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加盟球団の商業権を一元管理。国内の新スタンダードとなるか 根岸友喜 パシフィックリーグマーケティング

根岸友喜 パシフィックリーグマーケティング

プロ野球と一口に言っても、セ・リーグとパ・リーグでは、ルール面で違いがあることはよく知られている。同様に、事業面でも両者には明確な違いがある。パ・リーグでは、試合配信権をはじめとする加盟6球団の商業権利の一部を、一元的に管理する仕組みがあるのだ。この仕組みはどういったメリットをもたらすのか。聞き手=小林千華 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年6月号巻頭特集「熱狂を生み出すプロスポーツビジネス」より)

根岸友喜 パシフィックリーグマーケティングCEO

根岸友喜 パシフィックリーグマーケティング
根岸友喜 パシフィックリーグマーケティングCEO
ねぎし・ともき 1976年、埼玉県生まれ。大学卒業後、JTBとジョンソン・エンド・ジョンソンでセールスとマーケティングを経験し、2007年に楽天野球団に入社。事業企画と広報の責任者を務めた後、13年パシフィックリーグマーケティングに入社、17年より現職。

6球団でやったらいいこと。1球団ではできないこと

―― パシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)とは、どういった企業なのでしょうか。

根岸 前提として、日本のプロ野球界の仕組みは他の多くの国のプロスポーツリーグとは違い、あらゆる商業権利をリーグではなく各クラブが持っています。ただ、パシフィック・リーグ(以下、パ・リーグ)においては、全体でまとまってやったほうが良いことは全体で行おうということで、加盟6球団の共同出資によって、2007年にPLMが立ち上がりました。「プロ野球の新しいファンを増やすこと」をミッションに、インターネット関連の事業をはじめ、マーケティングにまつわるさまざまな領域を担っています。

 設立のヒントになったのは、米メジャーリーグがリーグ全体でまとまってビジネスするようになったのがきっかけで、マネタイズの好循環が生まれたことです。04年頃からパ・リーグ内部では、東北楽天ゴールデンイーグルスや福岡ソフトバンクホークスの参入といった大きな出来事が重なったことを機に、内部構造の改革を求める声が上がるようになっていました。こうした流れで当社が設立したのです。

―― 根岸CEOの言う「6球団でやったらいいこと」、「1球団ではできないこと」とは、それぞれどんなことですか。

根岸 6球団でやったらいいこととしてはまず、ネットでの試合配信があります。テレビだと試合によって違うチャンネルで放送されますが、われわれがネットでの配信権を6球団分まとめて管理することによって、「パ・リーグの試合を見るときはパーソル パ・リーグTVにアクセスしさえすればいい」という状態を作ることができ、ファン目線での利便性が上がります。配信権の買い手目線で見ても、また、チームごとの露出と収益のバランスを管理しなければならないライツホルダーの自分たちにとってもシンプルで効率的。三方よしの状態です。

 1球団ではできないことについてですが、パ・リーグは球団それぞれの親会社の影響が色濃く、球団ごとの考えがバラバラです。また、楽天イーグルスやソフトバンクホークスなど、親会社がネット領域のノウハウを豊富に持っている球団もある。そんなふうにビジネスへの向き合い方が球団によって大きく異なるため、各球団が協働したいと考えた時などは、取りまとめるPLMがあることでうまく事が進む可能性もあります。

―― 6球団分のマーケティングをまとめて行うことによって、個別に行う状態と比べて、収益にはどれほどの差が出るのでしょう。

根岸 PLMでまとめて行っているのはネットの映像領域など一部の領域であるため、パ・リーグ6球団全体の売り上げに対して、PLM売り上げは数%程度の50数億円と、売り上げの割合はさほど大きくはありません。でも、利益に対しては相当大きなインパクトがあります。理由は、PLM売り上げの約70%を役務の対価として球団へ支払っているためです。

―― 事業のなかで、参考にしている海外のリーグなどはありますか。

根岸 プロ野球の新しいファンを増やすことが当社のミッションだと話しましたが、ここ数年個人的にも学ぶところが多いと感じるのが、NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のネット戦略です。スマホなどのモバイル端末で映像を見てもらう前提で動画撮影の画角を調整したり、ファンが試合の様子を切り取って二次投稿することを許容したりして、結果的にグローバルに若いファンを取り込んでいます。

 私たちがパ・リーグのファンの傾向を分析していても分かることですが、特に若い層には2、3時間に及ぶ試合時間に耐えられない人も多く、数分間のダイジェスト映像のような、短いコンテンツの需要が高まっています。

―― ネットの映像領域は、コロナ禍で一気に可能性を広げた分野です。スポーツ界ではパンデミックにより打撃を受けた企業が多かったはずですが、PLMはむしろ成長したのではないですか。
根岸 そうですね。業績はほぼ右肩上がりで、インターネットでの1試合平均のパ・リーグ試合中継視聴者数も、18年からの5年間で約6・2倍(PLM調べ)に成長しました。

 この要因は質問のとおり、当社の事業内容が時代の変化にマッチしたからですね。これまでスポーツというのは、試合をライブで見ることが絶対的な価値だったんです。実地観戦にしろテレビや配信にしろ、とにかくリアルタイムで見るもので、われわれスポーツ業界各社は、人々の1日のうち、せいぜい1試合分、3時間程度の可処分時間しか獲得できなかった。しかしコロナ禍で、人々がネットにアクセスしている時間はぐっと増えました。そこで、いつでもどこでも見られるコンテンツをYouTubeにアップしたりライブ配信を行ったりして、スポーツ関連のコンテンツにこれまで以上に長い時間触れてもらえるようになったことが、業績に影響しました。

日本のプロ野球の人気を海外でも伸ばしていきたい

―― ミッションにのっとってさらに新しいファンを増やしていくために、今後どういったことに取り組みますか。

根岸 これから日本の人口減少がさらに進んでいくことを考えると、今後さらにグローバルな市場をにらんでいく必要があります。現時点でパ・リーグの海外ファンとして多いのは台湾の方ですね。陽岱鋼さんや王柏融さんのようにパ・リーグで活躍する台湾人の選手もいますし、大谷翔平さんなど日本人選手の現地での人気も高いです。台湾でも約100万人近くがパ・リーグに関心を持ってくれていると思います。

 これからは他の野球人気の高い地域、たとえば北米やアメリカ、カナダ、ベネズエラ、場合によっては中米などにも市場を築いていければと考えています。日本の選手と欧米の選手では身体能力も体格も異なるので、試合のダイナミックさ、パワフルさでいえば、差がついてしまう部分もあるでしょう。しかし、単に野球の試合観戦だけを売りにするのではなく、eスポーツなど、伸びしろのある事業を取り込んでいくことも視野に入れています。また、大谷翔平選手の活躍が世界的にも話題ですが、彼のようないわゆるスター選手のビハインドストーリーも、求心力のあるコンテンツになりうると思います。そんなふうに、ただ試合を見せるだけでなく、よりエンターテインメント要素を足すことで、新しいファンを呼び込んでいくことが目標です。