強い経営体制を構築

 宝グループは、国内事業の宝酒造、海外事業の宝酒造インターナショナルグループ、バイオ事業のタカラバイオグループの3事業を展開する。宝酒造はウクライナ情勢に端を発する原材料や燃料価格の高騰に加え、円安による仕入れコスト増の影響を受けるも、グループ全体では業績への影響は軽微で、2023年3月期の売上高は過去最高を見込む。

 木村社長は「宝グループは、国内事業と海外事業のバランスが取れており、為替が振れようと大きな影響は受けない」と話す。

 22年3月末時点で国内13社、海外はアメリカやヨーロッパを中心に各国で46社を展開。バイオ事業の伸長に加え、海外事業の成長が著しく、バイオ事業を除いた海外売上高比率は23年3月期で50%超の見通しとなった。

 同社がアメリカの清酒市場に本格参入したのは1982年。以降、洋酒も含めた酒類の製造・販売会社を傘下に加え、イギリス、中国などにグループ企業を拡大していった。10年には海外日本食材卸事業を本格的にスタート。健康志向を追い風に13年、「和食」のユネスコ無形文化遺産への登録もあり、日本食が世界に拡大中だ。これに伴い清酒への関心も高まる中、同社の海外事業も右肩上がりの成長を続けている。

 「海外事業を始めた当初は売上高比率が50%になるとは考えていませんでした。それがリスク分散につながった。加えてバイオ事業も併せ持つことで、環境変化に対応できる経営体制となりました」

和酒・日本食市場とライフサイエンス産業の今後

 宝酒造では、原材料や燃料などコスト高の影響を受け、一層の合理化やコスト削減に取り組む一方、価格改定にも踏み切った。加えて少子高齢化や1人当たりのアルコール消費量の減少などの要因が重なり、「日本の市場全体はシュリンクしていくという前提に立たざるを得ませんが、国外では人口増加に伴う経済成長が期待できます。そこで国内事業と海外事業の協業を進めています。宝酒造が世界に通用する付加価値の高い商品を開発・製造し、宝酒造インターナショナルグループが海外市場に販売することで、着実な成長につなげていきます」と話す。

 この代表例がスパークリング清酒「澪みお」だ。シャンパンのような飲みやすさや日本らしいパッケージデザインで高い人気を誇り、輸出数量はこの10年で7倍に急増。アメリカを中心に世界39カ国で販売し、人気を博している。木村社長は「とはいえ、輸出量は日本国内の販売量と比較すると5分の1ほど。この比率を同程度まで引き上げていきたい」と話す。

 宝酒造インターナショナルグループでは、海外酒類事業と海外日本食材卸事業を展開。海外酒類事業は、酒類の輸出、アメリカ・中国での清酒を中心とした和酒の製造・販売に加え、「トマーチン」「ブラントン」といったスコッチやバーボンなど付加価値の高い商品を販売している。

 日本食材卸事業は、海外での日本食レストラン数も21年時点で約16万店と8年で3倍に増えており、今後も成長が見込まれている。特にアメリカは「最大の市場であり、経済的にも底堅いアメリカで日本食材卸事業を成長させます。8州9カ所の拠点を、資本提携も含め積極的に拡大し、日本食材卸のネットワークを拡充していく」と意気込む。

 タカラバイオグループでは、ライフサイエンスの新技術を積極的に取り込みながら、事業拡大を続けている。事業の基盤は、試薬・機器事業と製薬企業向けの医薬品開発・製造支援を行うCDMO事業。特にコロナ禍の直近2年間は日本をはじめ全世界のPCR関連製品の需要に応え、製造体制を増強しつつ安定供給を行ってきた。これが売り上げ増につながったが、木村社長はこう話す。

 「新型コロナウイルス関連製品の開発と供給は、企業の社会的責任として取り組んできたもの。コロナの沈静化とともに従来進めたかった研究開発を創薬技術開発にシフトし、タカラバイオの遺伝子や細胞を扱う技術を、現在も治療法が確立されていない難病に役立たせていきたい。例えば、遺伝子や細胞レベルで免疫に働きかけて病気に対抗させるといった新しい創薬技術で、次世代の治療法に挑戦していきます」

永続企業になるために今後さらなる飛躍を

 宝グループの強みは、国内事業で安定的な事業基盤を固め、海外事業とバイオ事業を成長エンジンとして、事業ポートフォリオを構築していることだ。

 「他社の真似ではなく独自性を持ち、強みを発揮できる領域で事業を展開・拡大してきました。今後も3つの自立した事業の幹を太くしていきます。事業活動を通じ、『豊かな食生活』や人々の『健康』など、社会のお役に立つことで、皆さまから必要とされる企業であり続けます」

 宝グループは、来るべき25年の100周年を通過点としてさらなる飛躍を目指していく。 

会社概要
創 業●1925年9月
資本金●132億円
売上高●3,009億円(2022年3月期)
本 社●京都市下京区
従業員数●4,934人(2022年3月末)
事業内容●酒類・調味料事業、海外酒類・海外日本食材卸事業、バイオ事業
https://www.takara.co.jp/