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「怖いものはない」元マッキンゼーが挑む英会話業界の変革 岡田祥吾 プログリット

岡田祥吾 プログリット

必要性を感じつつ、なかなか身に付かないのが英語力。2016年に創業したプログリットは、コンサルタントが伴走する完全パーソナル型の英語コーチング「プログリット」を軸に、業績を拡大させてきた。特にビジネス英会話に強みを持ち、トヨタやメルカリなど、法人の顧客も増加している。その魅力の本質は何か。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2023年4月号より)

岡田祥吾・プログリット社長CEOのプロフィール

岡田祥吾 プログリット
岡田祥吾 プログリット社長CEO
おかだ・しょうご 大阪大学卒業後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本企業の海外進出、 海外企業の日本市場戦略立案等、数々のプロジェクトに従事。同社を退社後、2016年9月にプログリット創業。英語コーチングサービス「プログリット」を主軸とし、サブスク型英語学習サービス「シャドテン」も展開。22年9月、東証グロース市場に上場。

レッスンではなく英語力向上という価値を提供

―― 「プログリット」の最も基本的なビジネス英会話コースは、3カ月で約60万円という料金設定です。さまざまな英会話サービスと比較して非常に高額ですが、なぜこの価格帯で勝負できるのでしょうか。

岡田 その他の英語教育サービスとは、提供する内容が全く異なるからです。従来の英語教育は、英会話レッスンという形が多く、例えば60分間英会話を教える代わりに5千円頂くようなモデルです。この場合、料金はレッスン稼働の対価です。しかし、プログリットにはレッスンに対価を頂く発想はありません。確実に英語力を向上させるという「価値」に、対価を頂きます。

―― 具体的にどのようなサービス内容で、「価値」の提供を実現しているしょうか。

岡田 特徴的なのは、英会話の先生がつかないことです。受講者には、当社が作成したカリキュラムを使って自習をしていただきます。そして、それぞれ専属のコンサルタントがつき、専用アプリなどを活用しながら生活習慣の改善までコーチングすることで、どれだけ仕事やプライベートが忙しい人でも英語学習を徹底的にやりきれるようにサポートをしています。

 英語学習を効果的に行うためには3つの要素があります。まず、良質な学習コンテンツ。次に、たくさんある学習コンテンツの中から自分に最適な手段を選択すること。そして、学習を継続することです。従来の英会話レッスンでは、主に1つ目しかカバーできません。当社は、その人にとって何が最適な学習方法なのか、どうすれば継続できるのかにフォーカスすることで、学習効率と学習時間を最大化し、短期間での英語力向上を実現しています。

 特に継続性は、英語に限らず何かを学ぶ際の障壁として大きなものですが、プログリットの受講生は1日平均2・4時間の学習時間を確保しています。一般的な英会話スクールで週1回2時間ほど学んでいるケースでは、平均すれば1日あたり20分弱です。この差が成果に大きく表れます。

―― しかし、自習をメインにして英語力を伸ばせるものでしょうか。

岡田 実際に、日経新聞社さんが提供しているスピーキングテスト等でも、利用者の英語力向上を証明する結果が出ています。また、受講生が口コミで広げてくれる力も強く、現在新規にお申し込みをいただいても数カ月お待ちいただく状況です。こうしたことも、プログリットの効果を実感していただいている証しだと受け止めています。

―― 自習をさせて料金をもらうというのは、これまでの英会話業界にはない発想です。どうやってこのモデルを作り上げたのですか。

岡田 私はもともと英会話業界のことを詳しく知りませんでした。英語力を伸ばしたいお客さまにとって何が最適な方法かを突き詰め、このモデルにたどり着きました。ある意味、アウトサイダーであるがゆえにイノベーションを起こせたわけです。

 ただ、他の業界にヒントとなるようなモデルはありました。その一つが、私が起業する前に勤めていたマッキンゼーです。マッキンゼーが顧客企業に対して何をしているかというと、例えば目標とする売り上げがあって、そこに到達するための課題分析や、解決の優先順位が高い課題の解決策を作っているわけですが、実行するのはあくまでお客さまですので、やり切ってもらうために徹底的に伴走支援するわけです。これを英語学習者向けに展開しているのがプログリットという感覚です。

リスクヘッジが足りないから恐怖が生まれる

―― 1月13日に発表した2023年8月期第1四半期決算を見ると、売上高は6億7400万円で、前期同期より20%以上伸ばし、営業利益は1億5400万円で55%以上伸びています。足元も非常に業績は好調ですが、逆に今の時点で怖いことは何でしょうか。

岡田 あんまりないかもしれないですね(笑)。というのも、おそらく怖いというのは、リスクヘッジを適切にできていないからだと思うんです。以前は、事業の柱がプログリットだけでしたので不安がありましたが、20年6月にサブスクリプション型の英語学習サービス「シャドテン」をリリースし、リスクヘッジができました。シャドテンは順調に伸びていて、営業利益の大幅な成長に貢献しています。

―― この先、どのように事業を展開していきますか。

岡田 教育領域のビジネスで成功するのは簡単なことではありません。例えば、医療の場合は病気やけがを治したいニーズが、今、目の前にあることが多い。ところが、基本的に教育は未来のためのものです。未来を良くします! っていうのは、ビジネスとして非常に難しい。でも、これから日本人は今以上に英語力を伸ばさないといけないのは間違いありません。英語力の障壁さえ突破すればもっとグローバルで存在感を発揮できる人がたくさんいます。

 プログリットは、「世界で自由に活躍できる人を増やす」をミッションに掲げています。そのために、メインサービスのプログリットを伸ばすことはもちろんですが、やはり高額なサービスですので、今後はシャドテンを筆頭にもう少し安価で顧客層の広いサービスを複数展開していく予定です。いずれは、年齢も英語レベルも価格帯も問わず、フルラインアップで全ての人の英語力向上を支援できるような世界観を目指します。また、英語教育というカテゴリーにとどまらず、グローバル人材の育成をするためのマインドセットなどの部分を含めた、総合的なグローバル人材育成会社を目指したいと思っています。

 市場を見れば大人向けの英会話業界は1780億円市場だと言われています。私たちは売り上げ20億円強ですから、言ってしまえば1%程度。まだまだ伸ばしていけると確信しています。