積極的な中小企業支援活動を展開する福岡商工会議所。中でも谷川浩道会頭は「取引適正化問題」の解決を重視し、官民一体で取り組んでいる。一方で、世界的な富裕層を視野に歴史や文化を生かす「FUKUOKA」の都市像を描き提案している。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)
AIにできない心のこもった信頼される仕事を
「コロナ禍は福岡商工会議所(以下、福商)にとっても大きな試練でしたが、できうる限りの諸施策を講じて多くの会員のよりどころとなり、職員が仕事の喜びを知ったことは大きな財産となりました。これを教訓に真に会員の役に立つ会議所に成長させたい」と意気軒昂に語る谷川会頭。
実際、福商への経営相談は、コロナ禍前は年間4千件ほどだったが、2020(令和2)年度は約8倍の約3万3千件に跳ね上がった。当初は資金繰りを中心とした金融相談が多かったが、次第に事業再構築補助金などの前向きの内容が増えたという。
谷川会頭が重視するのは商工会議所の通信簿ともいえる会員数。コロナ禍以降、着実に増え続け、2万社に迫る勢いだ。「職員には来訪会員に対し、相談を受けてから1カ月後に必ず電話し、相談した結果はどうだったか、順調に進んでいるか、不満はなかったかなど、聴き取るよう指示しています。大事なことは信頼であり、それがなければ会員数は減ります。AIに取って代わられるような作業でなく、人間にしかできない心のこもった活動こそ商工会議所本来の役割だと思います」
コロナ禍での生き残りの支援から前向きなチャレンジへの支援に注力する中で、企業経営の考え方には勇気ある決断も必要という。「(経営が苦しくても)継続したいという気持ちもよく理解できるが、将来の見通しが立たなければ、新たな体制や資本で再チャレンジする選択もあっていい」と指摘する。
価格転嫁は最重要課題。中小企業者の声を代弁
コロナ禍に続き、中小企業は原材料費や光熱費の高騰、それに人手不足といった逆風に晒されている。特に問題なのは、相対的に経営体力に劣る中小企業が、コスト上昇分を取引先に価格転嫁できないことだ。この取引適正化問題に話題が及ぶと、谷川会頭は一層語気を強めて「円安の恩恵を最も受けているのが大企業。為替差益で過去最高の利益を得ている大企業こそ、適正価格での取引で中小企業に還元すべきだ」と言う。
一部でも価格転嫁できている中小企業は約7割といわれるが、「金額が適正で、経営の安定につながっているかといえば、決してそうではない。(適正に転嫁できているのは)1割程度にすぎない」と分析する。福商として、手をこまねいているわけにはいかない。
23年5月、福岡市で「『パートナーシップ構築宣言』拡大で、適正な取引価格の実現を!」をテーマに、県内の産官労23団体が集結してフォーラムが開催された。約600人の参加者を驚かせたのが、政府側から公正取引委員会の古谷一之委員長、中小企業庁の小林浩史事業環境部長らが登壇したことだ。谷川会頭の「官民一体となって問題解決する」という強い意志が感じられた。
冒頭「取引上、立場の弱い中小企業が思うように価格転嫁できない実態が浮き彫りになっている。『物価と賃金上昇』の好循環に向け『取引適正化』は日本の最重要政策課題だ」と強く宣言した。その姿はまさに「吠える会頭」を体現している。
富裕層が訪れる自然文化豊かな都市に
ホテル業界で世界トップクラスの「ザ・リッツ・カールトン福岡」が23年6月、福岡中心部に開業した。博多湾の夕日を見ながら飲食を楽しめるバーや、国内最大級のスクリーンを備えた宴会場(会議場)もあり、最上級のスイートは1泊250万円を超える。
谷川会頭はマスコミ各社の取材に「福岡が一流都市と認められた結果であり、世界中の富裕層をお招きする最低限の要件がそろった」と語った。さらに「このほどフランスのニースを視察したが、人工的に造られた約7kmのビーチには長期滞在しながら日光浴や海と戯れる欧州富裕層の姿があった。カジノで知られるモナコにも近く、プライベートジェット機の発着が引きも切らない。福岡市およびその近郊にも風光明媚な砂浜があるが、その価値に地元が気付いていない」と指摘する。
福岡市内はいま「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」などの都市再開発で活気に満ちているが、谷川会頭は「新たな箱ものだけでなく、豊かな歴史や文化を取り入れた都市開発、郷土愛あふれるまちづくりが必要だ」と指摘、世界の富裕層をも引きつける魅力あふれる「FUKUOKA」の未来を提唱する。