【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方
こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。ちょっと時間が空いてしまいましたが、第7回目です。今回は「たくさん出たアイデアの選び方」についてお伝えします。ご質問をたくさんいただくテーマでもあります。(文=加藤昌治)
加藤昌治氏のプロフィール
今回も、まずは読者からのご質問と前回の復習
質問:アイデアがたくさん出たのは好いとして、どうやって絞ればいいのでしょう?
質問:発散と収束、と聞きますが、収束のやり方を教えてください。
今回もご質問ありがとうございます。せっかくいただいていたご質問にご無沙汰してしまって恐縮です。ぜひ第1回〜第6回を改めて読み返してもらいつつ、第7回目の「アイデアを選ぶプロセス」をお伝えします。
【これまでの記事】
第6回 アイデアの幅を広げる「云い換え」技を覚えよう
https://net.keizaikai.co.jp/63382
第5回 上司は正しいブレーンストーミングを覚えて実施しよう
https://net.keizaikai.co.jp/62737
第4回 「直感的な云い出しの技「死者の書」でアイデアを考えてみよう
https://net.keizaikai.co.jp/61215
第3回 アイデア出しの技「云い出し」と「云い換え」って?
https://net.keizaikai.co.jp/60794
第2回 アイデアは大雑把でいい。「質より量」でいい
https://net.keizaikai.co.jp/60466
第1回 「企画」と「アイデア」は同じモノではありません
https://net.keizaikai.co.jp/57991
前回までに「云い出し」と「云い換え」、2つの技を組み合わせることが大事。そして一人きりではなく複数のメンバーによって行うことで、数多くの、そして多彩で個性にあふれたアイデアをたくさん出すことができる。それがチームで考えることのベネフィットである、とご説明してきました。
アイデアA、B、Cという「云い出し」アイデアだけではなく、A’、A’’、C’’’’ と、云い出しアイデアがあるからこそ生まれる「云い換え」アイデア。2人以上のメンバーが集まることによって、当初は予想もしていなかったアイデア(選択肢)を手にすることができるのが嬉しいところ、でした。
好いアイデアを選ぶなら、ダメなアイデアに同情は不要
さて、この「云い出し」&「云い換え」を経て、どのくらいのアイデアが誕生したでしょうか? 数は多ければ多いほど好いです、でしたね?
さあ、多くのアイデアが出たならば、次は「好いアイデアを選ぶ」ステップに入ります。ここで「選ぶ」という言葉を使っています。図解では「選ぶ・だけ」とも記載してます。
ご質問にもありますが、一般的には「収束する」表記を使う人の方が多いでしょうね。ただ、収束イコール“合体”になってしまうときがあるんですよね。これ危険。せっかくの、ピンと立ったアイデアが、他アイデアと合わさってしまうことで焦点がボケてしまうリスクがあるからです。
ダメなアイデアに同情は不要です。好いアイデアだけを「選ぶ」もしくは「ピックアップする」が正しい態度。そして不採用なアイデアについては言及する必要がありません。なぜダメなのか、をご指導する場合を除き、数多い不採用アイデアの欠点を声高に指摘するのは単なるハラスメント。スルーしておいてください。
「選ぶ」ための第一ステップ、まず選択基準を決める
では、「選ぶ」ってどうするの? 「選ぶ」は、2つのステップに分かれます。まずは「選択基準を選ぶ(決める)」段階。続いて、「決めた選択基準に沿ってアイデアの順位付けをする」段階。この2つです。
選択基準の候補、つまり選択肢ってたくさんありますよね。皆さんのシチュエーションによっても大きく幅がありますが、一例を挙げれば「売り上げ」が見込めるもの、もあれば、「シェア」、いやいや「粗利」。はたまた利益は度外視で「新規性」なんてこともあるでしょう。スタートアップ企業だったり新規事業であれば、極端ですが「とにかく目立つ」が先に来る可能性も否定できません。21世紀にはあり得ない、と思いますが「社長のご家族が好きかどうか」なんて選択肢も・・・(冗談です)。なんにしても一義的な絶対解はない、のがビジネス界の現実。
プロジェクトの開始時点で選択基準が明確に指定されているならともかく、現場というのは好くも悪くも流動的だったりします。ということで、まず「選択基準の候補≒選択肢」を複数、多く並べた上で、今回のお題に最適な選択肢を間違えないように、それこそ「選ぶ」必要がある場合が多くなるんじゃないでしょうか。アイデアを選ぶに当たっての選択基準がズレていたなら、その先はありませんから。
という事情も含めて、ビジネスの現場ではそれが社内であれ社外であれ、提案相手をよく知っている方の見立て/判断が尊重されるケースが多くなるでしょう。
なお、選択基準が一つだけ、一軸のこともあれば、二軸になることもあります。これは状況に拠りますね。漏れをなくしたい! と考えると3つ以上の基準を使って、「総合的」に判断したくもなります。否定はしませんし、3つ以上になる現実もあるでしょうけれど、できれば選択基準の優先順位は上位2つぐらいまでに限定しておいた方が後工程は楽になる、というかスッキリする、とは思います。後ほど再度触れますが、いわゆる「ドングリの背比べ」状態に陥ってしまうこともあるからです。
「選ぶ」ための第二ステップ、アイデアの順位付けをする
さて選択基準が決まったら、次に行うことはアイデアの順位付け。すべてのアイデアを対象にする必要はありませんが、予選を通過したアイデアたちに順番を付けていきます。
最終的に何位までがその次、「企画として整える」段階に進むか? はプロジェクトの条件次第です。社長から「1つだけ持ってきて」と、最上位のみを求められることもあるでしょうし、社外のお客さまには2〜3案を整えて、というチョイスもあるあるです。顧客に対して「オススメはこれ一択です!」と提案するの、個人的には憧れますけれども。
話を戻します。順位付け作業として、いわゆる「点数」を付ける方法もありますが、会議室のテーブルの上や壁面、あるいはデジタル上の「机(壁、かな?)」に、予選通過アイデアスケッチ(紙でもデジタルでも)を物理的に置いてみる方法もオススメです。素晴らしいアイデアと、普通のアイデアとの間にある価値としての距離を、物理的な距離として見える化してあげるやり方ですね。どれくらい素敵か? が一目瞭然になりますから分かりやすいです。
ところが・・・実際は下図になるケースもたくさんあります。つまりダントツのアイデアをチームが生み出せなかった場合です。好く云えば、一長一短。もしくはドングリの背比べ。こうなると、順位付け自体が・・・まあ揉めるわけです。ご経験ある読者も多いのではないでしょうか。
もちろん時間があれば、再び「アイデア出し」に戻れるのですが、お仕事には締め切りがあります。よって残念ながら、まだ見ぬスゴいアイデアに出会う前に、泣く泣く決断を迫られることもあります。プロジェクトリーダーとしては、そうならないように、アイデアを出す時間をたっぷり確保しておきたいです、ホントは。
ということで、改めて「選ぶ」はツーステップ。「選択基準を選ぶ」「選んだ基準に沿って順位付けをする」。
そして、すでにお気付きの通り「選ぶ」プロセスには、それぞれに失敗があります。
前半の失敗は「選択基準の選びミス」。ありますよね。チームとして「新規性」を重視して基準としたのに、提案相手さんは「王道」を望まれていた! なんてケース。相手の意思をどこまで尊重するか、時には忖度するか? は議論のあるところでしょうが、結果として「ハズし」たら元も子もないのは当然のハナシ。
さらに、選択基準はバッチリだったりしても「順位付け段階でのミス」も発生します。本来なら2番手、3番手のアイデアを1位に選出してしまう失敗。見る目ない、ってこともあるのですが、アイデアの選択という特殊事情、構造に起因する理由もあります。
いまわれわれは、まだ企画として整ってない「アイデア(スケッチ)」を元手にして順位を判断しようとしています。ゆえに、まだ整ってない状態で、アイデアの本質と云いますか、そのアイデアが持っている価値を正しく理解できずに判断してしまうことがあるから、も理由なんです。
また、これちょっと申し上げにくいんですが、現実のビジネスシーンでは、「アイデアが先、選択基準が後」になってしまうケースもあるんだ、と思うのです。
部下、チームメンバーから出てきたアイデアで、もう本当に素晴らしい! これだ! というのがあった。しかし、与件として設定していた、あるいは想定していた「選択基準」とは、ちょっとズレているかもしれない・・・むむ〜・・・なんてケース。
「これ!」なアイデアって、それなりに「選択基準」を満たしている確率が高い、と想定はできますし、個人的な経験では実際そうだな、なんですが、ものすごーく厳密に順位を付けてしまうと、設定した選択基準では2番目、でも総合点では1位なんだよね、なんてこともある。アイデア優先で選択基準の方を動かすのは、本来的にロジカルじゃないわけなんですが、「勝てる」アイデアで勝負したい! のも現場マネジャー、管理職である皆さんのの気持ちでしょう。その先はフクザツなので詳しく立ち入りませんが・・・ムニャムニャ。
そして、選ぶ側に立つ人ならではのご苦労が「選ぶ」にはあります。まずは数多くのアイデア(スケッチ)を全部、かつ公正に見ること。10枚(案)や20枚(案)だったら、まあ楽勝ですが、200枚、300枚となってくると・・・正直、見るだけでも一苦労。アイデアを「ミル体力」が必要なんです。
部下の皆さんが慣れない間はアイデアスケッチに描いてある、その1行2行が分かりにくかったりします。抽象度が高すぎて何のことやらだったり、たぶん●●と云いたい/書きたいのだろうけど、実際に描いてある表記だと、なんかピントがズレていたり。
さらに手描きだと、そもそも字が読みにくかったりして。それが3桁、ともなれば、そりゃ体力必要です。当然疲れます。疲れるんですけど、素敵なグッドアイデアがどこにあるのか、は分かりません。また困ったことに、最後に固まっていたりするんですよね・・・。
上記に「ピックアップする」と書きました。全てのアイデア(スケッチ)に目は通しますが、品評までは不要。つまり数多いアイデア群に対して、ダメなアイデアはスルーする、言及しない。でOKです。その代わり、全部をちゃんとミル。そして「これは可能性ありそう」をピックアップしていく。それが「選ぶ人のお作法」になります。
そして、仮に200案あったら、最初の10枚と最後の10枚、判断基準が異なってしまうこともあるでしょう。それでは公正な判断=ピックアップはできません。「選ぶ人」であるならば、最低「2周」はしたいところです。ってことは200案×2回=400回。かなりツライのです、選ぶとは。
未整備のアイデアは着地しない。が、経験で判断はできる
さらにもう一点、気をつけたいというか、ある意味「常識」である、と踏まえておいて欲しいことがあります。
まだ整えられていないアイデアは、おそらく「そのまま着地はしない/できない」ことが大半です。アイデアスケッチに記載してあることが理想=数値100、だとしたら、企画として整えていく過程で、90,85・・・75と「減って」しまいます(次回、詳しくお伝えします!)。こうした「目減り分」なども視野に入れつつ、順位をつけたい。と云うか、付けなければならない。云うは安し、なワケですが・・・。このあたり、実はベテランの経験が生きるところでもあります。
反対に、「じゃあ、すべてのアイデアを企画化してから判断すればいいじゃない?」論もあります。こちらはアイデアを企画に整えるまでの工数、コストをどこまで負担できるか、とのせめぎ合い。
私見ながら、経験ある方、すなわち管理職や役員級のお立場であれば「そのまま100にはならないけど、85ならイケる」判断は可能だと考えています。それは経験があるからこそ、「●●さんに頼めばイケるかも」など、もともとのアイデアが持っていた価値をできるだけ減衰させないためのネットワークや手法、時には「獣道」をご存じだからですね。
ということで、経験ある方々であるからこそ、目の間に並んだ「まだアイデア」を未渡し、固まりきってない状態なのだけど/多少は劣化するのは分かっていつつも、「まだアイデア」に対する順位付けはできる、が持論です。
※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!
質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)